ロンドン市街 セント・ポール大聖堂内──。
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一方、先に聖堂内へ入ったユキザワ以下二人の部下達は、その昔にチャールズ皇太子とダイアナ元皇太子妃が結婚式を上げた祭壇に到達した。
「何だかケモノ臭いですね……」
「ユキザワ室長!ここ、雨に濡れた野良犬みたいな臭いがプンプンです!!」
「どうやら、今度は犬面人のお出ましのようやで……」
初めて耳にするモンスター名にツッコミを入れる間もなく、それは姿を現した。
二足で直立し、全身が黒光りする体毛に覆われている頭の大きな犬──そんな感じだった。
「黄色い猿の臭いがしやがると思ったら、メスとはな……コイツァ旨そうだ」
「ワリャァ……鼻がバカなんか?ワレの臭いがエグ過ぎて、鼻もげるか思たわ……イギリスにゃトリマーおれへんの?可哀想やな」
ディスりをディスりで返すユキザワに、犬面人こと狼男が牙を剥いて襲いかかる。
それをヒラリとかわし、ついでに鼻っ柱に二発のゲンコツを叩き込んだユキザワが、痛みに悶えて床を転がる狼男に言った。
「シツケのなっとらん犬やな!ぶん殴るで?」
「室長、もう二発もぶん殴ってます」
「ユキザワ室長!マジでデービル!!」
盛り上がるばけものがかりに向き直り、狼男の怒号が響き渡った。
「許さねぇ!!お前ら喰い散らかしてやる!!」
「エェから風呂入ってから出直せや……オマエ、超絶臭いねん」
どんな時もディスることを忘れないユキザワに、ハトムラが言う。
「室長は先に行ってください!ここは私とチカゲちゃんで食い止めます!!」
「おまかせくださいっ!ユキザワ室長!!」
頼もしい部下の言葉に、ユキザワが笑顔を返して答えた。
「ほな、任すわ……頼んだで」
「「はいっ!!」」
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先に進んだユキザワを見送り、ハトムラとチカゲが狼男に銃口を向ける。
「あなたの相手は私達がします!」
「次の朝日が拝めると思わないでくださいね?」
ぱんっ!ぱぱんっ!!
間髪入れずに襲いかかってくる狼男を、二人は一斉に射撃するが、当たることなく狼男の鋭い爪が二人に振り下ろされる。
それを二手に分かれてかわすと、振り向き様に銃を構えたチカゲの目の前には狼男の爪が見えた。
「あっ!!」
気づいた時には避ける間もなく、狼男の爪がチカゲの右腕を捕らえた。
咄嗟の防御体勢のおかげで、右腕に三本の切創を負っただけで済んだが、切り裂かれた袖からは鮮血が滴り落ちる。
「痛いじゃないですか!」
涙ぐむチカゲを嘲笑いながら、爪についた血を舐め取った狼男がほくそ笑む。
「若い女をなぶり殺すのは堪らねぇなぁ……いい鳴き声を上げてくれよ?」
「うわっ!!……キモッ!!そして、クサッ!!」
「チカゲちゃん!!」
つい漏れ出た心の声をハトムラにたしなめられ、チカゲは慌てて左手で口を抑えるが、時すでに遅し、とっくに狼男の逆鱗に触れていた。
「お前から喰ってやる!臓物を引きずり出」
「お断りしますっ!!」
食い気味で断ったチカゲに苛立ちを露にした狼男が、チカゲに向かう後ろから、ハトムラが発砲。
その銃弾は頬を掠め、横一文字の傷からは赤い筋が下へと伝う。
「焦らなくても、すぐに殺してやるよ」
グルルと唸る狼男を見据えて、ハトムラが長い髪を後ろに束ねて言った。
「その台詞、言う相手を間違えてるってことを教えてあげる」
ハトムラの目つきが変わり、重い威圧感が場を支配する。
「来なさい……」
霊撃警棒ブラックをジャキンと伸ばし、ハトムラは静かに挑発した。
「そんなに死にたきゃ、お前から殺してやるよ!!」
標的をハトムラに変えた狼男は、ハトムラへと突進する。
間を詰めてきた狼男を半身をずらして上手くいなしたハトムラが、霊撃警棒ブラックを狼男の背中に叩き込むと、パーンという破裂音と共に青白い閃光が薄暗い聖堂内を一瞬照らした。
「グハァ!!」
トドメとばかりにもう一撃を振り下ろしたハトムラをかわし、狼男は素早く距離を取った。
「チカゲちゃん」
狼男を見据えたまま、ハトムラがチカゲに目配せすると、チカゲは無言で頷いた。
「そろそろワンコもオネンネの時間よ?」
ハトムラは空いていた左手で銃を構えると、即座に発砲した。
しかし、弾は狼男を捕られることはできず、後ろへと流れていく。
「アマァ……八つ裂きにしてやるぜ!」
身体を左右に振りながら狼男はハトムラとの距離を着実に詰めて来る。
「このっ……」
ハトムラが狼男目掛けて振り下ろした霊撃警棒ブラックは空を切り、その虚をついて狼男の大きく開けた口がハトムラの首元へ襲いかかった。
ガキンッ!!
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「……あなたのエサはコレですよ!」
ハトムラの白い首筋に狂牙が突き立てられたと思いきや、狼男はチカゲが伸ばした銃をくわえる形になっている。
「待っ……」
「にんじみそーれー(おやすみなさい)」
ぱんっ!!
スピードがウリのモンスターも流石にゼロ距離からの発砲をかわすことはできず、狼男の頭部は光の粒を撒き散らしながら消し飛び、身体も少しずつ空気に溶けるように散り散りに消えていった。。
「ナイスよ!チカゲちゃん」
見事にモンスターを退治した後輩を労うハトムラに、チカゲはうつむいて答える。
「射撃だけが取り柄なのに、ゼロ距離以外、一発も当てられませんでした……」
大学受験に二度落ちたくらいの神妙な顔のチカゲを、ハトムラは明るく励ました。
「何言ってるの!私やムトウさんなんか、撃ったところでほとんど当たらないのよ?チカゲちゃんがいてくれるから、私も安心して囮になれたわけだし」
「ハトムラせんぱ~い!」
自分に抱きつくチカゲを受け止めながら、ハトムラは袖を引き裂いてチカゲの腕を止血してやる。
「応急手当で申し訳ないけど、さっさと片付けて病院に行こうね?」
「はいっ!」
ようやく一仕事終えた二人は、ユキザワの後を追うように駆け出した。
作者ろっこめ
なんだかんだ時間がかかってしまいました……( ; ̄∀ ̄)
100話目前ということで、刻んで数を稼ごうかと姑息なことを考えてしまいましたが、ちゃんとします。
このシリーズの後は、A子シリーズ2話、Uレイらいふ1話は絞り出しますが、ちょっと100話には届かなそうですねぇ……。
なんとかネタを見つけねば……。
ばけものがかり登場人物紹介⑥
えだまめ1号
正式名称【汎用犬型霊子探査機 人造警察犬 えだまめ1号】は、アマノヌボコによって造られた怪異捜査サポート専用ロボ犬である。
階級は一応、巡査だが、開発者へ給与としてレンタル料を支払うために便宜上つけられているだけの飾りである。
霊子探査、受信専用FAXなどの様々な機能がついており、衛星を使ってリモートコントロールしているので、世界中で活動できる。
基本の四足歩行時は散歩するおじいちゃんほどのスピードから、えだまめンZ変形時は、はっちゃけた5才児、ワイルドモード時は瞬間時速350㎞と性能が極端に上がる。
おしりハッチから射出されるカプセルは二種類あり、緑色のうんたんカプセルは霊子弾などの専用弾薬、ピンク色のベビたんカプセルはサポートロボと区別されている。
緑色のカプセルにのみ、どちゃクソうんちの臭いがつけてあるが、これは一般人がうっかり拾わないようにするためと、視界が悪い状況でもカプセルの位置がわかるようにするためで、イジワルではない。
えだまめ1号は、鼻から小粒の霊子弾を発射することが出来るが、向けられるのは何故かムトウ警部補が多い。
今後も開発者の気まぐれで性能が追加されていく恐れは十二分にある。