「上がってくるな…上がってくるな…」
夢か現実か、寝ぼけ眼をこすりながら足元をみると、愛犬のマサオが半分開いたドアに向かってグルグルと小さく唸っている。
薄っすらと見える壁掛け時計の針は丑三つ刻。マサオとは俺が昔飼っていたパグ犬、マモルの孫にあたるブサメンだ。けしてワサオではない。
マモルは大変不思議な力を持つ妖犬だったが、紹介するとものすごく長くなりそうなのでここでは割愛する。
マモルの息子、つまりマサオの父親であるワタルは至って普通の鼻づまりがチャーミングな犬だったのだが、このマサオは祖父マモルの力をモロに受け継いでいるのか、唸るとそれが人間の言葉へと変換されて俺の脳内へと流れこんでくるのだ。本当だ。
久しぶりの感覚に始めはびっくりしたが、マモルと違ってマサオは生意気な言葉は使わずに優しく危険を知らせてくれるので、俺はすぐにこの超異常現象を受け入れることが出来た。
「上がってくるな…上がってくるな…」
さて、マサオがいま見つめている先は闇だ。そして廊下の先には階段がある。果たしてその下から今、何が上がってこようとしているのか?
「…マサオくん?」
残念ながら小声でそう話しかけてもマサオはふり向かない。そうマモルの時とは違って俺の言葉はマサオに届かないのだ。いつもマサオの一方通行で会話が出来ないのが本当に残念なところである。
「上がってくるな…上がってくるな…
あーあ、上がって来ちゃったよ…」
俺は反射的にマサオを抱きしめて布団の中に潜りこんだ。「もうこの子は!本当に怖い事ばかりいう!」
上がってきた何者かの気配はしばらく俺たちの布団の周りをグルグルしていたが、飽きたのか…それとも諦めたのか…知らず知らずのうちに消えていた。つか、寝てた。
見てはいないが恐らく、息遣いから推測できる顔の位置からして、もしかするとあの有名な八尺様だったのでは?と、思ったり思わなかったりである…
まあ、ちゃんと見ていないから何ともいえないし全部夢だったのかも知れないが。じゃあ、書くなよバカ!って怒られそうだが、今回はマサオの紹介がしたくてこれを書いてみただけなので、どうか大目にみていただけると有り難い…ひ…
「マサオくん」
「…フガ」
「夢でも見ているのかい坊や?可愛いやつめ」
それでは、夜が明けそうなので今夜はこの辺で。また次の機会に。
了
作者ロビンⓂ︎
皆さん、今日はマサオくんの名前だけでも覚えて帰ってください♪…ひひ…