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長編14
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ポイ捨て禁止

まさか、何気なくした自分の行動が、こんな事態を招くとは思わなかった。俺は、大雨の中、急いで車に乗り込んで、ワイパーをフル稼働させ、ある場所へと向かっている。

 ことの始まりは、ほんの些細なことだった。

その日は、先日久しぶりに連絡があった竜二から誘われて、同窓会とまでは行かないが、昔の悪友達と居酒屋で飲んだのだ。

「ほんと、久しぶりだな。何年振りだろうか。」

竜二は、あの頃はスリムな体型だったが、三十路になって、多少ふくよかな体型になり、座敷にあぐらをかくと、ぽってりしたお腹がジーンズの上に乗っかっていた。

「十年ぶりくらいじゃね?」

そう横から乗り出して、上気した顔でグラスを傾けているのは、達也だった。

「今、お前、何やってんの?仕事。」

俺が達也に問いかけると、

「見りゃわかるだろーが。この顔色、見てみろよ。外仕事よ。建築関係。」

と真っ黒に日焼けした顔を指した。

「わかんねーよ。お前、元々、色黒かったじゃん。」

そう突っ込みを入れたのは、彰人だった。達也とは対照的に彰人は色白で細面だ。

「そういうお前は、今、何やってんの?」

「俺か?俺は、今、大学生だ。」

そう言って、彰人は謎のブイサインをした。

「ええっ?マジ?どういう心境の変化だよ。高校すらまともに行かなかったお前が?」

俺が驚いてそう返すと、彰人は

「後悔ってのは、あとからするから後悔なんだよな。俺、その後さ、もう一回夜間高校に行って、大学受験にチャレンジしたんだよ。このままじゃダメだって思ってさ。やっぱさ、親にも苦労かけたし。将来、親を楽さしてやりたいって思ってさ。今度、教員免許取る。」

と笑った。

「すげーな、お前。マジ尊敬するわ。」

達也はひとしきり腕を組んで感心していた。

「で?克也は?今、何やってんの?」

竜二から俺にそう振られて、皆の注目が俺に集まった。

「俺か?俺は、今、トラック運転手。」

俺は、そう答えると、ビールを一口煽った。

 ただし、その職にありついたのは、ほんの半年前の話だ。それまで、俺は、無職だった。前の職場を喧嘩でやめてしまい、五年間無職だったのだ。

「そういえばさ、玲子は元気か?ほら、お前、学校卒業して、すぐに玲子と結婚したじゃん。」

玲子というのは、俺の妻だ。

「ああ、元気だよ。」

「俺たちさあ、みんな玲子に惚れてたんだよなあ。それをお前がかっさらって行ったんだからさあ。本当にお前が羨ましかったぜ。お、そうだ。玲子呼べよ。久しぶりに会ってみたいな。」

「あ?ああ、玲子は来れないよ。」

「えー、何で~?」

「今、実家に帰ってるんだよ。」

「えっ?まさか、離婚の危機?」

竜二がからかい半分に俺にそう言ってきた。

「いや、今、あいつのおふくろさんが病気で。」

「え?大丈夫なのか?そんな時に飲んでて。」

「いや、大したことないよ。もう退院してるし。心配だからしばらく実家で世話をしたいって言うから。」

「じゃあ仕方ないな。あー、でも会いたかったなあ。相変わらずイイ女なんだろうな。」

俺は苦笑した。

確かに、玲子は、俺たちの間ではアイドル的存在だった。玲子の家は貧しくて、玲子は中学を卒業するとすぐに年を偽って、キャバクラ勤めをしていた。俺が高校卒業と同時に結婚した。

俺と玲子の間には、子供ができなかった。おそらく、どちらかに原因があるのだろうが、俺たちは敢えて調べることはしなかった。どちらかに原因があるとすれば、気まずくなるからだ。

 夜も更けて、二次会三次会と渡り歩いて、最終的には空も白んできて、朝方まで飲んでいた。最終的には飲む場所も無くなったので、俺たちはまるでガキみたいに公園に溜まってコンビニで買ったビールやおつまみで朝まで飲んだのだ。

 最近は公園にごみ箱を置かない風潮になっているようで、俺たちは、コンビニで買った物の食べカスやゴミ、空き缶をそのまま公園に放置した。

公園の傍では、どこから現れたのか知らないが、年寄がゴミ袋と火箸を持ってゴミを拾って歩いていた。俺はしたたか酔っていたので、若い頃のように悪ふざけをしたくなり、ゴミを拾って歩いているその年寄の目の前に、吸っていた煙草をポイ捨てした。

 周りの仲間達も、酒が入っている所為か、妙にハイになりその様子を笑い声を立てながら見ていた。

目の前に吸い殻をポイ捨てされた爺さんは、俺をじっと見つめて

「ポイ捨て禁止だよ。」

と言った。妙に落ち着いて物怖じしない態度が気に障った。

「何だと、このジジイ!」

俺は、爺さんの襟首を掴んで凄んだ。それでも、その爺さんは臆することなく俺の目をじっと見て、目を離さなかった。不気味な爺さんだった。

「おい、やめとけよ。」

彰人が俺を制止した。

俺は爺さんの襟首を掴んだ手を緩めて、

「おい、人を見て物を言えよ。爺さん。」

と捨て台詞を残してその場を去った。

去っていく俺たちを、いつまでもその場に立って、爺さんが見続けていることに俺は気付かなかった。

 誰もいないアパートの鍵を開け、俺はさすがに飲み疲れて、倒れるようにベッドにもぐりこんだ。目が覚めると、もう夕方だった。ああ、もうそんな時間なのか。俺はのろのろとベッドから体を起こすと、風呂場へ向かった。風呂は、玄関を入ってすぐ右にあり、必然と俺は玄関に向かって歩いて行った。

「ん?なんだ?この臭いは。」

ダイニングから一枚扉を隔てた玄関に向かう廊下で異臭に気付いた。

どうやら、異臭は玄関からするようだ。

「タバコ?」

玄関からはタバコの吸い殻のすえたような臭いがただよっていた。

おかしい。灰皿は、居間にあるはずだ。

玄関に降りて、臭いの元を確認すると、どうやらドアポストからのようだ。

「なんでこんなところから?」

俺が玄関ポストの蓋を開けると、大量の吸い殻が、ザーッと玄関になだれ込んできた。

「なんじゃこりゃ!」

玄関は大量の吸い殻で埋め尽くされ、俺は頭に血が上った。

「畜生!誰がこんなことしやがった!」

俺は大声で叫んでいた。俺は朝方の出来事を思い出していた。

公園で掃除をしていた爺さん。目の前で俺が、ふざけてタバコをポイ捨てしてやったあの爺さんの仕業か?あのジジイ。俺をつけてきて、こんな嫌がらせを。

「許さん、あのジジイ。」

俺は、風呂に入るのも忘れ、すぐさまシャツを羽織ると、そのまま出かけた。

あのジジイを探すためだ。

「よくもやってくれたな、ジジイ。」

俺は、必死であの公園のあたりで爺さんを探したが、それらしき人物は見つからなかった。

「畜生、どこに住んでやがるんだ、あのジジイ。」

まあ、いつかは出会うだろう。そう思い、引き返した。

ところが、それから何日経っても、その爺さんと出くわすことはなかった。朝なら掃除にでてくるだろうと、待ち伏せたこともあったが、あの日以来、一向に出会うこともなかった。

悔しいが泣き寝入りするしかなかった。

 ただでさえ暑苦しくて寝苦しい日が続くというのに、テレビでは、不愉快なニュースが流れていた。

「畜生、またタバコ、値上げかよ。」

テレビでは、タバコの値段がまた値上がりするというニュースが流れ、善人面したコメンテーターたちが喜ばしいことだとコメントしている。世の中、嫌煙ムードでたぶんうちの運送会社も社長が嫌煙家なので、おそらく社内は禁煙になるのにそう日は経たないだろう。

禁煙するしかなくなるのだろうか。妻の玲子にも、タバコをやめろと言われていた。

「タバコなんて、百害あって一利なしだよ。さっさとやめれば?タバコ代、結構バカにならないんだよね。」

玲子は、そう言いながら、俺にガムを渡して来た。

「ガム噛んでいれば、禁煙のイライラが薄れるんだって。」

俺は、玲子にもらったボトルガムの蓋をあけると、2.3粒口に放り込んでガリガリと噛んだ。

「こんな物が、タバコの代わりになるかよ。」

しばらく噛んで俺は、味が無くなる前に道端に吐き捨てた。

 残暑はまだまだ続いていて、相変わらず、西日の差す安アパートは蒸し暑く、俺の気分を余計にイライラさせた。何もかも上手く行かない。会社のトラックで事故をしてしまった。不幸中の幸いか、相手はいなかったが、自損事故で俺は止む無く減給された。アパートに一人、誰にも当たることはできない気持ちを壁にぶつけた。かなり大きな音がしたので、隣の住人はびっくりしているだろう。

 隣は、ひ弱そうな学生の兄ちゃんで、俺を見るたびに怯えた小動物のような目で見る。あいつは苛め甲斐がありそうなので、学生の頃はさぞ苛められたことだろう。

 あの日の玲子の顔が浮かぶ。俺は、その玲子の顔を追い出すために、冷蔵庫から500mlのビールの缶を取り出すと、一気に煽った。

 いつの間にか、眠ってしまったようだ。もうすっかり夜中になっていて、1時を回っていた。明日は朝が早い。眠らなくては。俺は、べたついた体を起こし、風呂場へ向かうためダイニングのドアを開けた。すると、また、今度はドアポストから、強烈な悪臭が漂っていた。俺はまさかと思い、ドアポストの蓋を開けた。

「うっ!くせえ!」

そこには、夥しい量のコンビニの袋に入ったゴミが詰め込まれていて、中には食べカスすら残っているものもあった。その袋は、あの日、公園に捨てたものも含まれていた。

「畜生、あのジジイ!またやりやがった!」

俺は夜中の公園へ向かい、叫びながらあの爺さんを探した。

「ジジイ、どこに居やがる!てめえ、一度ならずも二度も!絶対許さねえぞ!ぶっ殺してやる!」

ゴミのポイ捨てなんて、誰だってやってるだろ!

何で俺ばかり狙いやがる!

大声を張り上げながら、探していると、赤い赤色灯をまわしながら、パトカーが近づいてきた。

俺は大声を出すのを止め、捕まってはいけないので、そそくさと家に逃げ帰った。

畜生、なんだってんだ!たかがポイ捨てだぞ。

何で俺だけ執拗に嫌がらせをしてくるんだ!

俺はそのあくる日、電気店に向かい、ドアに無線のインターホンを設置した。録画できるやつだ。

今に見てろ、ジジイ。正体を突き止めて、酷い目に遭わせてやるぞ。

 その夜、夜を徹してジジイが嫌がらせをしに来るのを待っていた。だが、眠気には逆らえず、俺はついウトウトしてしまい、小一時間ほど眠り込んでしまったようだ。

「しまった。」

俺は、慌ててインターホンの録画再生ボタンを押すが、誰の姿も写ってはいなかった。

今日は来なかったのか。立ち上がって、俺は一応、玄関を確認しに行った。

「えっ?」

どこからともなく、甘くすえた臭いがした。

「ま、まさか、また・・・。」

慌てて玄関ポストを開けようとしゃがんだ頭に違和感を感じた。

立ち上がると、髪の毛から白い糸を引いて、ドアノブにつながっている。

「な、なにこれ。」

髪の毛に着いた何かに触れると、手がベタベタした。

玄関の電気をつけると、ドアノブに何か異物が着いている。

ドアノブが、何かベタベタしたもので覆われているのだ。

「ガム?」

それが、人が噛んだあとのガムだと気づいたのは、手に着いたそれを嗅いでみたからだ。

まんべんなくドアノブのレバーの形に人の噛んだガムは丁寧に付着させてあり、その行為を行った人間の狂気と闇を感じた。

 ちょっと待てよ。このドアノブのレバーは内側だ。鍵はかかっている。どうやって入って、俺が寝入っている小一時間の間にこれをやったんだ?嘘だろう?

 誰かが俺の部屋の鍵を持っている。この部屋の鍵は、俺と妻の玲子と管理会社しか持っていないはずだ。玲子の仕業ではあり得ない。俺の知らない誰かが、この部屋の鍵を持っていて、これをやった?前の住人か?あり得ない。このアパートの鍵は、管理会社が引っ越すたびにシリンダーごと変えると言っていたのだ。管理会社の誰かがやったのか?でも何のために。その線も考えにくい。

 俺は数日前に、道端にガムを吐き捨てた。それを見ていたのか。俺は自ずと、あの爺さんの無機質な物怖じ一つしない瞳を思い出して、恐ろしくなった。ゴミのポイ捨てくらいで、おかしいだろう。あの爺さんだとすれば、狂っている。こんなものは狂気としか言いようがない。警察に言うべきだろうか。でも証拠はない。そして、俺自体が、警察に行くことができない理由がある。警察はまずい。

 次の日の真夜中。俺はゴソゴソという物音で目が覚めた。玄関からだ。誰かが玄関のドアの向こう側にいて、ドアポストから何かを入れているようだ。俺は、そっとインターホンの通話ボタンを押して、画像を確認した。

「やっぱり、あのジジイだ。」

そこには、確かにあの爺さんが映っていて、ドアポストに何かを入れているようだ。

俺は気付かれないように、そっと足音を忍ばせて、ゆっくりとドアノブに手を伸ばすと、一気に鍵を開けてドアを開いた。

「クソジジイ!ついに見つけたぞ!」

そう怒鳴りながらドアを開けると、そこには誰も居なかった。

「え?確かに居たのに。」

狐につままれたみたいな気分だった。確かに、インターホンの画面にはあの爺さんが映っていたのだ。ドアを開ける前も、ドアスコープで確認した。確かに、そこに居たのだ。

そして、振り向くと、そこにはやはり半開きのドアポストが口を開けており、その中からだらしなく何かが垂れ下がっていた。俺は、その何かを引っ張り出してみて、悲鳴を上げた。

人の髪の毛。それも、見覚えのある髪の毛だった。

金髪のその髪の毛は、泥にまみれていて、髪の毛を全て引き出したあとに、銀色に光る何かが床に転がった。俺はそれを恐る恐る拾う。

指輪だ。K to R 2006。

見紛うはずもない。それは、俺が12年前に、玲子に送った結婚指輪だった。

その金髪の派手な髪の毛も、玲子の物に間違いないだろう。

そんなはずはない。だって、玲子は。

まだあの山の斜面に埋まっているはず。

まだ何かがポストに挟まっている。

白い紙に赤い禁止マークの真ん中に何かが書いてある。

「ポイ捨て禁止」

俺は、叫びだしたくなる気持ちを抑え、部屋に引き返すと、車のキーを握りしめ、大雨の中車に乗り込んだ。

馬鹿な、そんな馬鹿な。

誰にも見られていなかったはず。

あんな暗い、道なき道を行く山の中に埋めたのだ。

バレるはずない。

あいつが悪いんだ。

あいつがキャバクラを辞めないから。

俺は五年前に失業した。

「すまん、喧嘩して会社辞めた。」

その言葉を聞いて、最初は玲子は驚いたものの、

「仕方ないよ。もう済んだことだからさ。私が働けばいいじゃん。」

と笑った。玲子は俺にとってできすぎた嫁だった。

俺が失業したのを境に、玲子はキャバクラに復帰した。

もう大分ブランクはあったが、玲子は若く見えるし、十分キャバクラでもまだ通じた。

玲子はキャバクラでもNO1で指名も多くて、俺が働かなくても生活は十分やっていけたので、ついつい五年間も甘えて俺は働かなかったが、このままではダメだと奮起してようやくトラック運転手の職にありついたのだ。

 俺は玲子に、定職についたので、キャバクラを辞めてほしいと言ったが、玲子は難色を示した。

「だって、急に辞めたら、店にも迷惑がかかるし、今までの生活の質が落ちるのは嫌だよ。」

俺のトラック運転手の収入より、玲子がキャバクラで稼ぐお金のほうが、数段上なのはよくわかっていた。だから以前は綺麗なマンションに住めたのだ。俺は、玲子にキャバクラを辞めてもらうのを前提にそのマンションを引き払って、このアパートに越して来たのだ。それも、玲子には不服だったようだ。派手な生活が身に染みてしまった玲子は、もう元の貧乏くさい生活に戻ることが苦痛だったのだ。

 でも、俺は、もう我慢の限界だった。玲子が、他の男にいろいろ色目を使われたり、お触りされているかもしれないと考えると、嫉妬で狂いそうだった。そんなある日、それは起こった。

 玲子が見知らぬ男と、楽し気に腕を組んで歩いているのを見てしまったのだ。玲子が帰ってくるなり、俺は玲子の顔をビンタした。

「何すんのよ!」

玲子は、泣きながら怒りをあらわにした。

「誰だよ、あの男は!」

「はあ?何のこと?」

「とぼけんな!お前、男と腕組んで歩いてただろ!」

「何言ってんの?あれは、お客さん・・・。」

「嘘つけ!このビッチが!」

俺は、玲子の金髪を引っ張って引きずり回した。

「痛い、痛い、いたあああい!止めてぇ。だから、あれは同伴だってば!あのまま店に・・・!」

「嘘つけ!このアマ!ホテル街歩いてただろ!」

「ほんとだってば。信じて、お願い!」

俺は泣いて言い訳をする玲子をめちゃくちゃに殴った。

今までの玲子の態度も許せなかった。玲子はキャバクラで働くのが好きなのだ。

男にちやほやされて、大金を稼いで好きな服やコスメを買って派手に暮らす生活を手放したくないのだ。玲子は、変わった。あの頃の健気な玲子はもう居ない。

殴って殴って腹も蹴り飛ばし、玲子はワンワン泣いていたが、そのうち泣き声もしなくなった。

「このアマ!ふざけんなよ!寝てんじゃねえよ!」

もう一発腹を蹴り飛ばすと、細い玲子の体はだらしなく股を開いて転がった。

「・・・玲子?」

顔は二倍くらいに腫れあがって、目は生気を失った玲子を見て、俺は初めて我に返った。

死んでしまった。

口からは夥しい血が流れている。たぶん、内臓は破裂しているだろう。

俺は、夜陰にまぎれて、玲子の体をキャリーバッグの押し込んで、車で山に運んだ。

この辺の土地勘はあった。

誰も入らないような、獣道みたいな道を車で走った。

バイクで暴走していた時代に、いろんな道という道は網羅している。

どうしてだ。誰かが玲子を掘り起こしたのか。

もうすぐだ。もうすぐあの場所に着く。

RとKなんて、どこにでもある名前だ。

あの年に結婚したカップルなんて掃いて捨てるほどあるはずだ。

あの指輪が玲子の物のはずがない。

金髪だからって、玲子の物のはずがない。

確かめなければならない。

確かめなければ。

その時、ゴゴゴと山が鳴った。

フロントガラスに何かが降ってきて貼り付いた。

「うわっ!」

その貼り付いた何かと目があった。

人?

「れ、玲子・・・・。嘘だろ?」

その物体は腐っていてフロントガラスをズルズルと滑って行ったが、目は確かに俺を捉えていた。

その服には見覚えがあった。あの日、玲子が着ていた目の覚めるようなショッキングピンクのスカートに、肩がむき出しの黒のキャミソール。

車はそのまま土砂にまみれ、二転三転と転がり、俺の体は潰された。

「さて、次のニュースです。先日の台風の影響により、土砂崩れが各地で発生し、〇〇市の山道で車一台が生き埋めとなり、松浦克也さん(30歳)が救出されましたが、心肺停止のため死亡しました。当初、生き埋めになったのは松浦さん一人かと思われましたが、土砂の中から、松浦さんの妻と思われる遺骨が発見されました。松浦さんの妻は、三か月前から行方不明となっており、家族から捜索願が出されていました。松浦さんと妻の死亡時期が乖離しているため、警察では、現在捜査をすすめています。」

「いったいどういうことなのでしょうか・・・。」

「さあ、本当に謎ですね。松浦さんの近所の方のお話を聞くことができましたので、ご覧ください。」

「ああ、松浦さんですか?怖そうな人でしたよ。ちょうど三か月くらい前ですかね。凄い音が隣から聞こえて、奥さんの泣き叫ぶ声がしていました。もしかしたら、あの時に・・・。」

「ご近所で、奉仕活動をされている方にもインタビューしています。ご覧ください。」

「ああ、あのゴミをポイ捨てされる方ですね。清掃活動をしている私の目の前に、タバコの吸い殻をポイ捨てされたことがありますよ。いやあ、ポイ捨てはいけませんねえ。まさか、奥さんまでポイ捨てしているとはねえ。」

老人は、ニヤニヤと笑いながら、火箸をカチカチと鳴らした。

「ポイ捨ては、いけませんよ。ポイ捨てはね。」

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