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長編8
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視線

人はなぜ視線を感じるのだろうか?

視線を感じとるというのはある種の第六感的なものなのだろう

迷惑だと思う、誰もそれを感じなければ女風呂をのぞきたい放題だし

学生はテストのカンニングしたい放題

そして片思いに悩む純愛少年に少女は相手に気づいても、、ん?これはどうなんだ、何か少し違うと感じ考えを戻す。

なぜこんなことを考えているのかって?

俺にもわからないからあまり深追いして聞かないでくれ

だがしかし、ひとつ言える事は俺が今感じているこの視線、これは確実に俺に向けられている、そんな視線だということだ。

これは兄貴が死んでからの俺たち4人の話

「今夜何食べたい?」

Nちゃんとスーパーで夜食の買い物をしていた

「ん~カレー!」

「それ、2日前に食べたじゃん」と笑われた

「なら聞くなよ」と少しだけ不貞腐れてみせた俺に、Nちゃんは今夜もきっとカレーを作ってくれるんだろう。

カゴの中は人参、じゃがいも、玉ねぎetc...

俺たちが出会ってまだ間もない時の話だ

「もしも、もうあなたは死にます、最後に一つだ食べるなら何を食べる?」

俺達の日課だったホラースポット巡りの帰り道、Nちゃんが言い出した。

俺と兄貴は何の躊躇もせずに答えた、「カレー」

声がかぶり2人してお互いを見るNちゃんは

「2人とも手がかからなくて楽だね」と笑う

もういっこあげるとしたら?という質問には意見が分かれた、俺はチョコレートで、兄貴は冷蔵庫の中にある残り物で作ったチャーハンという限定的な答えが出てきて3人して笑った

Nちゃんはもともと料理は得意ではないけど、一生懸命何回も何回も作ってくれるもんだから、俺はNちゃんのカレーが大好きになった

「究極の選択ってあるじゃん?」

俺は思い出してNちゃんに聞いてみる

「うんうん、前よくやったね」

彼女が言う前というのは、そのホラースポットの帰り道兄貴と3人で遊んでいた頃の話だ

「そうそう、生まれ変わるなら男か女?とか、愛するほうがいいのか愛されたいのかとか、久しぶりにやろう、となってスーパーで買い物を続けながら

「死ぬ前に見たい、最後の映画は?」

自称映画評論家の俺に聞いてきたので話し始める

「バタフライエフェクト、これは絶対外せないな、俺にとって究極の愛の形を提示している映画だと思うからね、それでも他にありすぎて迷うな、そうだなぁ歪んだ恋愛観を表現したエターナル・サンシャインもいいし、嵐の中を走る2人以外スローモーションの雨のシーンがとても好きな恋は嵐のようにとかとか、うーんでもやっぱりバタフライエフェクトかな......」

長舌に評論する俺を置いてNちゃんはカートを押して先に進んでいた

どうやら質問を間違えたらしい。

ひき肉をカゴに入れている間も

「6days7nightも好きだから、気分で変えるかも」

あまり気にせず俺は横に並びまだ映画の話しを続ける

6days7nightで質問を思いついたのか、嫌ってほど俺に映画を見せられているため、ある程度の映画は分かるようになっているNちゃんは大道中の大道、究極の選択を聞いてきた

「無人島に一つだけ何かを持ち込むなら、なにを持ち込む?」

「きた~王道、これね、これ難しんだよね、ナイフは石を砕けば作れるし、火は摩擦か光で起こせるしね、これはその島に住む前提?逃げる前提?」

「逃げる前提」Nちゃんはルーを取りながら言う

悩んでいる俺を置いて彼女はまた進んでいく、買い物を終わらせ、帰る道はいつものひとけのない一本道

民家からお笑い番組の音が聞こえたり、音楽番組の音が聞こえたり、かすかに感じるそこに誰かの人生があって、誰かが生きている人生の気配

Nちゃんは最近もっぱら家に泊まりに来ている。

彼女に、彼女の家のことを俺は聞かない、彼女も語らないし、別にそれでいいと思うのだ

右手にスーパーの袋を持っているので左手をNちゃんの右手に差し出す彼女は少しニコッとしてと手を繋いでくれる

民家を過ぎると、俺たちは小さな公園を横断する、その時握った手が少し強くなったことに気づいた

どうした?と振り返った俺は下を向いてテクテクと歩いているNちゃんに何かあったのかと気になった。

Nちゃんは「ここの公園、いつも買い物終わりに通るんだけどさ、ちょっと苦手でさ」

と言う、「苦手とは?」俺が訪ねてみると彼女は続ける

「何か感じない?」と言われ、何かを感じてみようと思っても何も感じない。

「やっぱ勘違いかなぁ...それならいいや」と彼女はまた歩き出す

「感じる!!」俺が急に大声を出したものだからNちゃんはビクンと飛び跳ねる

「何!?」

焦るNちゃんを笑いながら俺は歯の浮くようなセリフを言う

「Nちゃんのぬくもり」

俺は握った手をぎゅっとする

今度は違う意味でNちゃんは下を向く。

次の日、俺は昨日の公園に来ていた、今夜Nちゃんはうちに来てはいない、そしてなんで俺がここにいるかというと、俺は昨日確かに感じていた。

それはねっとりとまとわりつくようなそんな視線だった。

さて視線を飛ばしてきていたのは誰だ

そしてこれは何の視線だ、この二点をまず調べようと思った。

調べるにあたって理由なんてなんでもよかった、Nちゃんに危険さえ及ばないなら、そして俺は数多く存在する、好奇心旺盛な怖がりの1人なのだから

別に俺は第6感が優れているとか、霊感が優れているわけではない

Nちゃんは俺より優れているみたいだけど、でもここは確かに感じるんだ

公園の真ん中に立ち、目を閉じる。

感じる...こっちを見ている...自分の右後ろの方から視線を強く感じ、そちらを振り向いた。

目を開けた、俺の目の前に眼球が二つ浮いている、急展開すぎてまだよく分からない。

俺の前にある眼球の黒目は次第に横へ伸びていき、ヤギの目のようになった、目をそらすことはできない、俺はそのまま目玉を見ている、何もないところに目玉が二つ。

目玉は公園の入り口に人の気配を感じたのか、そちらをギョロっと見ると次の瞬間には消えていた

この時やっと俺は自分が金縛りにでも会っていたかのように動けなくなっていたことに気がついて、座り込んだ。

そこを通りがかった学生カップルは「あれ人じゃない?」だとか「公園に1人でこんな時間に座り込んでんだから、絶対危ない人だよ、離れるよ」とかコソコソ喋っているのが丸聞こえだ。

おかげで少し現実に戻れた気はする。

だからそれで良しとしよう、ただあれは何だったのだろうか

邪眼的なもので見られた?

でもそうだとしたら俺は気が狂っているはずだ

そんなことを考えながらペンキの剥がれかけたベンチへ移動する

思考をめぐらせているとふいに声をかけられた

「覚えてる?ここ、あなたと初めてあった日、あなたのドッペルゲンガーを埋めた公園だよ」

その優しい声に俺はびっくりするどころかドクドク言っていた鼓動が落ち着きを取り戻す

「こんばんはCさん、忘れていました。俺は本当に甲斐性無しのダメ野郎だな」ガクッと肩を下げた。

お盆も終わり、大方の供養されたであろう霊たちはおとなしくしている頃だ、Cさんの言うドッペルゲンガーとは俺とCさんが出会った夜、車にひかれて死んでしまった獣のことだ。

道路に横たわるその小さな獣を俺たちはここへと運び埋めたのであった

この辺だっけ?とスーパーの袋をガサゴソしているCさんを見て、ここに植えましたよとフジの木の下を指差す

Cさんは、大学芋とお酒のワンカップ、なぜそんな渋いものを、とは突っ込まなかったが...それをお供えするとその木の根元に座り込み「飲む?」と更にワンカップを差し出してきた

「どうも。」と多少遠慮気味に受け取り、俺もそこへと座り込む

「死んだらどうなるんだろうね?」

2人共木の幹を見上げていた

「そのままなのか、それとも何か変わるのか。」

どうやらCさんは今夜は哲学の虫につつかれているらしい

「姿、形は自分の求める姿に変わるって聞いたことありますよ」

俺が言うと

「だから死んでからお化けはそれぞれ個性豊かに変わっているのかな?」

とCさんは少し楽しそうにしている

「A君はさ...」

そのまま黙り込んでしまった

続きをどうぞの返事を返す「はい?」

彼女はワンカップをグビグビと飲み干して

「どっちが幸せだと思う?」

前置きをしてから

「死んで、思い出、記憶をそのまま維持できるけど、誰にも見えない認識もされない。ていうのと、霊として特定の人に見えるし、認識もされるけど、自分は思い出も記憶もない。A君ならどっちを選ぶ?」と質問され、俺は考え込む

俺は答えを出せなかった

あの公園で見た目玉はきっと後者なんだと思う。

あの獣に違いないと俺はわかった、そう感じた。

でもあの獣に敵意はなかった。

ただ俺のことを見ているだけ、きっと何か伝えたいわけでもなく、なんとなく、俺を知っているから眺めているんだけだ。

Nちゃんが感じていた、見られる感覚は俺を眺めているその獣だったんだろう、その獣はずっとあの公園で何の目的もなく存在し続けるだろう

いつか自分でその目を閉じて、自分の存在を消すまで。

あの夜公園からの帰り道Cさんに

「たまにはあの獣ちゃんに会いに行ってあげなさいね」

と背中をバシンと叩かれた、まるでそれが関わりを持った人の使命なのだからと俺は言われた気がして少し膨れ、Cさんにも質問を投げかけてみた

「Cさんはさっきの質問だったらどっちを選ぶんですか?」

すると少し前を歩いていた彼女は振り向きニコッと笑うと

「私は誰かさんの心に取り付いて生き続ける」

と、第3の答えを出してきた

「えっ、そんなんありなんすか、なら俺もそうする!!」

と2人して笑いながらその日は解散した

死人の心にまで取り付くとは魔性の女だなぁと胸の痛みを少し感じながら俺はベッドでゴロゴロしつつNちゃんに電話をかける

もしもし、A君どうしたの珍しい

電話を俺からかけるのはあまりないので、Nちゃんはちょっと嬉しそうなのを感じ、俺も嬉しくなる

「無人島に一つだけ持ち込む何か決めたよ」

「何?」Nちゃんは笑って聞いてくれる

「Nちゃんを連れていく、そしたら俺はいくらでも頑張れるし、生き抜ける気がする、Nちゃんのためだからね」と俺も笑った

人生とは無慈悲なものだ

何だって求めた全ては手に入らない

神はあまりにも多くのものを俺たちに与え、その中でも本当に自分に必要なもの、それも凄く小さなこの両手で掴める分だけしか手に入らないようにしてしまった。

俺は死んだらどっちを選ぶんだろう、その時俺は欲しい物全てを手に入れられるだけ手を生やした化け物になるかもしれない、そうしたらすべて...

俺達は久しぶりに電話で話し込み、気付けば朝。

「会いに行けばよかったね」そういうNちゃんに俺は

「たまには電話越しに愛しく感じるのも悪くないよ」

と昔のように受話器の先にいる相手を思った。

Concrete
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