中編4
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幽霊と妖怪に対する考察

「ねえ、幽霊ってなんだと思う?」

「そりゃお前、今のあ‥」

「いやそうじゃなくって!怖い話でよく見るやつ。こう、死んだあとに人に悪さするみたいなさ」

「それは幽霊だけど、正確に言えば悪霊という物よ。幽霊がみんな悪さをする訳じゃないわ。」

この3人は「オカルト研究会」を自称し、今も他の生徒が帰った後、空き教室で勝手に集まりお喋りをするのが日課になっている。3人とも女子高校生である。

いつもぼーっとしていて、少し抜けている楓

少し口が悪く、考え方にどこか時代を感じさせる舞

オカルト知識が豊富だが、その内容が少し偏っている咲。 

この物語は、その3人による会話劇である。

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「そうね。折角だし、今日は幽霊について考えてみようかしら。」

「あたしが知ってる幽霊つったら、口裂け女に人面犬とかだなぁ。あれ怖かったしよ。」

(人面犬って何‥?)

「全く‥あんたは一々古い物を持ち出して来るのね‥まぁ確かに有名なものだから話しておくけど、あれは幽霊というより妖怪に近いものだと考えてるわ。第一‥」

「その幽霊と妖怪の違いってなんなの?」

「私は幽霊というのは、死んだ人がその並々ならない感情。例えば憎しみとか悲しみとかで一時的に蘇っているもの、だと思ってるわ。後、自分が死んだことに気がついていないものも幽霊の一種ね。」

「え、じゃあ口裂け女は幽霊じゃないのか?あいつは確かに死んでないけど‥でもてけてけとかは死んでるぞ。」

(てけてけ‥?)

「あんたはちょっと黙ってなさい。幽霊はそんな状態で甦るわけだから、恨みを持つ対象がいるのよ。復讐を遂げるのが一番の目的。それがすんだら成仏するっていうのまで一くくり。恨みはらさでおくべきかって有名な台詞あるじゃない。まぁ中には恨みをはらした後も残り続けるとんでもない種類もいるけれど。勿論例外もいるわ。」

「お前その台詞は幽霊のやつじゃないぞ。まぁそれはおいとくか。なるほどなぁ。じゃあ妖怪はそうじゃないのか?」

「妖怪は個人に対する恨みじゃないのよ。勿論、人に害をなす事には違いないのだけど、人が条件を満たしてしまった時、例えば姿を見るとかね、に無差別に襲いかかる。といのが私の考える定義ね。一説によれば妖怪は元神様だったなんてものあるけれど、私はそんな神様ごめんだわ。」

「まぁ確かに人面犬は見たやつに悪さをするっていうし、言われてみればてけてけも出会ったらアウトみたいな所あるな。」

「(後で調べようかな‥)へ、へぇ~そんな妖怪がいるんだ。二人とも物知りだね。」

「常識よ」「常識だろ」

「えっ」

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「後、幽霊と妖怪の決定的な違いとして、人の噂によるものが大きいってのがあるわ。これは昔もそうだけれど、妖怪というのは都市伝説として広まる傾向があるのよ。例えば私の好きな一本たたらっていう妖怪は、山で遭遇した猟師が噂里に広げた事で有名になったの。口裂け女もその出所は噂でしょう?」

「ほんと、みんな口々に噂してたからなぁ。どっから聞いて来たんだか。」

「幽霊は仇をなす対象がはっきりしてて、無関係な人にしてみればどうでもいいわけね。だから噂にはなりにくいのよ。でも、妖怪はいつ襲われるかわからないから、みんな当事者だと思って広めたがるのよね。大まかな違いはこんな所かしら。あ、私の言う幽霊が見たかったら古典文学読みなさい。そういった物がうじゃうじゃ出てくるから。結構面白いわよ。」

「このご時世に誰がそんなん読むんだよ。やっぱり変わってんなお前」

(読んでみよっかな‥)

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「これまで散々話して来たけれど、妖怪には致命的な弱点があるわ。」

「対処法の話か?あれだよな。べっこう飴渡すってやつ。久しぶりに食いたくなってきたわ。」

(小学生の時作ったなぁ‥)

「そうじゃないわ。妖怪は噂によって広まるのよ。つまり、みんながその妖怪を忘れてしまったらどうなると思う?」

「えっ、そりゃお前、噂が無くなるって事は‥」

「そう。それが妖怪の消滅なのよ。あれだけ流行した口裂け女だって、今噂する人は殆どいないわ。話題に出さなかったけれど赤マントとかムラサキカガミとか、今の人はどれだけ知ってるのかしらね。そういう妖怪が時代を彩ってきた事は事実なのよ。それを楽しんでいた人がいたのも。だから、私達は忘れないであげるのが、妖怪に対しての礼儀なのかもしれないわね。そしてオカルトを楽しむのも。」

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「何かいいな。こういうなんて事のないやり取りが出来るってのはさ。」

「何言ってんのよ。私達だっていつ消えるかわかんないのよ。‥私も楽しかったけどね。」

「そりゃそうだけどさ。せめてそれまでは楽しくやりたいしよ。」

「わたしも楽しかった。二人の話もっと聞きたいな。」

「次は何を話そうかしらね‥」

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ここまでもし読んでくれた人がいたら、それは私にとって凄く嬉しい事です。二人には悪いけど、私はこっそりこのやりとりをここに書くことにしました。だって、それは確かに私達がここにいたってことになるから。

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ある日、今は使われていない図書準備室を掃除していた生徒が古びたノートを見つけた。その1ページ目の題名は

「幽霊と妖怪に対する考察」

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