「なぁ聞いてくれよ。この町にあんなデカイ煙突なんかあったっけ?」そう同僚に言われた。
俺は何の変哲のないサラリーマンだ。営業でこの町を周り続けているが、そんなものは見たことが無い。
「いや、そんな煙突なんか知らねえよ。てかどこにあるんだよそれ。」
「あそこだよあそこ。ちょっと遠いけどさ。まさか見えないのか?」
‥言われたがよく解らん。そんなもんが有れば目立ちそうなものだが。
「見えねえよ。てか別に煙突があろうがなかろうが俺にはどうでもいいわ。さっさと仕事しろよ。」
「相変わらず冷たいなぁ。でも確かに俺には見えるんだけど‥」
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一週間後。また同僚が例の話を持って来た。
「なぁ前に煙突の話しただろ。最近俺あの煙突に登りたくてしょうがないんだよ。あんまり気になったから、俺その煙突の近くに行ってみたんだよ。そしたら外にはしごがあってさ。登れるようになってて。そん時は引き返したんだけど、それから煙突が気になって気になって落ち着かないんだよなぁ。嘘じゃないぞ。ほら写真」
そこには確かに煙突が写っていた。随分古いが、かなり大きくて高い。側面にはしごがあるが、こんな高さまで登りたいとか正気じゃないなこいつ。
「で?その煙突はまだこっから見えるのかよ?」俺は聞いた。
「逆に見えねえのかよ?!今日は晴れてるからよく見えるぜ。ほら双眼鏡貸してやるよ。あ、これ?最近煙突見てないと落ち着かなくてさ。あんだけ高いとどっからでもこれで見れるんだよ。ほら、あそこの‥」
言われても見えないものは見えない。この辺で切り上げるか。
「わかったわかった。今度案内してくれ。」
俺は仕事に戻ったが、そいつは他の同僚捕まえて同じ事話しているみたいだ。暇なやつめ。
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それから一週間位してから、同僚が会社を辞めると言い出した。
「なぁもう俺駄目だ。あの煙突見てないと落ち着かないし、あれに登る事しか考えられない。明日から登るつもりだわ。今日は挨拶だけしにきた。じゃあな。」
同僚は見るからにやつれていた。でも目つきだけは鋭かった。俺は言った。
「お前正気かよ。みんなもそんな煙突見えないって言ってたんだろ?お前疲れてるんだって。暫く会社休め。そんでまた戻ってこいよ。」
「俺は登るから。」
相変わらず、俺にはそんな煙突は見えなかった。
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それから暫くして、俺はその同僚が死んだっていう話を聞いた。何でも部屋で死んでいたんだが、体はどっから飛び降りたみたいにつぶれていたらしい。
全くわけが解らん。そう思いながら、俺は会社の窓から外を見ていた。
‥なんだあれ。あんなもんあったか?かなり遠いが見える‥そこにはかなりの高さの煙突がいつの間にか存在していた。確かに昨日まではなかったはずなのに。
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最近、俺はあの煙突が怖い。怖いはずなのに気になって気になって仕方がない。俺以外の奴等はそんなもの見えないって言いやがる。俺もあいつと同じ末路を辿るのか?そんなのは絶対に御免だ。あいつは登ったんだ。そうに違いない。それを避けるのは簡単な話だ。登らなければいい。俺も登りきったらああなるのは解りきっている‥はずなんだが。
あれに登りたくて登りたくてたまらない。
作者嘘猫
よく人が悪霊になって祟る話が有りますよね。でもそれが人じゃなくって、場所そのものが害をなす霊(?)になってしまったら、それはそれで恐ろしいとは思いませんか?あとこれも対処法がない(あるんですけどねw)怪異なので、同じく厄介だなぁと思いました。
遠慮なく感想、意見、ダメ出し等書いて下さい。やっぱりシリーズもの書くのは難しいですね。いつか書けたらいいなぁ‥