サンサンと町を照らしていた太陽は、いつの間にか見えなくなった。まだ、日が沈んだわけでもないのに。
今日の空は赤色に染まらない。灰色の雲がいっぱいに広がって、泣き出してしまったから。
傘を持ってない私は、近くの公園にある屋根の下で雨宿りをした。
お兄ちゃんに連絡して、迎えにきてもらおう。とは言っても、見える景色の中に公衆電話は見当たらない。しかも、今日はお兄ちゃん、体調不良で学校お休みしてるんだった。
私はベンチに腰を掛けながら、何となく空をながめた。
雨で濡れちゃった服を早く乾かしたい。このままじゃ、風邪ひいちゃうよなぁ。
「はぁ~、散々だね」
覚えたての単語を吐いた私は、今日の学校であった出来事を思い返した。
仲のいい友達はお休みで、3時間目の体育の授業では頭にボールが当たって、昼休みには男子たちが教室にセミを持ってきて・・・今は突然の雨に足止めをされてる。
ほんと、ムカつくを通り越して呆れちゃう。こんなこと、お兄ちゃんに話したらめちゃくちゃ心配されそう。
ぼんやりとそんなことを考えながら、まだ背負ったままのランドセルを膝の上に置く。
気付いたら、何かがゆっくり近づいてくるのが見えた。
それは金魚みたいな、宙を游ぐ魚だった。魚は私の前まで来ると、ゆっくりと口をパクパクさせた。サッカーボールぐらいの身体を、ユラユラとさせながら。
「たぶん、君も散々だったのね」
魚の気持ちは解らないけど、なんだか寂しそうな雰囲気だなと思った。
「はぁ、今日の占いは12位だったの。案外あたるんだよね~・・・今日はお兄ちゃんも体調悪いみたいだし、やっぱり雨が止むまで待ってようかなぁ」
私の話に魚は何も反応しないで、ただユラユラと浮いてるだけ。
「あ、もしかして私の能力を狙ってるの?だーめ、どうせ君みたいなのは取り込まれて終わりだよ」
私の力は、こういう不思議な存在を取り込んじゃう不思議な力。小さい頃に比べたら慣れたけれど、いまだに力を抑えられないこともある。
「私、バケモノだから・・・なーんてね。あーあ、早くお兄ちゃんに会いたいし、走って帰っちゃおうかなぁ」
そう言ってから数分、私は魚とにらめっこしたまま雨が止むのを待った。
「あ、止んでた」
ふと気が付いた時には、もう雨は止んでいた。いつの間にかぼーっとしちゃってたみたいで、さっきまで目の前にいた魚はいなくなっていた。
私はベンチから立ち上がると、泣き止んだ空の下を歩き出した。
今日は最悪な一日だったけど、夜はきっといい日になるよね。お兄ちゃんも、お母さんも、家で待ってるんだから。
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「まぁ、それからすぐにお母さんは死んじゃったんだけど。まさか、その1年後に自分が死ぬことになるとはね。今じゃもう慣れちゃったよ。暴れまわってて、慣れちゃったとか言うのはおかしいかもしれないけど」
夏空の下の砂浜で、私は1人のお姉さんに色んな思い出を話していた。
お姉さんは私の話を聞いているうちに、声を出して泣き出しちゃった。
「ほんとにごめんねえええええ!あたしのせいで死なせちゃってええええ!うわあああん!」
「だから、あゆみさんのせいじゃないってば!もう、泣きすぎだよ~」
「だってぇぇぇ・・・お兄さんのこと、心配でしょぉ・・・まだ小学生でやりたいことも沢山あったでしょおおおお!ごめええええん・・・!」
この人は、すっごく泣き虫。でも、私のために涙を流してくれるんだから、心が優しいんだよね。
「たしかに死んじゃったけど、あゆみさんは悪くないの!あゆみさんをこんなふうにした悪い人たちがいけないの!大丈夫だよ、ほんとに。だって、もうすぐお兄ちゃんが助けに来てくれるから」
「ぐすん・・・そうなの?」
「うん、だってこの町は・・・私の生まれた町だもん」
お兄ちゃん、元気にしてたんだね。また会える日が来るなんて、本当に嬉しいよ。信じてたんだ、だから・・・
「待ってるよ」
作者mahiru
おまたせしました!32話になります。
次の33話も、11月中の投稿を予定してます。(追記:体調不良のため、投稿延期とさせて頂きます。)
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