ある真夏の仕事帰り。
朝からの激務と暑さで、かなり参っていた。
帰りも大変で、私の家の最寄り駅までは乗り換えなく一本でいくのだが、端から端までといった感じで1時間くらいかかる。
時間は午後7時前。
電車も混んでるかな…と憂鬱。
電車に乗り込むと、なんと角席が空いていた。
一目散にドスンと角席に座り込んだ。
その拍子で隣の人に肘が当たってしまった。
あ…!と思って謝ろうと見ると。
え?
この猛暑日、夜でも暑い中、深い帽子を被り、長袖、長ズボン、おまけに手袋、スカーフをしてまるで真冬の格好をしている女の子がいた。
正直、気味が悪い。
見た感じ、中学生くらい?
背が小さくて幼い感じがした。
「あ……。ごめんなさい。」
返事がない。寝てるのか、ずっと俯いている。
表情が読めない。 少し不気味だった。
あ、そうかー。
テレビで見た事があった。
日光を浴びる事が出来ない、難病がある事を聞いた事があった。
多分、その病気なのかな…?
もう日は落ちてるけど、昼間何処か出かけた帰りなのかな? それか極度の寒がりか…?
そんな感じで自分で納得していた。
周りの乗客も、気を遣ってあまり見ないようにしているのが感じられた。
真横にいる事もあり気になったが、次第にウトウトしてきてしまい。すっかり眠ってしまった。
どれくらい時間が経っただろう。
ふと、何かに起こされる様に目が覚めた。
ん…。なんだ…?
今何処だ…?
電車内のモニターを見ると、丁度最寄り駅の一つ手前の駅に停車していた。
あぶねぇー。
寝過ごすとこだった。
ん…?
なんだ?
自分のお尻の辺りに違和感を感じる。
ヴー ヴー ヴー
あれ?
携帯だ。
携帯がなってる。
誰のだろ?
辺りを見渡すと終点間近、電車内は閑散とし
遠くの方に酔っ払っいが寝てるのが確認できるくらいだった。
しかし、誰の携帯かは直ぐに分かった。
いわゆるガラケーで、子供が持ちそうな携帯。
あー、あの子だ。
隣に座ってたあの子のだな。
降りる時の立った拍子で、ポッケから落ちちゃったのかな?
そう思いながら携帯をとった。
着信だ。
ケータイを開く。
090―××××―××××
お母様
お母様!?笑
随分、尊敬してるんだな笑
不覚にも鼻で笑ってしまった。
今でもあるか分からないが、着信待ち受けというのか、設定をしておくとその人から電話が来た時、画面に画像付きで、出てるくるのはご存知だろうか?
その設定をしているようで
携帯の画面には、母親とその女の子が笑顔でピースしている画像が出ていた。
あれ?
遊園地での写真だろうか?
後ろには観覧車がある。
女の子はワンピースで、まるで先程とは別人の様に元気そうな女の子だった。
あれー?
やっぱり考えすぎか。
電車は冷房が強いからな。
それか他に理由があるのかな?
勝手に病気扱いしたのを悔いた。
どうしよ…。
出た方がいいのかな?
その子が何処で降りたか分からないし。
とりあえず出て、最寄り駅に届けてありますって伝えた方がいいかな。
絶対困ってるだろうし。
出ようとした瞬間、切れてしまった。
切れたと同時に
「うわっ。」
声が出てしまった。
不在着信68件
19時14分 お母様
19時15分 お母様
19時17分 お母様
19時19分 お母様
19時20分 お母様
19時22分 お母様
19時23分 お母様
19時24分 お母様
・
・
・
現時刻までひっきりなしにかかってきていた。
少し寒気がした。
あーー。なるほど。
母親の携帯からかけてバイブレーションを頼りに探してるんだな。
一向に見つからないから、何回もかけてるんだろう。
それか誰かが出てくれるのを待ってるのかも。
そう思った。
次電話が来たら出てあげよう。
こっちからかけ直すのはなんか…。と思った。
丁度電車は最寄り駅につき駅のホームで少し待機していた。
すると
ヴー ヴー ヴー
来た。
お母様だ。
さあ、説明をしよう。
通話ボタンを押した、瞬間だった。
「ぉ前ーーーーーーー!!!!!!!!!!
今何処で何してんだ糞がーーー!!!!!!
お母様の電話は直ぐに出ると昨日約束したばかりだろうがてめーーーー!!!
約束破ったな?お前?
破った時の約束覚えてんな?
もう我慢できない。もう手加減しない。
今度こそ殺す。
本気で殺す。私はどうなってもいい。
お前を殺す。
殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す
殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す
殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す 殺す殺してやるからなぁぁーー!!!!
うぎゃーはっはっはっはっは!
うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!
覚悟して帰って来やがれ糞が!!!!」
プツっ ツー ツー ツー ツー…………
…………。
空いた口が塞がらない。
まさにこの様な状態だった。
ただただ、駅のホームに立ち尽くし呆然としていた。
あまりの狂気に満ちた電話。
全く想像してなかった出来事。
動く事が出来ないくらい恐怖を感じていた。
呼吸が荒くなり、立ってるのも辛い。
落ちつけ。落ちつけ。落ちつけ。
自分に言い聞かせた。
少し冷静になり、全て察したような気がした。
彼女の、肌を見せない真冬のような格好。
母親をお母様と呼んでること。
虐待だ。
痣とか傷とかを隠すためだったんだ…。
そう思った。
その携帯を持って交番に駆け込んだ。
警察官に今までの経緯を全て話す。
私の必死の訴えと、携帯の証拠もあり、信じてくれた。
「これ......掛け直して彼女が携帯を落としてる事を伝えた方がいいですよ。絶対……。」
あの電話以降、電話はかかってきていなかった。
警察官「はい。確かにそうですね。私達の方で対応します。」
でも…もう手遅れかもしれない……。
そう思った。
後の事は警察官に任せて、そのまま帰宅。
その日はあの狂気に満ち溢れた、電話を思い出し、一睡もできなかった。
2日後テレビで、虐待が原因で女の子が亡くなったニュースを見た。
その子で無いことを祈って泣いた。
何も出来なかった自分を恨んで泣いた。
作者ブラックスピネル