職場の看護師さんから聞いた話です。
私が時々臨時で働いている病院は療養型の病院で、幽霊が出る、と看護師さんたちがよく言います。
いろんな幽霊がいて、基本的には
立ってこっちを見てるだけ、とか
ナースステーションの横を通過するだけ、とか
無害なやつが多いのですが、
ある病棟にはスケベな幽霊が出ます。
そのスケベな幽霊は夜勤の看護師さんのお尻や胸を突然つかんでくる、という厄介な奴で、
姿は見えず不意打ちなので、やられるとすごくビックリするそうです。
出る時期と出ない時期がありますが、出る時期には毎日のように出るので、
看護師さんたちは怖い、というよりムカつく、
と口をそろえます。
男は決して触らず、女であればまぁまぁ年齢が上の看護師さんでも被害にあいます。
ある看護師さんが夜勤中にお尻をつかまれ、
腹が立ったので「スケベ!」と言うと
それに答えるように
「ハハハハハハハハハ!!!」
と病棟中に響き渡る甲高くて異様な笑い声がして、寝ていた患者さんも何人かその笑い声を聞き、ちょっとした騒ぎになりました。
その幽霊が患者にのりうつっているのでは、
ということもあるようで、
とても紳士的な高齢の患者さんが、認知症が全くないのに夜になると突然興奮、混乱し、
信じられないような卑猥な発言をして、
翌朝には何も覚えていない、
というようなことが一度や二度ではないそうです。
看護師さんが一番ぞっとしたエピソードとして教えてくれたのが、重度の寝たきりのおじいさんの話です。
長い期間ベッドに横になって動けない状態でいると、人間の手足の筋肉は萎縮して、ほとんど骨と皮だけのような状態になり、
いわゆる寝たきりになるのですが、
重度の場合は寝返りをうつこともできなくなります。
そんな重度の寝たきりのおじいさんがいる病室で、ある日の夜勤中、
ドン!!っという大きい物音がしたため、
看護師さんがかけつけるとその寝たきりおじいさんがベッドから落ちていました。
おじいさんは右膝を脱臼(関節が外れること)していて膝から下が痛々しい方向に曲がっていました。
しかしよく考えると、このおじいさんは寝返りもうてないはずなのに、
どうやってベッドから落ちたんだ?
となりました。
ベッドには柵がしてあってすべり落ちる、ということは考えられません。
誰かが持ち上げて故意に落としたのではないか、と。
そのおじいさんの隣のベッドの患者さんが認知症とせん妄(混乱状態のこと、叫んだり徘徊したりするので、十分な注意が必要)があり、
夜勤中はスタッフの人数が減り、ずっとそのせん妄の患者さんに付き添っているわけにもいかないので、
家族に状況を説明し同意を得たうえで、監視カメラによる遠隔チェックをしていました。
その映像の端の方にぎりぎりベッドから落ちた寝たきりのおじいさんも映り込んでいたのです。
監視カメラの記録映像を見れば、寝たきりおじいさんをベッドから落とした誰かが映っているかもしれない、
ということで映像をチェックすると
深夜1時ごろ、寝たきりおじいさんは突然目を覚まし、
ロックミュージックを聴いている人が頭でリズムをとるように頭を揺らしはじめます。
かなり長いことそうして揺れていましたが、
そのうち左右のベッド柵を掴むとさらに大きく上半身を揺らし、ボートをこぐような動作になり、
ついにはベッドの上に立とうとします。
骨と皮だけのような細い細い手足で立とうとするので、激しく震えていましたが、
なんとか足をふんばってベッドの上に立ちました。
するとおじいさんの細い足は体重を支えきれず、
膝がバキっと脱臼してベッド横に転落したのでした。
現場ではとりあえず落ちたおじいさんを助けないといけないので、
抱えてベッドに持ち上げようとすると、おじいさんは震える手で介抱している看護師さんの胸を触ってきて(手が当たってしまったのではなく、あきらかにいやらしい触り方)、
顔を見ると
顔全体をクシャクシャにして笑っていたそうです。
膝を脱臼して激痛のはずなのに、ありえない、
ずっと寝たきりでほぼ動かない人だったので、しっかり動いているのを初めて見た、
あのスケべな幽霊がとりついてたんだろう、
あの不気味な笑顔は思い出すたびに身の毛がよだつ、
そのスケべな幽霊が病院で一番の悪霊、
とのことです。
作者OD