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中編4
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見える人、見えない人

「もうこんな時間か~」

深夜1時、遠出をした帰り山道を車で走っている。

「ごめんね~、付き合わせちゃってさ。」

隣には汀を乗せて走る。

以下回想

「おねがい!」

俺の前で手を合わせてお願いしてくる汀。

「一人で行くの嫌でさ。ついてきて!」

「嫌だよ…めんどk」

「ガソリン満タンにするからさ。」

「いいだろう。いつ行くんだ?」

食事を奢ってもらうより。ガソリンを満タンにしてもらう方がありがたい。

ガソリンを満タンにすると結構痛い出費だったりする。

車持ちにはわかるこの気持ち。

回想終

夜の山道ということもあり、不気味な雰囲気を醸し出している。

街灯はわずかしかなく、車のヘッドライトのみが頼りだ。

「俺さ…今なにか飛び出してきたら確実にはねるわ。」

「ちょっ。やめてよ、何それ。フラグ?」

「いや、マジな話。」

そんな話をしながら、まだまだ山道は続く。

30分は過ぎただろうか、遠くにトンネルが見える。

なぜトンネルがわかるかと言うと。

周りが、黒い絵の具を塗ったような暗闇のなかにぼんやりと、トンネルの中のオレンジのライトが見えるからだ。

「トンネルってさ…」

汀が口を開く。

「深夜にトンネルの中でクラクションを三回鳴らすと何か起きる。とかいうよね。」

「よくある都市伝説だな。三回鳴らしたあとに、車を叩くような音がして、急いで下山して窓を見ると手跡があり、ガソリンスタンドによって窓を拭くと手跡は中からついていた。みたいなやつな。」

「そうそう。あるのかなぁ?」

「さぁなぁ。もしかしたら本当に経験した人もいるかもな。」

遠くに見えたトンネルが近づいてくる。

ん?

俺は静かに車を停め、ヘッドライトを消す。

「どうしたの?」

「トンネルの中に車がいる。」

「トンネルだし、車がいてもおかしくないんじゃ?」

「あの車、止まってる。トンネルの中で普通車は停めないだろ?停めるとすれば、トンネルに入る前か、トンネルを出た後だ、追い越しのできないトンネルの中で停めたりなんかしないさ。」

「確かに…、え?んじゃぁあの車何してるのかな?」

テールランプはついてる。

エンジンがかからない等のトラブルではないだろう。

恐らくは故意に停めている。

「さっき話したこと覚えてる?」

「都市伝説の話?」

「うん。たぶんそういうことをしてるんじゃないかな?予想だけどさ。」

「なるほど。そうかも。」

「そんで、停めた理由は中でクラクション鳴らしたりしたときに同じ空間にいたくないからさ。こっちには全くその気はないのに、トンネルの中にたまたまいたってだけで巻き込まれたくないからな。前のやつらがやることやったあとに抜けよう。」

5分ほどたっただろうか

プーッ…プーッ…プーッ…

三度のクラクションがトンネルを駆け巡る。

反響した音が聞こえてくる。

「鳴らしたね。」

汀が口を開いた。

「あと5分くらいしたら抜けよう。」

さて…

エンジンをかけ

ギアをDへ入れる。

ヘッドライトをつけトンネルへと入って行く。

ァー!

車の走行音に混じり何かが聞こえる。

「ねぇ?」

汀が声をかけてくる

声が聞こえたんだろう。

「ん?」

「今の…」

「どうした?」

「ううん。何でもない。」

例の車との距離が縮まってきた。

車は動く気配がない。

ただ、車のなかで人が暴れてるような影は見える。

ただ、見えない振りをする。

汀も口にはしないが異変には気づいてるんだろう。

「前の車動かないけど、どうするの?」

時間帯もあり、車は他にはいない。

対向車も来ていない。

古いトンネルということもあり、中央はポールのようなもので仕切られてはいない。

「追い越すさ。やってはいけないけど、この際仕方ない。

見えていたとしても助けるわけじゃない、自分の尻は自分で拭わないとな。

何かをするなら、何をされても文句をいってはいけないよなぁ」

「え?」

………………

彼はそう言い、口は開かない。

エンジン音に混ざった叫び声。

聞こえてないはずがない。

しかし、なにも言わない。ってことは私は気にしちゃいけないことなんだろう。

前の車に徐々に近づく。

ブゥォン…

車が加速する。

前の車とすれ違い、トンネルを抜けた。

「さて、あと一時間くらいかな。」

「運転よろしくお願いしま~す!」

「ガソリン満タンよろしく。」

私たちは夜の山道を車で走っていく。

「3500円…ガソリンってこんなにするのね…」

車に目をやる。

そうか…だから加速したのか…

彼にはやはり見えていた、車のなかで何が起こっているのか、車の外に何かがいたということに

彼は知らない振りをした、助ける気がなかったのか、助けられなかったのかはわからない

けど、彼がそうしたのなら理由があるのだろう

私は何も聞かない、彼は間違ったことはしないから

ボディーについた小さな手形をそっと拭いた。

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