「セラちゃんは、蛍は好きか」
私が5、6歳ぐらいだった頃、祖父母の家の庭で、蛍観賞をしていた時に、祖父から言われた言葉だった。
「うん…ピカピカしてるから、嫌いじゃないよ…」
すぐ目の前を飛ぶ蛍を見ながら、私は若干落ち込みながら答えた。
どうして落ち込んでいるのかというと、昔の私は、蛍は昼間でも光っているものだと思っていた。
しかし、数日前にその思いは破られた。
昼間、葉の裏にいたリアルな蛍を見て、大泣きをしたばかりだった。
「そうか」
その事を知っている祖父は、私を見て微笑んでいた。
「じゃあ、セラちゃんは何が好きなんだ」
「んー、何だろう…」
暫く考えた末に、
「蝶々が好き!」
と、私は笑顔で答えた。
そんな私の頭を撫でながら、
「そうか、じゃあ、お祖父ちゃんは蝶々になろう」
と、祖父が言ったところで記憶が途切れていた。
時が流れ、私が高校に入学した年に、祖父が闘病の末に亡くなった。
悲しみが大きすぎたせいか、葬式の時の記憶が断片的にしか思い出せなかった。
それでも、一番記憶に残っているのは、笑顔の祖父の遺影を挟むように、脇に置かれた蝋燭が、手を振るように、ゆらゆらと揺れていたこと。
空調はつけていたが、蝋燭にはあたらないよう、向きを変えてもらっていた。
人の動きで揺れているとも考えられたが、それにしても揺れすぎだと、見ていた家族のみならず、親族の間でも、話されていた。
そんな場面が印象的な葬式が終わり、高校を無事に卒業し、大学に通うことに慣れ始めた、ある真夏の日。
大学への通学路を歩いていた時。
あまりの暑さに、ふらふらとした足取りで、道の先の蜃気楼を見ながら歩いていると、蜃気楼の中に白い紙のようなものが、ひらひらと舞っていた。
「何あれ?目がおかしくなったかな」
と、ぼんやり考えながら歩いていると、その白い何かが私に気づき、一直線に近づいてきた。
「なんで此方にくるの」
歩くだけでも辛いのに、避けないといけないと思うと、一気に気分が落ち込んだ。
必死に動かしていた足も止まってしまった。
なのに、白い何かは私に向かって尚も、ひらひらと近づいてきていた。
暑さの中、ぼんやりと見つめていたせいか、私の1メートル手前にきて、やっと、その白い何かの正体に気がついた。
「えっ!蝶?」
白い何かは紙ではなく、蝶だった。
それも、紋白蝶のように白い羽なのに、揚羽蝶のように大きな蝶だった。
実際にそのような蝶がいるのかもしれないが、この時の私にとっては、初めて見る蝶だった。
「綺麗な蝶だな」
と、思っている間も、蝶は私に向かって近づいてきた。
尚も近づいてくる蝶に、
「ぶつかる!」
と思い、顔を背けた瞬間、蝶が目の前で煙のように消えてしまった。
辺りを見回してみたが、蝶らしきものは見つけられず、蜃気楼のみがゆらゆらと揺れていた。
それから、毎年に1回以上は白い蝶を見る事になった。
季節は夏。
お盆が近づくと、何処からともなくやってくる。
歩いている時に見かける事が多いが、現れる場所は決まっておらず、庭先にいた事もあれば、車の中や、部屋の中にもいた時があった。
辺りをひらひらと舞った後、煙のように消えるのは毎度の事だった。
白い蝶の正体については、未だに分からない。
思い出から、祖父の可能性が高いが、正確な事は分からない。
蝶なので、喋る事も鳴く事も出来ず、問いかけても返事はなかった。
せめて、鳴く事の出来る動物にすれば良かったと、今さら後悔している。
今年も、お盆がやってくる。
そろそろ、白い蝶が現れる頃だろう。
作者セラ
最近猛暑が続いておりますが、如何お過ごしでしょうか?
今回は怖いっていう感じではなく、不思議な感じの話です。
同時期に書いている、もう一話は怖い話になりますが、いつ完成するのか…
来週か再来週には投稿したいなと思っております。
毎回ですが、誤字、脱字あったらすみませんm(__)m