中編6
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ルナルドのウワサ♬

「ルナルドは、嬉しくなるとついやっちゃうんだ!! ルン・ルン・ラ~~~!!」

 十年ほど前、大手ハンバーガー・チェーンのワクドナルドが全国区で流したCMである。ピエロ姿の不気味なマスコットキャラが意味不明の掛け声とやはり意味不明のポーズを取ることで、お茶の間の国民をポカンとさせるという偉業を成し遂げた。

 何を伝えたいのかさっぱり分からないCMは過去にも数多あっただろうが、ここまで鮮烈なイメージを残しつつ、やはり何が言いたいのか分からないCMも珍しい。

 しかも、それを作ったのが世界的大企業なのである。当時の幹部役員は何を思ってこんなCMを作ったのか、国民の誰もが一度は疑問に思ったに違いないが、それに十分な回答を与える者は未だに出てこない。企業の社会的責任とは何か、大企業こそ自らそれを示すべきではないだろうか。

 時は下り、その意味不明の、どことなく禍々しいパフォーマンスは子供たちの間で流行し、一時は「ルン・ルン・ラ~~~!!」の掛け声とともにじゃれあう子供の姿も散見されたという。だがその実、それは特定の子をターゲットにしたいじめを隠蔽するための子供なりの悪知恵が働いてもいたようだ。

 すなわち、「ルン・ルン・ラ~~~!!」と叫びつつ、その真意は「死ね・死ね・消えろ~~!!」だったとかなんとか。あくまでも一部で噂された都市伝説ではあるが。

 だが、ネット上である噂が立ち始めてから、この都市伝説は更に深刻な意味を帯びて世の中に広まっていった。噂はこうである。

「深夜零時に恨みを持つ者がアクセスすると、ルナルドが現れて憎いやつを懲らしめてくれる」

 どう懲らしめるかは不明だが、某掲示板でも頻繁にスレが立っていた。そしてここにも今夜、恨みを持つ者が────。

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「ルナルドのウワサ♬」

 PCのモニターにその画面が映し出された時、僕は思わずガッツポーズを決めた。時刻は深夜零時。噂通り、確かにアクセスできた。これであいつらを痛い目に遭わせてやれる。しかし、この後どうすればいいんだ? 

 モニターにはリンクも何も貼られていない。サイトのタイトルをクリックしても何も起こらない。やはり、ただの噂だったのか。思わずため息を漏らしたとき、画面いっぱいにルナルドの顔が映し出された。ドアップのにっこり微笑んだピエロ顔にびっくりして、僕はわっと声をあげてしまった。

「ルン・ルン・ラ~~!! さあ、君の憎い奴は誰なんだい? 僕が懲らしめるのを手伝ってあげるよ!!」

 何これ、スカイプ? いや、起動してないけど……。まあいいや、僕はイジメの主犯格の名を数人挙げた。井坂、近衛、間桐、その他…………。ルナルドはうんうん、と腕を組んで聞き入った。

「こいつらをやっつけて欲しいんだけど…………」

「モチロンさあ!! 次にイジメに遭った時、こう呪文を唱えて欲しい。ルン・ルン・ラ~~!!」

「……そんなんでいいの?」

僕は疑い深そうな顔をしていたに違いない。ルナルドは悲しそうな顔をして、

「大丈夫!! ルナルドはいっつも君の味方さあ!!」

「分かったよ。そう言えば助けに来てくれるのかい?」

「モチロンさあ!! ルン・ルン・ラ~~~!!」

プツッ、とその画面が消え、404 Not Foundという画面に切り替わる。

「噂……本当だったのかな。でも、呪文を唱えたくらいで助けに来てくれるって、やっぱ嘘くさいな。騙されたのかな」

僕はぶつくさ言いながら寝床に入った。

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翌朝、僕は期待半分、不安半分といった気持ちで学校に向かった。教室に入ると、僕の席には花瓶が置いてあった。

「よお、志木。お前、生きてたのか? みんなで泣きながら冥福を祈ってやってたのに、涙返せやこら」

「ちょっと間桐君、ひどいよ~~。やめたげなよ~~」

イジメの主犯格の一人、間桐だけでなく、取り巻きの女子が口ではたしなめるようなことを言いつつ、こちらを見て笑っている。くそ、こいつら…………。

「もう、やめてくれないかな、こういうの」

勇気を振り絞って言ってみる。すると間桐は目尻を下げ、つまらなそうな冷たい声で言った。

「じゃあ、死ねよ」

花瓶を先生の机に戻し自分の席に座ると、今度はネチョッとした感覚がおしりに伝わる。

「きゃははは!! 何でさ、志木。気づくだろ普通www」

と笑い始めたのが近衛。立ち上がって椅子の上を見ると、何やら粘性の液体がべっとりと塗り付けられていた。無論僕のズボンにも…………。こいつら……。怒りを必死に抑え、雑巾を取ってきて丹念にふき取り、ついでにティッシュでズボンをぬぐう。やっと人心地付いて机の中に手を入れる。すると、グチャッとしたものが指先に触れた。取り出してみると、ネズミの死骸。

「あらあら、いけないわよ志木君。動物虐待だなんて。そんなの優雅さとは程遠いわ」

お嬢様の井坂がケタケタ笑いながら俺を見ていた。おのれ井坂、許すまじ。僕はネズミの死骸をごみ焼却炉まで持って行って放り投げた。教室への帰り道、俺は校舎裏で井坂、近衛、間桐その他に取り囲まれた。

「お前さ、なにかむかつくよな」

と間桐。

「そうそう、同じ部屋で息しないでくれる? 臭いから。」

と井坂。

「汚物溜めで溺死しろ」

と近衛。

 

 そしていつものように始まる、殴る蹴るの暴行。朝っぱらからなんて奴らだ。タチの悪いことに、こいつらは決して制服を汚さず、ケガも目立たないように配慮している。最後には関節技などを極めては面白がるのだ。

 どうせこいつらの言い訳は決まっている。「志木君と一緒に、ごみを捨てに行ってました~~」だ。アホ教師はイジメに気づいているのかいないのか、「そうか、偉いな」の一言で終わり。

 まじでこの国の学校教育は腐ってる。どこがクール・ジャパンだ。何が優しい国民性だ。裏表の激しさはきっと縄文時代から変わらない。いやむしろ、縄文時代のほうが裏表なく素直に生きられたんじゃないか? 

 痛みと屈辱の中で僕は確信する。こいつらは縄文人以下だ。そして衝撃に耐えながら決意した。こいつら、もう許さない。泣いて謝っても、絶対許してあげないんだからな!!

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「ルン・ルン・ラ~~~!!」

 三人がきょとんとするのが分かった。そして次の瞬間、全身に力が漲っていくのを感じた。

「ルナルドは悔しくなると、つい殺っちゃうんだ!!」

shake

 僕の口から、僕の声と被ってルナルドの声が放たれた。手足が伸び、背も高くなったように感じる。目の端に僕のものらしき髪の毛が見えたが、それはスプレーをかけたかのように真っ赤だった。あっけに取られてるいじめっ子どもに、僕は突っ込んでいった。まず井坂の首をちょん切り、蹴鞠のように優雅に蹴り飛ばしてやった。優雅な最期を迎えられて奴もさぞかし満足だろう。井坂の頭は空いた窓から職員室に吸い込まれていった。叫び声があがったようだが、気にすることもあるまい。

 次に近衛の腹を殴り、貫通し、内臓を掻き混ぜて上体を引き千切ってやった。そして間桐の腕を引き千切り、足をへし折り、小便垂らして命乞いする奴の頭を踏み潰してやった。すべてが夢を見ているような感覚だった。取り巻きも残さず殺してやった。

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 その後、どこをどう歩いたか。僕はトイレの鏡の前にいた。目の前には、ルナルドの格好をした僕がいた。変身するならもっとかっこいい奴が良かったのに。それにしても、さっきいじめっ子達を殺して回った感触が手足に残っていて今更ながら全身が底冷えして震えが収まらなくなっていた。

「これ、現実なのかな」

「モチロンさあ!!」

僕の顔で、ルナルドの声が答えた。

「警察に捕まっちゃうよ」

「モチロンさあ!!」

「モチロンさあっ!! って……ふざけるな!!」

「でも、助けてあげただろう? 君も嬉しかっただろう?」

「ここまでやる気はなかったんだ!! ちょっと懲らしめるくらいのつもりだったのに……」

 鏡の中の僕が冷めたような表情になっていった。そしてルナルドの冷たい声がトイレに響き渡った。

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「じゃあ、死ねよ」

Concrete
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