【夏風ノイズ】感傷ナイトメア

長編14
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【夏風ノイズ】感傷ナイトメア

 夢を見た。真っ白な世界で、俺の前には1人の女性が立っている。そういえば、この前も夢の中で会ったことのある人だ。

「やぁ、しぐるくん。3日ぶりぐらいかな?」

 女性は俺にそう言って微笑んだ。その笑顔には、俺の大切な人の面影がある。

「お久しぶりですね。えっと、名前は・・・」

「夏陽(なつよ)、鈴那のママです」

「ああ、夏陽さんでしたね。すみません、忘れてしまって」

「いいのいいの、この前は少ししか話せなかったからね。今回も、あんまり時間は無さそうだけど」

 俺はその言葉へ直ぐに返事をすることができず、少しのあいだ真っ白な世界に沈黙が流れた。

「へへ、ちょっと話しにくいかな。前回も中途半端なところで終わっちゃったし」

「え、いや、そんな・・・大丈夫です。全て千堂さんから聞きました」

 俺が言ったことに「うんうん」と頷いた彼女は、少し切なげな表情で目線を下へと向けた。

「鈴那は・・・だいぶ落ち着いたかな」

「はい、最初会った頃は不思議な子だな~なんて思ってましたけど、今では本当に頼りにしてます。まぁ、出会って1か月も経ってないですけど」

「いいんだよ、鈴那が成長するには君が必要だったんだ。それに、ひなちゃんも・・・」

「夏陽さん、祖父やひなのために色々ありがとうございます。あとは俺が何とかします」

「そう言ってもらえると心強いな~。ありがとうね、しぐるくん。さて、そろそろ時間みたいだよ。それじゃあ、次の世界で出会えたら・・・」

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「また、話をしようか」

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 午前9時、神原探偵事務所に集まった俺達は、最後の作戦会議を開いた。雅人さんは俺達に作戦内容を伝えると、通信機を手渡してきた。

 どうやら、これで連絡を取り合うらしい。わざわざこんな物まで用意して・・・高かっただろうに。

「必要なことがあれば、いつでも情報交換をしてほしい」

 雅人さんはそう言って、自分用の通信機を手に持ってみせた。

「了解っす。まさか俺がこんな大役を任されるとは。なぁ、しぐちゃん」

 右京さんがヘラヘラと笑いながら言った。この人と蛍ちゃんは、俺がひなを救出する際の補助をしてくれるのだ。俺からしても、信頼している右京さんがいてくれるのは心強い。

「右京さん、よろしくお願いします」

「おうよ!」

 そして、ゼロと春原は楊島周辺の護衛、各支部の支部長と昴は楊島の護衛と浄化の補助、鈴那と長坂さんは浄化を行う。

 市松さん達は、既に異界連盟の妖怪共と戦うため、島を中心に待機しているらしい。

「なぁ、日向子さんは?」

 俺は日向子さんの姿が見えないことに気付き、隣にいたゼロへと訊いてみた。

「向こうの世界でやることがあるので、行きました」

「向こうの世界って?」

「浄化で融合させる世界です。僕らが行く前に準備をするらしくて」

 準備・・・俺はまだ、影世界どころか、その反対側である『光の世界』のことすらも詳しく知らない。

 この町と瓜二つと言うからには、別の俺達も存在しているのだろうか。それとも、人のみが存在しない町が広がっているのだろうか。

 もし前者が正しいのならば、世界が造られた4年前から後に死んだ人間、ひなはどうなっているのか。それなら、4年前の夏に死んだ母さんは・・・?

「なぁ、影世界とかが出来たのって、4年前の何月何日か分かるか?」

 俺の問いに、ゼロは少し考えてから首を横に振った。

「ちょっと分かりませんね。会長からも、その辺は詳しく聞かされてないので」

「そうか・・・ありがとう。もしかしたら世界を浄化すれば、ひなが戻ってくるんじゃないかと思ったんだけど。だめかな」

「しぐるさんは、ひなちゃんを助けられると思いますか?」

 ゼロは、俺の目を真っ直ぐ見てそう訊ねてきた。そんなのは決まっている。助けられるかどうかではなく、助けてみせるのだ。

「助けるさ、必ず」

「なら、大丈夫ですよ!」

 そう言ってゼロは笑った。大丈夫とは、どういう意味なのだろうか。彼は何かを知っているのか?それを訊こうとした直後、誰かが俺の肩をポンと叩いた。

「しぐちゃん、そろそろ行くぜ」

 右京さんだった。どうやら、俺達はもう出発する時間のようだ。

「しぐるくん、頼んだぞ」

 雅人さんはそう言うと、俺に向けて親指を立てた。それに返すように、俺も親指を立て「大丈夫です!」と言った。

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 右京さんの車は、俺の頭に乗っているサキの指示通りに進んでゆく。

 ひなは既にこの町へ来ているようで、俺も僅かながらその気配を感じ取っていた。

 この気配を懐かしいと感じるのは、相手がひなであるという先入観なのかもしれないが、この町に渦巻く理由のない悪意の中で、呑み込まれそうな彼女の意思を感じずにはいられなかった。

「見えた!近いぞしぐる!」

 サキがそう言って、俺の頭から飛び降りた。右京さんは海と松林のある公園の駐車場に車を停め、ここからは徒歩で行くことになった。

「蛍、人形そのまま連れていけるか?」

「うん」

 右京さんの娘さんである藤堂蛍ちゃんは、人形術という一風変わった能力の使い手である。以前、その術を見せてもらったことがあるのだが、数体のマリオネットを操作して悪霊を制圧するその光景には圧倒されたものだ。

「しぐる、俺様はとりあえずお前さんに憑依しとくぜ。危なくなったら自分で抜け出すから、本気で行けよ!」

 サキは先の無い尻尾で、俺の頭をポンと叩いて言った。本日1回目の作戦、その担当が俺だ。成功するか分からない作戦だが、試してみる価値は十分にある。

「わかった。サキ、ありがとうな」

「しぐちゃん、今回どんな作戦でいくの?」

 俺とサキの会話が気になったようで、右京さんがそう訊ねてきた。

「俺の力は、まだ完全に目覚めてない。だから、暴走しているひなの力に俺の力をぶつければ、俺の力も上手く覚醒してくれるんじゃないかと思って。それまでは、サキの憑依で応戦するつもりです。右京さんは術でサポートを、蛍ちゃんは人形で俺達を包囲してほしいんです」

「まじかよ!けっこう危ないなぁ・・・でもそれしか無いもんな。よし!二流呪術師だが、サポートは任せとけ!」

 右京さんがそう言って俺の肩に手を置いた。

「右京さんは二流じゃないですよ!俺にとっては、流星時雨を伝授してくれた第二の師匠みたいな人なんですから」

「やだなぁ、照れるじゃん!まぁ、頑張れよ!」

 そんな会話をしながら松林の遊歩道を進んでいると、不意に例の気配が強くなるのを感じた。

「しぐる、行くぞ」

 サキがそう言い終えるや否や、俺の身体に憑依した。

「ああ、憑依・・・!」

 某ヒーローの「変身!」と似た、申し訳程度の決め台詞を言った俺は、通信機のイヤホンへ当たる風が変わったのを皮切りに、理由のない悪意が漂う方向へと歩み始めた。

「夏風ノイズ。こんな変わり者の風は、そういう名前がお似合いかもな」

(どうしたよ、お前らしくもねぇこと言っちまって・・・死ぬなよ?)

 俺の言ったポエム擬きに若干引き気味のサキは、それが死亡フラグとでも言いたいかのように注意を促してきた。

「死なねーよ。俺の任務は、ひなを助けることだけじゃないからな」

 俺の・・・俺達の前には、黒い悪意の竜巻が、もうすぐそこまで迫ってきていた。

「最大出力で行くぞ」

 俺はそう言うと、黒い竜巻の上まで飛んで突破口が無いかを確認した。が、どう表現すればいいものか。普通に例えるならば、隙が無いと言うべきなのだろう。技を打ち込む隙間が無いという意味でもあるが、渦巻く悪意の分厚さというか、威圧感のようなものが凄まじいのだ。

 だが、それに怯んでもいられない。俺は手始めに、黒い竜巻へ向けて気功を撃ちこんだ。

「ひな!その中にいるんだろ!いたら返事してくれ!」

 気功と俺の言葉は、竜巻の轟音と共に掻き消された。やはり一筋縄ではいかないだろう。そう思い、一旦地上へ降りた俺は、身体全体に念を込めて竜巻に突進した。

(おい!いくら何でも無謀すぎんぞ!)

 頭の中にサキの声が響いたが、悪いけど構っていられない。この中にひながいることは分かっているのだ。冷静に考えているより早く行動を起こしたい。

「うおおおおおおおおっ!!」

 全力で叫びながら突っ込んだ俺は、呆気なく突き飛ばされて松の木に背中を強打した。やばい、サキがバリアを張ってくれていたから助かったが、それでも息が苦しい。

(ったく、お前バカか!そのまま突っ込むとか危険すぎる!周りよく見ろ、右京達とタイミング合わせて行くぞ!)

「え?」

 サキの言葉で周囲を見渡すと、木の上では右京さんが術の陣を準備しており、蛍ちゃんはマリオネットで竜巻を包囲し、力を弱める術を試みている。

「もう一回いけるか?しぐちゃん」

「いけます!」

 全く、自分で立てた作戦を忘れて勝手に突っ走るとは、俺もなかなかの馬鹿である。クラスメイトの山岡や遠藤に馬鹿だなんて言えないな。

「奥義・流星時雨!」

 右京さんが竜巻へ向けて術を撃った直後、蛍ちゃんのマリオネットはその場を退き、俺は最大限の力を込めて再突進した。

「除霊タックル!」

 と、今考えた技名を必死に叫びながら。

(なんじゃその名前・・・)

 サキの呆れた声が聞こえ、右京さんの術が竜巻へと直撃し、そこへ俺が突っ込んだ。気が付くと、俺は黒い竜巻の中で、無意識のまま立ち尽くす少女へ手を差し伸べていた。少しずつだが、前に向かっている。この手は必ず届かせる!

「大丈夫・・・!ひなッ!」

 無機質な悪意の中に響いた俺の声は、彼女に届いただろうか。気付けば俺の中でサキの声は聞こえなくなり、不思議と身体が軽く感じるようになっていた。

 伸ばした俺の手は少女の手をしっかりと握りしめ、悪意の渦に抗って抱き寄せた。その瞬間、いつか見た夏風に吹かれる花が、心の中に咲いた気がした。

「ひな、ずっと伝えてくれていたんだな」

 次第に俺の意識は遠退き、次に目を覚ました場所は、見覚えのある無人駅のホームだった。いつかの夢で見た、あの風景・・・俺は近付いてきた電車へ乗り込むと、適当な席に座った。電車は途中の駅で止まることなく、気付けば終点が近くなっていた。

 俺はその駅で降りると、何となく歩き始めた。違う、何となくではない。道を覚えていたのだ。この場所は、あの時みた夢と同じ海辺の町だ。

 海岸沿いの土手を歩いていると、砂浜で立つ一人の少女と、蹲る一人の女性が見えた。俺は少女が誰なのか直ぐに分かり、砂に足を取られながらも急いで駆け寄った。

「ぐすん・・・もう、これ以上なにも壊したくない・・・どうして世界を呪ったりしちゃったんだろう。あたし、馬鹿だ・・・」

「そんなことないよ!あゆみさんは悪くないって・・・もう何回言ったんだろう。私達が助けるから・・・もう、終わりにしよ」

 嘆く女性に向けて言い聞かせていた少女は、そう言ってから俺の方を振り向いた。彼女は、三年前の姿のままでそこに居た。

「ひな・・・!」

「待ってたよ、お兄ちゃん」

 俺はひなの元へ駆け寄ると、そのまま優しく抱きしめた。彼女の身体は冷たかったが、心は確かに息をしているように感じた。

「ずっと・・・ずっと探してたんだ。お前が死んでから、俺に欠けた何かを。けど全然見付からなくて、気付いたら自分が自分じゃなくなっているような気までしてて・・・支えてくれる仲間は沢山いた。みんなに迷惑かけっぱなしで生きてきた。けど、やっぱりお前のいない人生なんて、俺にとっては価値なんて無かった」

 ひなを抱きしめたまま、心の底から溢れだした感情をぶつけるように話し、涙を拭うこともしないでひたすら流し続けていた。

「お兄ちゃん、ちょっと苦しいってば」

 ひなが苦笑しながら言った。俺は抱く力が強くなっていたことに気が付き、慌てて彼女から少し離れる。

「あ、ごめん・・・い、色々話したいことあるけど、今はやるべきことやんなきゃな」

「うん・・・でも、ありがとね。助けに来てくれて」

 ひなはそう言って、3年前と同じ笑顔を俺に見せてくれた。こんな時でも笑顔になれるなんて、やっぱりひなは強いな。

「あ、そうだお兄ちゃん、このお姉さんの力を私が取り込んで暴れちゃってるの。早く助けてあげないと!」

 俺はひなの後ろで蹲っている女性のほうを見た。彼女は、まだ泣いていた。

「ひなが、お世話になりました。あの、あなたを助けたいんです。協力させてください」

 俺は女性と同じ目線まで屈むと、そう言って手を差し伸べた。無論、彼女の力によってひなが死んだのは事実だ。だが、彼女もまた被害者だということも分かっている。今は、二人とも助けなければ意味がない。

「あたし・・・世界を呪っちゃったんだ。親から虐待されて、学校でもいじめられて、何度も何度も自殺しようって考えたけど、やっぱり死にきれなくて。でも、助けてくれた人がいたの。もう大丈夫って。でも、それも結局は嘘だった・・・あの人はただオモチャが欲しかっただけ。あたしは都合のいい人形でしかなかったの。だから・・・あたし、彼を殺して、自分も死んだんだ」

 ひどい話だ。この世界から一方的に虐められた挙句、自ら命を絶つだなんて。理不尽だ、本当に。

「初めて人を殺した感覚が、自分が死んでからも怖くて、その怖さだけがどんどん強くなっていって・・・気付いたら親も、あたしを虐めた子たちもみんな呪い殺してた。それからワケが分からなくなって、気付いたら隣にひなちゃんがいて・・・」

 女性は話し終えると、再び泣き出してしまった。その様子を見たひなは、女性の頭を優しく撫でている。

「あゆみさん、私がここにいるのは、あゆみさんのせいじゃないんだよ。あのときは、ただあゆみさんの力が暴れちゃってて、だから私の能力に引き寄せられちゃったんだよ。私は大丈夫だから、もう悲しまないで」

 ひならしい言い方だ。この子は昔から自由気ままだが、人に優しくて誰よりもしっかり者で、俺の・・・憧れだ。

「ひなちゃん・・・ありがとおおおお!!うわあああん!!おっ、おにいさんも・・・助けにきてくれてありがとうございますうううあああん!!」

「え、いやぁ、俺はまだ何も・・・でも、必ず助けます!ひな、行けそうか?」

 俺の問いかけに、ひなは笑顔で頷いた。

「うん、もちろんだよ!ずっとこの時を待ってたんだ」

 ひなはそう言って、俺に左手を差し出してきた。俺は彼女の左手を右手で握り返し、二人でもう片方の手を夏空に翳した。

「止めよう、この暴走を」

 ひなの力が暴走している今の状況ならば、彼女と対の力を持つ俺が暴走を止められる。今ここにいる、ひなの力を借りて。

「あゆみさん、もう大丈夫。お兄ちゃん、頑張ろうね!」

「ああ、いこう!」

 俺達が力を解き放った瞬間、海辺の風景は一瞬にして何もない真っ白な風景へと移り変わった。

「止まった・・・」

 僅かな沈黙の後、女性がそう呟いた。確かに、先程まで感じていた妙な気の流れは完全に消え去り、ひなも嬉しそうな顔をしている。

「あ、結構あっさり止められたな」

「私とお兄ちゃんが力を合わせれば最強ってことだね!やったー!」

 俺とひなはハイタッチをした。何年ぶりかのハイタッチだ。

「ありが・・・とう・・・!」

 先程まで蹲っていた女性が、気付けば立ち上がっていた。彼女は涙を流しながらも、嬉しそうに笑っていた。

「ありがとう、ありがとう・・・!ごめんね、こんなに長い間迷惑かけて。ひなちゃん達にも、この世界にも・・・」

「もう、大丈夫です。これからは、せめて・・・安らかにお眠りください」

 俺がそう言い終えた頃は、もう既に彼女の姿が消えかかっていた。笑顔で、手を振りながら。

 あの海辺の町は、彼女の中にあった心象風景のようなものだったのだろう。彼女が現世の束縛から解放されることで、その風景も消えたのだ。

「お話してくれてありがとう、あゆみさん」

 ひなの声を聞いた直後、俺は凄まじい立ち眩みに襲われて意識を失い、気付けば右京さんと蛍ちゃんが俺の顔を心配そうに覗き込んでいた。

「あっ、気が付いたか!よかったぁ・・・竜巻の中に入ってったと思ったら、暫くして急に静かになったから心配してたんだが、成功したんだな!立てるか?ひなちゃん、そこにいるぜ」

「え、あ、どうも。ひな!?」

 ひなが、いるだと!?どういうことだ!低血圧だったはずだが、妙に軽い身体を起こしてみると、先程まで黒い竜巻が渦巻いていた場所では、赤い目を眠たそうに擦るひなと、その横で彼女を見つめるサキの姿があった。

「ひな!お前、その姿は・・・?」

「ん、お兄ちゃんおはよ~。私?いま幽霊になってるから、身体がふわふわしてる感じだよ~」

 初めてだ、幽霊とこんなふうに会話をしたのは・・・ひながこうして実体を保っていられるのも、彼女の能力なのだろうか。

「お、おはよう。あ、そうだ!ひな、たぶんもう成仏したいかもしれないけど、最後に一つだけお願いがあるんだ!聞いてくれるか・・・?」

「ん?いいよ!っていうか、そっか~・・・死んでるから成仏しないといけないんだね。散々だなぁ・・・ま、いいや。お願いってなに?」

 ひながここまで楽観的なのは、死んでから3年も経ってしまっているからなのだろうか。昔は自分のことをバケモノだなんて呼んでいたのに、成長したな・・・と言うべきなのか?

「今この町はな、巨大な呪詛で人の世界じゃ無くなろうとしてるんだ。その呪詛を止めるには、お前の力が必要なんだ。楊島に城崎鈴那っていう霊媒の女の人がいるから、彼女に憑依して町を救ってほしい。詳しい話は向こうで教えてもらえると思う。まずは右京さんの車で楊島に向かおう」

 ここで俺は「幽霊も車に乗れるのか」という疑問を覚えたが、心霊スポットの怪談でそんな話をよく聞くので、まあ大丈夫だろう。

「う~ん、話が難しいね・・・でもわかった!私にしかできないことなら、私がやるしかないよね!」

「ありがとう!それと、ひな」

「うん?」

「大好きだよ。どんなに離れていても」

 俺の言葉を聞いたひなは、嬉しそうに抱きついてきた。今更だが、シスコンここに極まれりだな。

「お兄ちゃん・・・またいつか、会えたらいいね」

「ああ、またいつかな」

「ちょいちょいちょいちょい、いくら3年ぶりの再会とはいえ兄妹でイチャイチャしすぎだろ~!おいしぐる、露ちゃんが妬いちまうぜ?」

 兄妹水入らずの時間に突如として乱入してきたサキは、そう言って俺の頭に乗っかった。

「あ!あの時のヘビさん!生きてたんだ~」

 そう言えば、ひなはサキとも知り合いだったか。彼女が死ぬ直前、最後に言葉を交わした相手はサキだ。

「久しぶりだなぁ~!って今頃気付いたのかよ!生きてたぜ、しぐるのおかげでなぁ」

「よかった~、あのときは巻き込んでごめんね。あと、助けようとしてくれてありがとう!」

「な、なんだよぉ照れ臭いじゃねーか」

 ひなが楽しそうに話しているのを見て、俺はこの上ないほど嬉しくなった。だが、これから喜んでばかりもいられない。この町の脅威を、何としてでも阻止しなければならないのだ。

「サキ、右京さん、蛍ちゃん、ひなをお願いします」

「え・・・しぐちゃん、これからどうすんの?」

 俺は通信機を使い、ひな救出の任務が終わったことを知らせると、そのまま次の任務を遂行すると告げた。

「おいおい、少しは鈴那ちゃん達に顔見せてけよぉ。それにお前さん一人で大丈夫か?俺様にできることがありゃ力を貸すぜ?」

「サキ、俺の力は完全に目覚めた。お前はもう俺に憑依できないだろ。だから、お前は向こうに行って露を守ってやって欲しい。それに・・・」

 今はこの町を救うことが大切だ。そのために、俺は早く敵地へ赴かなければならない。浄化の儀を行うのであれば、当然ながら汚染の儀を行っている異界連盟の者が存在する。影の力が蔓延る領域に抵抗なく乗り込めるのは、影の力のみを持つ俺だけだ。つまり・・・

「今の俺は、浄化された楊島に入れないからさ」

 俺はそう言って精一杯の笑顔を作った。本当は寂しさで胸が張り裂けそうなのを、誰にも悟られないように。イヤホンからは、浄化の準備が整ったという昴の言葉が聞こえてくる。

 さぁ、ここからは俺一人の作戦だ。

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