王子は、茨を剣で薙ぎ払いながら、道を進んでいた。
この森の奥深くには、立派なお城があり、そこには百年の眠りの呪いをかけられた、美しい姫が眠っているというのだ。
王子は、婚期を焦っていた。
いい年になり、頭髪も薄くなり、おまけに不摂生の所為か、体も豚のように太っていた。
隣国の姫とも、お見合いをしても、やんわりと断られる始末。
そのうえ、この王子ときたら、極端な面食いである。
街の娘に恋して、告白するも、見事に玉砕ばかり。
一度は王室の財産目当ての女と結婚するも、その女は王子との営みを拒み、世継ぎを残すこともならず、離婚。
王子は、この森の奥深くで眠る美しい姫の噂を聞きつけ、こうしてはるばるやってきたのだ。
何でも、今年が百年の呪いから覚める年であるということで、各地から王子がこの森に集まってきた。
その一人がこの王子だ。
まだ誰一人、姫を見つけた者はいないという。姫は、噂によると、百年の眠りの呪いを解くべく、キスをした王子と結ばれるというのだ。
こんなチャンスを逃してはならない。
王子は、鍛冶屋に特別に作らせた、よく切れる特製の剣を携えて森へと進んだ。
「待ってろ、姫。君の唇を奪うのは、この僕だ。」
そして、ついに、王子は見つけた。
「やったぞ!見つけた!これが眠れる森の美女が住むお城だ!」
茨の絡んだ重い鉄の扉を切りつけると火花が散り、茨は解け、扉は簡単に開いた。
広い城の中の最上階に、その美しい姫は眠っていた。
王子は鼻の穴を膨らませた。
「なんて美しい姫なんだ。」
王子は、姫に近づくと、その小さな花のような唇にキスをした。
そのとたん、姫は目をさました。
よし、やったぞ!これで姫は僕のもの!
姫は、さらに、かっと目を見開くと、王子の唇を自分の唇の中に吸い込んだ。
えっ?なに?
それが王子の最後の記憶だった。
ずるずると王子は、姫の中に取り込まれて行く。
最後に足がスポンと姫の口におさまると、姫はごくりとのどをならした。
「げふっ。」
大きなげっぷをすると、姫はぺろりと舌なめずりをして、再び眠りについた。
作者よもつひらさか