暑い‥
そう思いながら、俺はこの坂道を登っている。
どこにでもある、そんなに長くはないが短くもない坂道だ。
気温は35度を越えてるんじゃないか‥とにかく暑い。この坂道を登らなければ会社に行けないというのに。車は欲しいが金が無い。自転車はこの前壊れちまって今は修理中だ。この暑さの中歩いて通勤とは情けない。徒歩では裏道にあるこの坂道を登るのが最短ルートだから仕方ない。案の定この坂を登ってるのは俺以外誰もいない。まぁこの暑さじゃだれも出勤したくなくなるってもんだが。
nextpage
「大丈夫ですか!?」
そう声をかけられた。振り向くと男がいた。どこにでもいそうな奴だ。多分人波ですれちがったらすぐ忘れそうな顔をしてる。「暑いですよねぇほんと。あなたフラフラしてましたよ。取り敢えず水でもどうぞ。」そう言って、ペットボトルの水を紙コップについで渡してきた。何で紙コップなんか持ってるんだと気にはなったが、とにかく暑い。好意に甘える事にした。本当に普通の水だ。ただよく冷えていて、単純に助かったと思った。
nextpage
「これだけ暑いと参りますよね。」その男は勝手に喋り続けてきた。こんな奴もいるだろう。聞きながすとしよう。「一つ怖い話でも。この坂で人が死んだのは知ってますか?何でも熱中症かなんかで、暑さの中倒れたらしいですよ。で、誰にも見つけてもらえなかったと。で、見つけられた時には手遅れだったと。まぁよくある話なんですが、何が怖いかってその男、幽霊になって人を呪おうとするんです。その呪い方っていうのが、暑い日にこの坂に一人でいる人に何としても水を飲ませようとするんですって。でも、その水を受けとって飲んでしまった人はその坂から永久に出られなくなってしまうとか‥どうでしたか?」
nextpage
下らない話だ。こいつは何なんだ。俺は聞いてみた。「あんた、まさかその幽霊じゃないよな?」
「違いますよ!その証拠に、私あなたに無理やり水飲ませましたか?それにそんな知らない男から水を飲め!なんて言われたら普通怖がって飲みませんよ。」そいつは続けた。
「それにしても、他人を巻き込んでまで人を呪い続けるそいつは何なんでしょうね。よっぽど悔しかったんでしょうか。暑い中で倒れて、誰にも助けられなくて。私も昔暑さで倒れた事がありましてね‥あれは地獄だっだなぁ‥あ!すいません話過ぎましたね。私はこれで失礼します。」
nextpage
男は脇道に去っていった。何だったんだ。正直どうでもいい。
‥この坂道こんなに長かっただろうか。かなり歩いたんだが。相変わらず他の人も見かけないし。
それにしても暑い‥
作者嘘猫
この「どこにでもいそうなやつ」がその悪霊なんですよね。最初主人公に水を飲ませてからネタバラシをするっていう初見殺し。しかも本人はそれを悪霊であることを否定するって所に底意地の悪さみたいなものを書いたつもりです。
初めて書いたものなので、拙い文章です。何か意見、指摘あったら遠慮なくコメント書いてください。