長編14
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返してよ

大学生の頃、1人暮しをするため、春休みを利用して引っ越しをした。引っ越し先は叔母の家。

叔母は、3年前に結婚した息子、つまり私の従兄弟と2世帯で暮らす事になり、そしてちょうど私の1人暮しが決まったので、家を貸してくれる事になったのだ。

少し古びたマンションの一室で、光熱費と食費以外はお金もかからず、家具は残していくから自由に使っていいとの事だった。

引っ越し作業は無事終わったものの、実家の自分の部屋からかなりの量の荷物を持ってきてしまったため、荷ほどきが大変だった。

大量の漫画とDVD 、服の山に悪戦苦闘し、途中から頭がこんがらがってベッドに倒れ込んだ。

ベッドの向かい、目線の先には木製の古いクローゼットが置いてある。戸が開けっぱなしになっている空っぽの木枠をぼんやり眺めていたのだが、何か違和感を感じた。何かリボンのような、光沢のある切れ端がクローゼットの背板からはみ出ていた。

近くで見るとそれはリボンではなく、フィルムだった。それも、引っ張ってみると、どんどん背板の隙間から出てくる。

もしかして、と思った。床に散らかしたものをベッドに乗せ、自分の背丈より少し高いクローゼットを思い切り力を入れて壁から離す。

パラパラッ、という音がした。

斜めにどかしたクローゼットと壁の間から、こんがらかったフィルムが出てきた。それもかなりの量だ。

なんでこんなところに?としばらく困惑したが、

きっと叔母の忘れ物だろうと思った。

見た感じ古そうなフィルムで、ケースらしきものが見当たらなかったので、とりあえず空いた段ボールに保管しておくことにした。

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それからしばらくして夏休みになり、友達が部屋に遊びに来た。 

SNS内のコミュニティで知り合い、オフ会で意気投合した映画好き男女3人で、私の部屋で映画鑑賞と飲み会をすることになっていた。仮に田畑(男)、勝田(男)、ユキ(女)とする。

3人とも同い年の大学生で、学校は別々だが、休みが合えばしょっちゅう遊びに行く仲だ。

最寄りの駅で待ち合わせをし、スーパーで食材と酒を調達して部屋に向かう。

両親は共働きで多忙のためなかなかこっちに来れず、この部屋に来たのはこの3人が初めてだ。

昼から夕方まで、映画を1本観ては飲み、1本観ては飲みの繰り返しで、皆かなり酔っぱらってしまった。

夏休みということもあり、その日は3人ともうちに泊まることになり、ユキと私は寝室で、田畑と勝田はリビングに雑魚寝してもらうことにした。

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一晩経ち、やや二日酔いでベッドでぼーっとしていると、

「ねえ!このフィルム何?」と声がした。

先に起きていたユキが、部屋の窓側の角に置いてある段ボールを眺めながら聞いてきたのだ。

引っ越しの後段ボールに入れたまま、その後講義とバイトで忙しく、すっかり存在を忘れていた。

ユキは、段ボールからはみ出したフィルムの絡まりを少しずつほどきながらまじまじと見ていた。

そして田畑と勝田も起きてきて、ユキがフィルムの事を話すと興味津々で段ボール箱から取り出した。塊のままごそっと出てきたフィルムは、所々、焼けて傷んだ箇所がみられた。

「クローゼットの裏から出てきたんだけど、もしかしたら叔母さんのものだから、返さないとなー」

と話すと、田畑が

「じゃあさ、返す前に、ちょっと修正して観てみない?俺、これくらいのフィルムの劣化の修正なら多分出来るよ!」

と自信ありげに言った。

田畑は大学の映画研究会に所属していて、以前暇つぶしと興味半分で、傷んだフィルムの修正をしてみたら直ったことがあり、今回もそれで直せるのではないかということだ。

プライベートの映像かも知れないし、こっそり観るなんて失礼だと最初は思った。だが、大事な映像ならあんな場所に残していないはずだし、実をいえばこのフィルムに何が映っているのか観てみたい、という好奇心が勝った。

結果、田畑がフィルムを持ち帰り、修正したら4人で鑑賞し、きちんとしたケースに入れて叔母に渡そうということになった。田畑にお礼に飯をおごる約束をして、バイトがあるため最寄り駅まで向かい、その日は4人とも解散した。

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2週間後、フィルムの修正が終わったと田畑から連絡が来た。映研の部室を借りて上映することになり、私、ユキ、勝田の3人で田畑の大学の正門に集まった。

正門まで迎えに来た田畑は、昨夜から部室に篭って作業をしていたようで、目にクマが出来ていた。しかし修正が上手くいったのが余程嬉しかったらしく、誰よりもテンションが高かった。

「他大学の映研とフィルムの合同研究会」と題した紙が部室の扉に貼られていた。

田畑がこの日のために1日貸し切りにしたのだ。

部室に入ると、入り口に映写機、奥の窓側に映像を映す白い幕が掛かっていた。フィルムも既にセットされていて、いつでも上映可能になっていた。

こんなことしてしまって本当に良かったのだろうか。と、少し不安になった。

田畑から連絡がくる間、私はずっと叔母にフィルムの存在を伝えるかどうか迷っていたのだ。

連絡しないと、と従兄弟の家に電話をかけようとするのだが、直前で何故か嫌な予感、とでもいうような違和感を感じ、やめてしまうのだ。

両親にも相談しようと思ったのだが、叔母と母は姉妹(叔母は妹)でありながら縁が薄く、疎遠になっているのできっと知らないだろうと、家族の誰にも話せないまま、今日まで来てしまった。

今更もう引き返せない。とりあえず観るだけ観て、すぐに返そう。

席につき、そう考えている間に、田畑が部室の照明を落とした。

「プロじゃないから100%ではないけど、傷みはほぼ直したよ。俺もこれから初めて見るから出来が楽しみ!」

そう言いながら、映写機のスイッチを押し、上映が始まった。

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映し出されたものは、結婚披露宴の映像だった。結婚行進曲をBGMに、ドレスとタキシードに身を包んだ新郎新婦が、スポットライトに照らされながら披露宴の会場内を笑顔で進んでいく。

テーブルに座る参列者が拍手を送っていた。照明とカメラのフラッシュの光が強く、目がチカチカした。多少画面と音声の歪みはあるものの、古いフィルムだからまあ仕方ないよな、と思った。

若い新婦の顔に、見たことのある面影があった。

これ、もしかして叔母さん?

そう思った次の瞬間、

バキッ!!!

という音と共に急に画面がテレビの砂嵐のような状態になり、驚いて全員小さな悲鳴を上げた。

「うおー、マジビビったわー」

と田畑が言った。ユキは戸惑いながら、

「田畑君さぁ、もしかして間違えてフィルムつぎはぎにしたんじゃないの?」と、強い口調で言った。

「いやいや、それは無いって!全部調べたけど、途中で切れてたりとかは無かった。これ、全部ひとつなぎのフィルムだから!」

砂嵐の映像がしばらく続いていた。

3分程経っただろうか。映像が変わった。

暗い空間に左斜め上方から微かに光が差し込み、細長い廊下が映し出されていた。左右は壁になっており、廊下の先、突き当りに引き戸があるのが見えた。

引き戸は少しだけ空いていて、その先は真っ暗だ。ザー…というフィルムの回る音と、パチパチ、というフィルム特有のノイズ音、そして、映像の中で聞こえるゴォー…という低い何かの音だけが部室に響く。定点カメラなのか、ずっと定位置から映像が動かない。

4人とも何も喋らず、ひたすら画面を見つめていた。

5分経っても、同じ画面のまま。

しかし、かすかに光の照らす角度が変わっているため、フィルムが止まってしまったという訳では無さそうだ。

次第に退屈と気味悪さが増していく。

すると、引戸が少しずつ開き始めた。

勝田が、某有名ホラー映画の主題歌をふざけてひそひそ口ずさみ、ユキに「うるさい」と頭を叩かれた。

引き戸から足が出て来た。膝から下、裸足だ。

足はこちら側にゆっくり向かって来る。

足音がしない。音声が録音されていないのか?ってくらい。

「あれ、なんだ…?」

田畑が呟いた。よく見ると右の足元に何か黒いもやのような塊があった。

黒い塊は足にくっついているようで、こちらに向かって来る足と一緒で、見え方が大きくなっていく。

何か紐のようなものがもやの上部から出ていた。

そして、足が廊下の半分辺りまで来たとき、その黒い塊の正体が何なのか気づいた。

髪の毛だ。

紐に見えたのは、幅が太い布で、所々に染みのようなものがあった。

長い乱れた髪の毛が、引き摺られながらこっちに向かって来る。

布の染みは赤茶色で、乾いた血のようだった。

もしかして、これ、人の頭部?

冷や汗が顔を伝って流れていく。目を逸らしたいのに、体が固まって動かない。

お願いだ。このままフィルムが終わってくれ。

急に足が早歩きになる。足と髪の毛の塊が迫るように向かってくる。

髪の毛が乱れ、顔の辺りが見えそうになったとき、画面が明るくなり、再び結婚行進曲が流れ、結婚披露宴のシーンになった。

しかし、最初よりもかなり音声も画面も歪んでおり、新郎新婦らしき二人の姿はぐにゃっと縦長に曲がっていて、左右に小刻みに揺れていた。

そしてブツブツ、と何か話しているような声が聞こえたあと、パッ、と映像が消え、フィルムが終わった。

部室は静まり返り、セミの鳴き声が窓越しに聞こえるだけだ。

テーブルの向いに座っていた勝田と田畑が、何て言ったらいいのかわかんない…って感じの複雑な表情を浮かべていた。それは私も同じだ。

ただ、恐怖から解放され、一気に体の力が抜けた。

壁掛け時計を見ると、上映からわずか20分くらいしか経っていなかった。

田畑が映写機のスイッチを止め、部屋の電気を付けた。隣に座っていたユキが、「うっ」と呻いた。

顔が真っ青だ。そして口を抑え急いで部室から出て行ったので、慌てて追い掛けると、トイレで吐いていた。背中をさすり、吐き終わってぐったりしたユキを担いで外のベンチに座らせ、自販機で買った水を飲ませた。

田畑と勝田も駆け寄り、声をかけた。

私「ユキ…大丈夫?ごめん、ごめんね…あんなの見せてしまって。もう帰ろうか。家まで送るから。動ける?無理そう?」

田畑「ごめん…俺が調子乗ってフィルム観ようなんて言ったから…大丈夫か?」

ユキは力なく頷いた。呼吸も苦しそうにしていた。

勝田「ほんとに大丈夫か?病院連れてった方がいいだろ。タクシー呼ぶわ。」

ユキ「…みんなごめん…だいじょぶだから…」

私「顔青いよ。とりあえず行くだけ行こう。」

勝田が呼んだタクシーが正門に止まっていた。田畑と勝田にフィルムと部室の片付けを任せ、

私が付き添いで近くの病院まで連れていくことになった。

診察の結果軽い脱水症状と過呼吸で、しばらく病院のソファで休ませて貰い、大事には至らなかった。

しかし、先生が「トラウマになるような事があったのかしら?何か精神面での影響だと思う。場合によってはカウンセリングして貰った方がいいよ」と言っていたのが気になった。

ユキは4人の中で1番ホラー映画が好きで、この間私の部屋で映画観賞会をした時も、ホラー映画や心霊動画系のDVDを持ってきてわいわいはしゃいでいた。

トラウマになるとして、あの映像のどこに引っかかったのだろう。

ユキはなんとか回復し、皆でユキの暮らす実家まで送り届け、解散した。私は1人で部屋で過ごす気になれず、その日は電車で30分位行った所にある、大学の先輩の家に泊まることにした。

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1週間後、約束通り田畑にお礼にご飯をおごるため、連絡をした。

しかし、電話に出たのは田畑のお母さんだった。校内で階段から落ち、足を骨折して入院中だと知り、お見舞いに行った。あれから2日後の事だった。

全治3週間、右足首にヒビが入ったが、幸い短期入院で済むらしい。田畑本人はヘラヘラして「ナースの娘がめっちゃ可愛い」と、わりと元気そうだったので安心したが、もしかしてフィルムが原因なのでは?という不安があった。けど、先に見舞いに来ていた勝田は何も変なことは起きてないと言っていたし、あれからユキにも連絡したが体調も戻り、異変は無さそうに見えた。

フィルムはまだ部室に保管したままだと田畑が言っていたので、許可を取って引き取りに行った。

部室を開けると、1週間前のままフィルムは映写機にセットされていた。

私は映像のにあった、ゴォー…という音と、最後に何か呟くような音が気になっていた。結婚式の合間に、何故あんな映像が挟まっていたのか、そして何故あの場所に放置されていたのか、気になることばかりだった。

映写機の扱い方は以前田畑に聞いたことがある。白い布を下ろし、電気を消した。フィルムを少しだけ巻き戻し、音声のボリュームを最大にして、映写機を回す。

廊下のシーン、足と頭が出てくる前の映像、ゴオォ…という低い音に聞こえたものは、大勢の人間の声だった。お経のようなものを低い声で唱えている。そして、頭部らしきものを引き摺った足が姿を現す。

一旦フィルムを止めて、フィルムを巻いて再び映写機を回す。

歪んだ形の新郎新婦と、途切れ途切れで音程がぐちゃぐちゃの結婚行進曲が流れる中、

「…返してよ…」

くぐもったような低い声で、かすかにそう聞こえた。声のトーンも平たく、性別は分からない。

返して…何を?

背筋に悪寒が走り、映写機を動かす手が、ガタガタと震えた。

それと同時に、背後で扉が開く音がした。驚いて小さく悲鳴を上げたが、聞き慣れた声に振り向くと、そこにはユキがいた。

「え、ユキ…?どうしてここに⁉」

「田畑君に聞いたよ。ねえ、それ…見るのもうやめた方がいいよ。あと、うちら4人お祓い行ったほうがいいかも。フィルムも…焚き上げてもらおう」

「え…どういうこと?」

「とにかくそれ早く止めて!帰ろう!」

ユキの表情は必死だった。私はユキにせかされるように映写機のスイッチを消し、部室の電気を消して鍵を閉めた。時刻は夕方の6時を過ぎていた。

早足で大学の正門を抜けた。そして、私はユキに一緒に家に来るように言われ、ユキの自室に案内された。

「ごめんね。無理やりうちに来てもらって…でも、あのまま家に帰ってたら、ミキ(私の名前)になにか変なこと起こりそうで怖くて…」

「え…⁉どういうこと?全然わかんないよ!」

私は泣きそうになっていた。ユキも少し具合が悪そうにしていたが、話し始めた。

「あの映像、途中でバキッて音がしたでしょ?あれ、私聞いたことあってさ…あれね、首の骨が外れる…というか、折れる音だよ。ホラー映画のなんかは、作り物の効果音だけど、あれは本物の音。それと、最後に披露宴の映像になったとき、新婦の首が無かったように見えた。だいぶ歪んでたけど、私にはそう見えたんだ。」

「え、ユキ…ふざけて怖がらせようとしてる?大体聞いたことあるって、何処で!?」

私はだいぶ腹立たしかった。無茶苦茶だ。

ユキ「ふざけてない!私さ、高校の時オカルト好きの子達と心霊スポットって言われてる森に行ったら…首吊り見ちゃったんだ。吊ったばかりなのかまだ息があるの。急いで皆で降ろそうとしたら、あの、バキッって音を立てて首が…その人、亡くなった。警察にも散々疑われたし、私もその子達もめちゃめちゃトラウマになった。遺族の人には、助けようとしてくれてありがとうって、言われたけど…あれを見て思い出してしまって…」

ユキはしばらく黙り混んだ。

「私さ、霊感とか全くないんだけど、正直言うと、ミキの部屋に行ったときに、すごい変な感じがした。寒気とかじゃなくて、なんか違和感みたいなの、うまく言えないけど。そんで、夜中目が覚めて、部屋のドアの方見たらさ、…足がこっちに向いて立ってたんだ。田畑君か勝田君かと思ったけど、2人は夜中起きてないって言ってて。でもあの映像見て、同じものだって気づいた。あまりにもリアルすぎて、気持ち悪くなってしまって…ミキも何か違和感みたいなのあるんじゃないの…?」

実はずっと気になっていた。叔母とは子供の頃数回会った以来、お互い連絡も殆どしたことがない。年賀状のやり取りも子供の頃だけで、いつしか途絶えてしまった程だ。しかし、私の1人暮らしが決まってすぐ、叔母から「部屋を貸す」という手紙が届いた。まるで待っていたかのように。

けど、引っ越す前に部屋を見に行った時、やけに埃っぽく、生活していた形跡が殆どなかったのだ。

あの新郎新婦は、一体誰で、あの足と頭部は…

それ以上は、怖くて考えるのを止めた。

ユキの助言もあり、近日中にお祓いとフィルムの焚き上げをすることにした。勝田と田畑にも伝え、そして私は出来るだけ早く引っ越しをしようと決め、従兄弟の家の番号に電話をかけた。

「ミキ…ああ!ミキちゃん、久しぶり。おふくろのこと、心配してくれたの?」

「え、ああ…うん。叔母さんいる?叔母さんから借りてる部屋の事なんだけど…引っ越そうと思って…」

「…引っ越し?てか部屋って…何の事?」

「え…叔母さんから聞いてないの?私が1人暮らしするってことで、叔母さんがずっと1人で住んでた○○ってマンションの部屋借りてるんだけど…てか叔母さん、調子悪いの?」

「聞いてるも何も…それ、どこ?そんな所、俺もおふくろも住んでたこと1度も無いぞ⁉ミキちゃん一体何を言っているの?」

「へ⁉だって手紙…叔母さんから手紙が来たんだよ⁉…私の家においでって…部屋の鍵も入ってて…家具もそのまま使っていいって…」

「おい、それ騙されてるんじゃないの⁉何かよくわかんないけど、すぐ引っ越した方がいいぞ。あ、そうだおふくろなんだけどさ…昔から原因不明の首の痛みがあって、年々悪化してきてさ…最近殆ど寝たきりなんだよ。薬も効かなくて…ザザッ……だか…ら…しの……ザザッ…び…ザーーーーー…して…ザザッ…ザーーーーーーーー……してよ……」

「ねえ!どうしたの?聞こえないよ!ねえってば!」

「私の首返してよ私の首返してよ私の首返してよ私の首返してよ返して返して返して返して返して返して返して首返してあああああああああああ!!!!!」

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それからわずか3日後、私は自分の荷物を一気に片付け、急遽決めた新しい部屋に引っ越した。

田畑が退院するのを待って、4人で神社に向かい、お祓いをしてもらった。しかし、部室に置いてあったはずのフィルムは、何故か突然行方が分からなくなってしまった。他の部員にも聞いたが所在を知るものはいなかった。

あの映像は一体何だったのか、そして、「寝たきり」の叔母に代わって私に手紙を送ってきたのは誰だったのか。足と頭部の持ち主は一体何者なのか。叔母と何の関わりがあるのか。

色々な疑問が渦巻くが、今は知る由もない。しかし、従兄弟に電話したときに聞こえた声は、フィルムに録音されていたものと同じだった。

それから1年後、叔母が亡くなったと従兄弟から連絡がきた。首の周りには、赤黒い染みのようなものが浮かんでいたという。

そして、その連絡を最後に、従兄弟とも連絡がつかなくなってしまった。

私が今住んでいる部屋は、今のところは何事もない。

ただ、あの後から、何故か自分の首を気にする癖が出来てしまった。

誰かに取られるんじゃないかって。

Concrete
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