あー!それ可愛い~!
そういう風にも出来るんだね~
お互い作って交換しよ~
これ作ったんだ…!
中高生の頃流行ったもの
ミサンガ
部活をしてる彼氏のために
友達と交換したり
アクセサリーに
自然と切れると願いが叶う
そういうジンクスをもとに流行った
オリジナルの色の組み合わせ、デザイン
個性が出るもの
そういう、ミサンガにまつわる話
…………………………………
午前の講義が終わり、いつものように学食で昼食を食べていると
「よう、隣良いか?」
同じ学科の鞍馬だ
「あぁ、良いよ」
「おまえさ、さっきの講義ノート取ってる?コピーさせてもらえね?」
正直、俺はこいつが苦手だ
友人とは対等の関係でいたい俺はいつも周りに借りまくってるこういつやつが嫌いだ
貸すこともあれば借りることもある。そういう関係なら貸すことは惜しまない。
ケチだと思うかもしれないが対等の関係だからこそ、言いたいことも言えて、言ってもらえる。
そういうものだと思ってる。
「いいよ」
しかし、断るってどうこうなるはもっと嫌だ。めんどくさくなりそうだから。
「助かるよ!」
手を合わせて形ばかりの礼を言い、ノートを受け取った。
その姿を一瞥したが、昼食のカレーに向き直った。
「これわかる?」
にやにやしながら見せてくる
「ミサンガ?」
「そう!彼女くれてさぁ~、俺こういうのつけるの好きじゃないんだけど、つけてくれって言うもんだからさぁ」
何て言ってくる。
よく言うわ、見せびらかしたいんだろ?
求めてる言葉はわかってる。
俺もそんな彼女がほしいわぁ
そんなことを言ってもらいたいんだろ。
わかりやすいなぁ。
「いいじゃん、俺もそんな彼女がほしいわ。」
たいして興味もないけど、昼食時にムッとした顔なんか見たくねぇから言ってやる。
「よく一緒にいる女の子がいるじゃん?あの子は違うのか?」
よく…あぁー、汀のことか。
「あの子はそんなんじゃないよ、友達だ。」
「そうなのかぁ、もったいないなぁ。あの子可愛いのになぁ。」
「ははっ」
愛想笑いで流した
ミサンガか…
…………………………………………
ノートも手に入ったし、次のテストもなんとかなるな
今日は誰と遊ぼうか
「もしもし、今暇?飲みに行かね?…よかった、んじゃあ8時に飲み屋に集合で。」
集まったのは男女合わせて7人
「そんで、これもらったのさぁ~」
「ミサンガ可愛いじゃ~ん!」
「でもさ、こういう手作りって重くね?『願いを絶対叶えてくれるから、いつも身に付けててね』ってさ」
「気にしすぎだよ~、鞍馬君のこと想ってのことだよ~」
三時間ほど飲み解散となった。
家に帰り、ベッドの上に寝転がった。
「願いを叶えてくれる…か」
テーブルの上においてある、借りたノートに目をやる。
「勉強せずに単位を取りたい!」
そんなうまいことないか
なに考えてるんだ俺は、寝よう。
なんだ…これは…
目の前には七つの糸が張ってある。
手には鋏。
どれかを切れってことか?
プチんっ…
目の前にあった赤い糸を切った。
「ん…」
夢か…
よくわからない夢だったな…
ふと手首を見ると、ミサンガが切れていた。
「中山教授が長期入院となったため、期末試験ではなく今までの授業を要約レポートとしてまとめ提出してください。」
そう貼り出されていた。
マジか…ラッキー♪
まさか、ミサンガが切れていたからとか?
そんなわけないか(笑)
にしても、腹減ったなぁ
時間は11:30ちょっと早いけど、昼飯にするか
学食へと向かう。
「よう。今日も一緒にいいか?」
「いいよ。」
こいつのことは正直よく知らない。
何度か実習などで一緒になったことがある程度。雑談なんてほとんどしたことがない。
あと、こいつのイメージは
煙草を吸ってる
あと、よく一人可愛い女子と一緒にいる
ってぐらいか。
「ノートありがとう。」
「結局レポートになったなぁ」
「そうだな、助かったけどさ」
昼食をとり、講義室に向かおうとしたがどうにも食欲がまだ残ってる
早く言えば、腹が減ってる
「悪い。売店によってからいくよ、先行っててくれ。」
売店へ向かい、パンを3つほど買った。
この日を皮切りに食欲が増していった。
朝昼晩問わずに
……………………………
食欲がおさまらない
このままじゃ、お金もかかる…ヤバイ…
なにか願いがあったら、このミサンガを着けて願って♪
この状況を変えるには…
藁にすがる思いで
俺はミサンガに願った
この食欲をもとに戻してくれ
夢を見た
前と同じ、糸と鋏の夢
黄色の糸を切った
……………………………
鞍馬のやつ、最近おかしいらしい
毎日バイトをしてるらしいぜ
部屋のものも全部売り払ったらしい
え?俺は色んなものを買いまくってるとも聞いたぞ?
「鞍馬…」
俺は鞍馬のバイトしてる作業現場へ来ていた
「よう」
前のような見る影はない
体を酷使しすぎてるせいかわからないが、やつれ、肌もボロボロになってる
「お前、糸を切ったんじゃないか?」
「え?」
「1度切った糸はもとには戻らない。結び直しても、元通りではない。俺がお前に言えるのは『もう何も願うな』それだけだ」
「…あぁ。わかった。」
「んじゃぁな。」
……………………………………
『もう何も願うな』
あいつに言われた言葉が頭に残る。
部屋も大分変わった
1度すべてを売り払い
バイトをしまくり
ものを買いまくり
体はボロボロ
大学にも行かなくなった
なにしてんだ俺…
前のように…前のように戻りたいな…
っ!………
まただ…何度目だろうか…
糸と鋏の夢…
切らなきゃ…切らなきゃ…
切ってしまったら…切ってしまったら…
どうしていいかわからない
けど、切らなきゃ…ずっとこの空間に取り残される…それはいやだ…
いやだ
いやだ
いやだ
いやだ
いやだ
いやだ
切らなきゃ
切らなきゃ
切らなきゃ
切らなきゃ
切らなきゃ
パチン……
目の前の白い糸を切った……
ここは…
「鞍馬、なに寝てんだよ、講義終わったぞ」
なんだよ…寝落ちってやつか
ベタだなぁ…そんなことを思いながら自分に苦笑いをしてしまう。
なんにしても、夢でよかった…本当に…
俺は生活を見直した
講義も真面目に受けるようになった
人との付き合いかたも見直した
今こうして毎日を過ごせることに感謝している!
…………………………………
聞いたか?鞍馬のこと
あぁ、眠ったまま目覚めないらしいな
植物状態?
いや、それとは違うらしいよ
本当に眠ってるだけなんだってさ
時折、寝言も言うし寝返りも打つんだってよ
「鞍馬…願うなって言ったのによ」
「彼が眠ったままの人?」
汀と二人で病院へと来ている
俺が行くと言ったら、暇だから自分もと着いてきた
鞍馬の見舞いだ
「あぁ」
「この人のこと苦手だったんでしょ?どうして?」
「確かめたいことがあったんだ」
ベッドのわきにあるテーブルの上にあったミサンガを手に取った。
「切れてるねぇ、なにか願いはかなったのかな?」
「さぁ?…やっぱりか…」
俺はミサンガを切れたところからほどいていった
「なに?…それ…」
「髪だ、おそらく鞍馬自身の」
色とりどりの糸に紛れて、髪が編み込まれていた
「なんでそんなものが?」
「『髪切り』って話がある。
人には七欲ってのがあるんだ
食欲、金銭欲、物欲、色欲、権力欲、名誉欲、睡眠欲
それぞれは自分の中に糸のようにあって、それを切ってしまうと対応する欲がきれてしまうんだ。切れてしまうと欲を抑えられなくなる
食欲を切れば、止まらない食欲
金銭欲を切れば金が手元にないと落ち着かない
物欲は何でも手にいれたくなる
悪いことばかりじゃない、1つの欲を切るごとに1つ願いが叶う。
代償の代わりに見返りもある。もちろん現実的な範囲でな。
地球が割れる、なんてのは無理だけどな
髪切りは自身の髪に願掛けすることで発動する」
「じゃぁ…」
「こいつは睡眠欲を切ったんだろうな。だから目覚めない。
詳しくはわからないけど、ミサンガを渡した人は何かしらの恨みでもあったのかもな。
切れれば願いが叶う。叶えば欲を1つ切る。ミサンガと髪切りを混ぜるのは実に合理的だミサンガに願いをする、髪が編み込まれていたら間接的に髪に願うことになるからな。
ミサンガと髪切りをこいつに憑けたんだろうな
もともと、髪切りってのは相手を壊すため、自分のものにする方法なんだ。
人は、努力なしに願いが叶えば味をしめるだろ?
努力なしで願いが叶えば最高だもんな。
色々願いを叶え、充実感を手にし
そこから人としておとしめるそんな方法だ。
どれだけのモノ、金、権力があっても、寝てしまったら意味ないな。
寝てしまえば、ずっとそこにいる。自分のモノにできる。
このミサンガを渡した人はどっちの目的からわからないけどな。」
「彼を起こすことはできないの?」
「無理だな。切れた糸はもとには戻らないだろ?もうこのままだ、このままの方がいいかもしれないけどな」
「そっか…」
「帰ろう。してやれることはなにもない」
そういって、病院を出た。
あなたのそのミサンガ、ほどいたことはありますか?
作者clolo