深夜にのどが渇いて目が覚めた。二階から階段を下りると正面に玄関がある。
外から差し込む蒼白い光が硝子を通し、うっすらと室内を照らしていた。
「うわぁ!」思わず声が漏れた。
玄関横のすり硝子に人の影がうつっていたのだ。
ほっそりとした身体に長いだろう髪の毛、その姿形から恐らく女性だと判断ができた。しかし、今は真夜中。何故こんな時間に玄関前に人が立っているのだろう。
外はしとしとと小雨がふっており、雨宿りでもしているのかと寝惚けた頭で考えた。しかし、すぐにそんなはずはないと考え直す。
他人の家の門を勝手に開けて、玄関の軒下で雨宿り? あり得ない。
玄関の照明をつけようとスイッチを押した。「あれ?」点かない。なんでだよとパチパチと数回押していると、外から微かに声が聞こえた。
「...ぁ......けてぇくだぁさ......ぃ」
ボソボソと呟くような囁き声。
「......ぁ...ぅけてぇくださぁ......い」何度も繰り返している。
「イタズラですか? ──警察呼びますよ」
変な人がドアをひとつ隔てて、すぐそこにいることに恐くなった。
「......ぁ......けぇてくぅださ...い」
「開けるわけねーだろ!」
恐さのあまり思わず大声を出してしまった。すると、玄関前の影がすっと消えた。
「えっ?」それは、玄関から離れたとかそういう感じではなく『消えた』そう表現するのがピッタリの現象だった。
そこで初めて人間以外の存在を意識した。
──怖い。さっきまでとは違う恐怖が襲ってきて、首筋から頭へと鳥肌がたった。急いで二階に上がり、布団にくるまる。どれ程の時間震えていたのか、いつの間にか眠ってしまっていた。
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次の日、朝から近所が騒がしかった。何でも強盗殺人があったとのこと。
若い女性が路上で刺殺された。深夜の出来事だったらしい。
なるほど、そうだったのかとひとり納得した。
その女性は亡くなってからも尚、救いを求めて近所をさまよい歩いていたのだろう。
あの言葉はきっと、こう言っていたんだ。
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「たすけてください」と。
作者深山