いやはや
オヤジが帰ってきて我が家は一気に明るくなったのに一夜でどん底に落とされた
いったい誰が石をなげたのだろうか・・・
私はすぐにスマホで石を写して和尚様へメールを送った
それと子供たちに見られるとよくないので片隅に石を置き土を被せた
四方に塩とお薬とお守りも置いた
しばらくすると和尚様からの返事のメールが来た
今日の夕方にはこちらに来るとのこと
メールにはいろいろと書いてあった
とりあえず今日は誰一人結界の外から出ないように
オヤジ様の様子を観察してほしい
上記2点を特に守ってほしいと書いてあった
気になるのはオヤジを監視しろ、ということだ
どういうことだろう・・・
あれこれ考えてもよくわからない
和尚様が来るまでは何事も起きなければいいけど・・・
とりあえず、写した写真をオヤジに見せた
「お!・・・・・うっ・・・・」
「どうした?オヤジ?」
「いや・・・その・・・なんでもない・・・」
「今日の夕方頃には和尚様が来るから
オヤジは特に家の中にいてくれよ、いいな!」
「おう・・・わかったよ、今日は大人しく家にいるか・・・」
「孫の遊び相手をしててくれればいいぞ」
「そうだな・・・久しぶりに孫たちと遊ぶか・・・」
なんだ・・・このリアクションは・・・写真を見た途端に顔色が変わったぞ
何か知ってるな、オヤジ
今、事を荒らげてもよくないような気がする
和尚様が来るまではオヤジの様子を観察しよう
「F!、見たか?おやっさんの反応・・・何か知ってるよな・・・」
「あぁぁ・・間違いなく知ってるぞ」
「S君、今日は子供たちとオヤジの様子を見ててほしい
俺も様子は見るけれど・・・・
この石のことは一切、和尚様が来るまで秘密な!」
「そうだな、せっかくおやっさんが帰ってきて明るくなったんだからな
わかったよ」
リビングへ戻った
「子供たちよ、今日は中庭でオヤジと遊ぶといいよ
オヤジは今日は1日中、暇だからね、遊んでもらいなさい
それと、今日は外出は禁止だよ
なにか買い物があれば、パパかSおじさんに頼めばいいよ」
「やったーー、じっちゃと遊べる」
「あたちもうれしいんだぞ」
「じいちゃ、将棋でもしようよ」
「それと、巧と仁は妹たちとも遊んでくれ」
「了解、パパ」
「わっ!兄ちゃんたちとも遊べる!!!」
「あたち、トランプとかしたいんだぞ」
おふくろやS子やF子にも今日は外出はしないようにと言っておいた
おふくろには夕方に和尚様が来ることだけを知らせた
おふくろはすべて分かったらしく
「和尚様が来るんだね、また何か問題が起きたようだね、わかったよ」
久しぶりに一家団欒という感じ
中庭で大人しく遊んでてほしい
朝食も久しぶりの賑わいというか明るい食事となった
さっそく食事を終え子供たちとオヤジは中庭に行きなにかしらはじめたようだ
私は薬とお守りと塩の在庫を調べた
若干余裕があるくらい
もう1度メールでもってきてくれるようにとメールに書き込んだ
それと水ようかんも頼んだ
台所ではおふくろとF子、S子の3人でおしゃべりをしながら後片付けをしていた
私は1時間おきに各部屋をのぞきに行った
別に何も変わった様子はない
中庭から子供たちのはしゃぐ声がよく聞こえてくる
本当に久しぶりの子供たちの歓声
いいもんだな
おふくろたちが後片付けが終わりリビングへ来てくつろいでいた
相も変わらずよくしゃべる
私はスマホをいじくりながら外の音や気配を気にしながらおふくろたちの話を聞いていた
「もうそろそろ10時だね、子供たちを呼んでおくれ。おやつだよ」
「おう、わかった」
私は中庭へ行き子供たちを呼んだ
ぞろぞろとオヤジを筆頭にリビングへ戻ってきた
子供たちの笑顔
本当に久しぶりに見た
「あたち、じっちゃの横に座るんだぞ」
「わたしも、じっちゃの横だよ」
相も変わらずオヤジは孫娘からの人気者だな
「じっちゃ、おやつ、すこしわけてあげるね」
「あたちもだぞ」
そこにS君、S子兄妹の漫才が加わりリビングは大いに盛り上がった
おやつの後、子供たちは中庭へ行かずにリビングでそれぞれ遊びだした
仁とオヤジが将棋を始めた
オヤジの手を握って離さない葵が不思議そうに見てた
楓は巧と何やらモデル雑誌の本を見ながら話してる
将来、この2人はモデルになるのだから
F子にとって最大のライバルだな、この2人は
「F子、巧と楓、モデル雑誌を読んでるみたい
おまえ、いずれこの2人と競争するかもしれないぞ」
「え!?なに?アニキ?巧君と楓ちゃんと何の競争になるの?」
「モデルだよ、モデル、将来なこの2人はモデルになってすごい人気になるんだよ
うかうかしてるとF子、あっという間に追い抜かれるぞ!」
「えええ!!どうして、アニキ、2人が将来モデルになるってわかるのさ
あ!私をからかってるんでしょ!いじわる!!」
「いや、真実さ、後10年後にわかるさ」
「おっちーー、パパ、F子ちゃんをいじめちゃダメなんだぞ
そんな出鱈目、誰も信じないんだぞ!」
「F!、その話、本当だろうね!楓ちゃんと巧君がモデルになるって本当かい?」
「そうだよ、おふくろ、間違いない」
「ちょっとおまち」
そう言いながら寝室へ行ってしまった
しばらくするとなにやら手に写真を持って戻ってきた
「ほれ!そこにいる手下の高校生の時の写真だよ」
「おっちー!!!パパ(オヤジ)、わっ!むちゃくちゃカッコいい!!!
まるでモデルさんみたいに体が細い、足が長い!!!」
「どれ、・・・これ!!!マジでオヤジか?・・・
(この写真を見て私はびっくりした、将来の巧とよく似ていたから
顔つきはオヤジのほうが鋭い顔をしているが全体的によく似てる)」
「すごい!!パパ、かっこいい、本当にモデルさんみたい
ママ、パパってすごいね」
「ほれもう1枚」
「おっちーー!!パパ(オヤジ)とママ(おふくろ)だ!!
似合ってる!!!ママ(おふくろ)むちゃかわいい」
「ママ、かわいい、体が細い・・・2人ともモデルさんみたい」
「どれ・・・うっ!!!!げっ!・・・今とじゃ全然違う」
「なに?F!今なにかしゃべったかい?」
「ううん・・別に・・・・」
いまじゃ・・・おふくろの体は・・・相撲取り・・・・寒気がした
楽しい時間はあっという間に時間が過ぎる
和尚様からメールが来て「今お寺を出た」と知らせが来た
この時間帯だと夕方6時ごろに着くかな・・・
もう1点、夜の8時以降は絶対に外へ出るな、書いてあった
お昼からも
私は1時間おきに各部屋を見回った
異変はない
昼からはリビングで遊んでいる、はしゃぐ声がよく響く
葵は相も変わらずオヤジの手を握ってる
「おふくろ、葵にオヤジを取られるかもよ」
「あぁ・・・将来的には私と手下の面等を葵ちゃんがみてくれるとうれしいんだけどね
葵ちゃんは、本当に優しい孫娘だよ、小さい時のS子ちゃんみたい
しゃべりかたや歩き方がそのまんま
はじめてS子ちゃんが家へ来た時に「かわいい」と思ったからね
それに「おっちー」という口癖もかわいい
他の人はこの「おっちー」でだいぶからかったようだけどね
葵ちゃんの小さな手はまさにS子ちゃんの小さい時の手だよ
たまに小さい時のS子ちゃんの夢を見るよ」
「おっちーーー、うれしいんだぞ、ママ(おふくろ)」
「ママ!!!、いい加減にその「おっちー」という口癖、直してほしいぞ!!」
いきなり横から巧が割り込んできた
「おっちー・・・えへへ、パパ、怒られちゃったよ」
この「おっちー」は絶対に治らないよ、元祖、オハルちゃんからの授かりものだからね
スマホで監視カメラの映像を見ているが特に異変もない
夕方になりオヤジがだいぶ疲れた様な顔をしている
「オヤジ、疲れたやろ、ソファで寝てろよ」
「眠くって仕方ないぜ、、おチビちゃんたち、今日はこれでおしまいな」
「じいちゃ、だいじょうぶ?」
「じいちゃ・・・お手て、握っててあげるね」
「あたちも」
横になったとたんにイビキをかいて寝てしまった
ピンポーン、とチャイムが鳴った
「わしですわい、遅くなってしまい申し訳ないですわい」
一応確認のためにドアカメラで外の様子を見た
たしかに和尚さまだ
「和尚様、またご迷惑をかけます」
「いやいや、オヤジ殿は中におりますかの」
「オヤジは今寝てますよ」
「そうですかい・・・まだ子供たちが起きてますな
詳しい話は子供たちが寝た後にしましょう」
「和尚様が来たよ」
「わ!和尚様だ!!!おひさ!!!」
「和尚様、おひさなんだぞ」
和尚様も加わり夕食が始まった
和尚様のお話はとても面白く特に葵は和尚様の話が大好きである
「いいですな、大家族は・・・
わしゃのところは家内と2人きりですからのぉ
夕食時は寂しいもんですわい
お盆の時のように楓ちゃんや葵ちゃんがいると本当に幸せな気分だったわい
オヤジさんもよく寝ていらっしゃる
今日は水ようかんをたくさん持ってきたですわい
あとで皆さん食べてくだされ」
「やったーー!!水ようかん、待ってましたっーー」
「お寺さんのお水は綺麗でおいしいから水ようかんもおいしいのよね」
和尚さんの話やS子、S君兄妹の漫才で時間はどんどん過ぎていった
夜も9時過ぎ
「もうそろそろ子どもたちよ、寝る時間なんだぞ」
「えーー、もっと起きていたいよ、和尚様のお話が聞きたい」
「さっさ、おちびちゃんたち、寝る時間だよ、各部屋に行って寝るんだよ」
「ばっちゃ、わかったよ」
S君が子供たちを引き連れて2階へ行った
「ごめんな、S君、2階にいてくれ」
「おうよ、わかったよ」
「子供たちよ、Sおじさんがいるからな、なにかあったらSおじさんのところに行くんだぞ」
おふくろとS子、F子も一緒に隣の部屋へ行った
リビングには私と和尚様とオヤジだけになった
「さて・・・・朝のメールにはわしゃびっくりしたわい
あれからいろいろと考えたのだが
あの書き方だと誰のことを指しているのか漠然としてわかりませんわい
私自身の考え方を言いますと
どうやらオヤジ殿に関係がありそうな気がしますわい」
「わたしもそういう気がします
今朝、オヤジに例の石の写真を見せたら顔色が変わりましたから」
「さようですかい・・・たしかオヤジ殿のご先祖様は神様に近い家系でしたかのぉ
私は仏様、オヤジ殿は神様、絶対にお互いに相反する家系ですわな
オヤジ殿の実家はどこなのでしょうかな・・・
これはオヤジ殿のご先祖様に何か因がありそうですわい」
「そうですか・・・オヤジのご先祖様の出身はオヤジしか知らないと思います
・・今、オヤジは寝てますし・・・」
「ですわな・・・それと・・・これはちょっといいにくいのですが・・・
オヤジ殿を見つけてから3日後にオヤジ殿と街まで酒を飲みに行ったんですわい
お互いにお酒の酔いがいいらしく酔うのも早かったですわい
帰りは2人とも完全に酔ってて車の運転ができなかったんですわい
ですからタクシー呼んだんですわい
顔なじみのタクシーの運ちゃんに直接電話をしたんですけれど
なかなか出なかったんですわい
仕方ないからそこのタクシー本社へ電話してタクシーを呼んだんですけれど・・・
これが・・・いろいろと問題が発生して・・・・大変でしたわい」
「えぇ・・・そうだったんですかぁ・・・」
和尚様の話だと
お互いに完全に酔っててタクシーを呼んだのだけれど
これが運悪く新人の運転手で和尚様のお寺を知らなかったようで
運転手も酔ってる和尚様から住所を聞こうとしたのだけれど呂律が回らなくて
何をしゃべっているのがよくわからない
ただ、和尚さまの袴にお寺の名前と住所が書いてあったのでそれを頼りに
新人の運転手は車を走らせたわけなのだが・・・
なにしろカーナビの操作もろくに理解できていないという
ましてや初めて走る道、お寺へ行けば行くほど民家や街灯がどんどん少なくなっていく場所なのだ
案の定、迷子になった
聞こうにも完全に2人とも酔っている
一応、本社へ連絡してそのお寺の住所を聞いたのだが
カーナビの操作がよくわからず途方に暮れてしまった
だんだんとアルコールが抜けてきて
和尚様が我に返り
「おいおい・・・なにをしてるのやら・・・この道は全然違いますわい
この道は・・・・・ええええ・・・・ここはどこでしょうやら・・・」
和尚様も初めて見る風景
和尚様がカーナビを見ると画面が真っ黒
「運転手さん、なんでカーナビを消しているんですかのぉ」
「いや・・・その・・あの・・・いろいろといじくってたら
画面が突然消えまして・・・申し訳ございません・・」
「ええ・・・あぁ・・・場所が分からないと帰れないですわい・・・困ったですわい」
運の良いのか悪いのかオヤジが酔いから覚めた
「ううう・・・おおお、ここはどこだ!!!
お前誰だ?」
「いや・・・タクシーの運転手ですけれど・・・」
「タクシーー・・・・誰が呼んだんだよ、俺が運転するのにな」
「オヤジ殿、お互いに酔ってちゃ、運転はできませんわい」
「なにーー、俺が酔ってた!!!ってか・・・
ところでもうお寺に着いたのか?」
「いや・・・お寺ところか、今の場所がどこなのかわかりません、お客さん」
「カーナビがあるだろ!つけろよ」
「いや・・・そのぉ・・・カーナビは恐らくお亡くなりになったかと・・・」
「はぁ・・・!?お亡くなりって・・・マジかよ・・・」
「あかん、小便がしてぇーー、ちと俺降りてしてくるわ」
とオヤジが小便をしにタクシーから降りたそうだ
夜だから近くて立ちションすればいいのになぜか
どんどんと奥へ行ってしまった
ところがなかなか帰ってこない
小1時間ほどして帰ってきた
「おい、あっちのほうにな、寺があったぞ、明かりが見えた
くそ坊主の寺じゃないのか」
「え!?まさか・・・こんな場所わしゃ知らんですわい」
「まぁとにかく俺の指示通りに運転すれば寺へ着くぞ
おい、運転手、そこの道、とにかくまっすぐ走れ」
「はい!!」
どんどんとまっすぐ道を進んでいくとT字路があり左へ曲がって
すぐにお寺のシルエットが見えだしてきた
「ありゃ・・・こんなところにT字路は無かったはず・・・」
「おい、!坊主、あれだろ、くそ坊主の寺は、よっ!」
「ええ、オヤジ殿、ここは違いますですわい」
「なにぃーーー!!!違うのか!じゃあ、ここはどこだよ?」
「さぁ・・・ぜんぜんわしも知らないですわい・・・」
「お客さん・・・どうしましょう・・・・」
「お、忘れてた、スマホがあるではないか・・・
地図アプリ・・・ありゃ・・・信号が届いてないぞ・・・・
ここって山奥か!?・・・・」
「えええ・・・・そんなはずないですよ、山道は走っていませんから・・・」
「まぁ・・・とりあえず、あそこの寺の人間に聞いてみよう」
「え・・・オヤジ殿、少し待って・・・オヤジ殿!!!」
オヤジはさっさとタクシーから降りてそのお寺の中へ入って行ってしまった
「お客さん・・・ここのお寺・・・・なんか薄気味悪いですね・・・」
「ですわい・・・こんなところにお寺なんぞ、あったかのぉ・・・」
しばらく様子を見ていると
「ぎょぉーーーーえーーーーー!!!!!」
すごい悲鳴を上げながらオヤジが走ってきた
「おい!!運ちゃん、早く車を出せ!!!早くぅーーー」
「はいっ!!!!」
オヤジのすごい形相に運転手はびっくりして
猛スピードでそこの場所から離れた
どうにか・・車が走ってる道路へ出たようだ
オヤジらしくもない青い顔をしてガタガタと震えていたんだそうだ
「オヤジ殿、大丈夫ですかのぉ?」
「いや・・・だいじょうぶ・・・じゃねーーー!!!
なんなんだ!あそこの寺はよっ!」
「はい?何を見たんです?オヤジ殿!!!」
「いや・・・気分が悪い・・・」
それっきり何も話をしなくなってしまったとか・・・
なんとか知ってる道に出たようで無事に自分の寺へ帰れたそうだ
とにかくオヤジ殿の顔色が真っ青なままで・・・
2日ほど・・・寝込んでしまったとか・・・・
3日目になんとか顔色もよくなり・・・普通に話ができるようになったとか
その日の出来事を聞いてみたのだが全然覚えてないという
これはやばいということで家へ帰らせたのだとか・・・
「とまぁ・・・そんな感じですわい・・・オヤジ殿は何をみたんですかのぉ・・・
この件とこの石の件は関係あるんでしょうかのぉ・・・」
「和尚様・・・・なんとなく関係あるような気がします・・・
もしかしたら・・オヤジ、なにかとんでもないことをしでかしてきたんではないでしょうか?」
「ありえますな・・・しかし、オヤジ殿がちゃんとお話をしてくれないとわかりませんわい」
「ですよね・・・」
「あ・・・あれかぁ・・」
突然、オヤジが起きてきた
腰が抜けるほどびっくりした
「オヤジ!!、脅かすなよ、びっくりしたじゃないか!!!」
「ああぁ・・すまんすまん」
「あのなぁ・・・俺もまだ半分酔っててな、頭がすっきりとしてなかったんだよ
俺、小便したくて・・・近くでしようと思ったんだけどな・・・
遠くから俺を呼んでるような気がしてな・・・・
ついつい呼んでるほうへ行っちまったんだよ
そしたらな・・・寺があったんだよ
てっきり、くそ坊主の寺かと思ってな・・・
それで慌ててタクシーのところへ帰ってきて
タクシーの運ちゃんにあの寺まで運転させたわけよ
そしたらくそ坊主の寺じゃないと言うから・・・
仕方ないと思いながら寺の人間に聞けばわかるだろうとおもって寺へ行ったんだよ
そしたらな!!!!!
寺の中はよ!!!!
死体の山だったよ!!!!
もうびっくりだぞ、寺を出ようとしたら「お前たち、絶対に許さない」と聞こえてきたんだよ
もう俺は完全に酔いは覚めたよ
あとは知っての通りさ・・・」
「げぇーーーー、オヤジ、・・・・あかんものみたんじゃ・・・」
「オヤジ殿・・・・これは大変なことですわい・・・」
「何がだよ・・・単に死体の山を見ただけだぞ・・・」
「いや・・・その死体の山を見たからこそやばいと言ってるんだよ、オヤジ!」
「さよう・・・現場を見られた・・・ということですわい」
「あ!!!そういうことかぁ・・・お!・・・でもなぁ・・・
ちらっと見ただけだから確信は持てないけど
服装ってか・・・なんか小汚い昔の百姓が着てたようなものにみえたんだけどな・・」
「え?・・・百姓が着てた服装?・・・江戸時代のか?」
「そうそう!時代劇でよくみるあの服装だよ!」
「はぁ・・・・どういうことだよ・・・今時・・・江戸時代の服装着てるものはいないよ
オヤジ、嘘ついてるんじゃねーのか?」
「うそじゃねーよ、はっきりと思い出した、たしかに時代劇で着てる服装だ」
「う・・・ん・・・どういうことですかのぉ・・・あそこだけ時代が違ったんですかのぉ」
「ありえますよね・・・普通の人なら否定するでしょうけれど・・・私たちはもうオハル・オアキちゃんたちを見てますからね」
「ですわい・・・・処刑された人ですかのぉ・・・」
「かもしれませんね・・・なにか百姓一揆でもしたんじゃないですか・・・」
「これは・・もう1度あの寺へ行かないといけませんわい・・・ですが・・・どこの場所なのか全然わかりませんわい・・・困ったですわい・・・・」
「たしかに・・・」
「あの新人の運転手さんが記憶に残っていれば・・・なんとかなりそうだけど・・・期待できそうもないような・・・」
「仕方ないですわい、知り合いのタクシー会社の人にその新人から聞き出してもらいましょう
しばらく待っててくださいな、朝に連絡してみますわい」
「申し訳ないです・・・」
「とりあえず・・・今晩は・・・外へ出ないように・・・特にオヤジ殿は危ない!
オヤジ殿はこのリビングでわしゃと一緒にいてもらいましょう」
「お経を唱え続けますわい」
「このことを2階にいるS君にも知らせておいてくだされ」
オヤジが語ったことをS君にも話をした
「げっ!おやっさん・・・・こりゃ早くなんとかしないと・・・」
「とりあえず、その新人の運転手が覚えていればいいんだけどな」
「だな・・・」
朝になり和尚様は知り合いのタクシー会社へ連絡をしていた
「う・・・・だめですわ・・・その新人の方、辞めてらっしゃる・・・・」
「えええーーー、もう駄目だ・・・・」
「あちゃ・・・・」
「万事休す・・・ですわい」
S子がやってきた
「おっちーー、おはよう!!」
「あれ・・・返事がない!!!パパたち、大丈夫?」
「いや・・・そのな・・・」
もう隠していても仕方ない
S子には今までの経緯を話をした
「え!!・・・それで和尚様が家に来てるんだ・・・う・・・ん・・・
ちょっとまって、和尚様たちは無事にお寺へ帰ってるんでしょ」
「そうだよ」
「和尚様たち、そこからどのくらいでお寺に着いたか覚えてる?」
「ええーーと、たしか20、30分くらいだとおもったんじゃが・・・」
「すると・・・およそ5Km-8Km位なのかな・・・・10Km以内だよね」
「そっか!!!、そういうことか!」
「和尚様、その範囲内でお寺とかありますか?」
「んん・・・あの方向には・・・たしか記憶にはないんじゃが・・・・
ちょっとまってて・・・檀家衆にあの辺に寺があったか聞いてみますわい」
和尚様は自分の寺の檀家衆の一人に電話をかけていた
「わかりもうしたわい、あの辺に一つだけ廃寺があるんだそうですわい
話に聞くと終戦直後に後継者がいなくなってそのまま寺は放置されたままだそうですわい」
「おそらくそれだ!!!」
「おい!!!俺とクソ坊主が見たときにはそんな廃寺じゃなかったぞ、な!クソ坊主!」
「たしかに・・・寺は奇麗なものでしたわい・・・明かりもついてましたし・・・」
「う・・ん・・・廃寺じゃない・・・困ったな・・・これは一度その廃寺とやらに行かないと」
「確かにな・・・ここにいても解決しないよな」
「お昼にここを出発してその廃寺へ行ってみましょう」
和尚様はまたその檀家の人に電話をしてその廃寺の住所を聞いていた
今回は2台の車だな
昼までに出発する準備を終えなくては・・・・
どうやら・・・何とか解決できそうだけど・・・・不安だな・・・
お昼前になんとか行く準備ができた
今回は和尚様とオヤジ、私、S君の4人
私の車にS君とおやじ
和尚様は道案内をしてもらわないとね
「ち!キタネーー、車だな、F!!!、こんなボロ車、廃車にして新車を買えよ!」
「オヤジ、うちは子供4人いるんだぞ!どこにそんな金があるんだよ!」
「ち!そうだったな・・・あいつから・・・あっ!無理かぁ・・・ヨッコラセ・・」
バキバキッ!
「え!今の音、なんだ?」
「後ろから聞こえたぞ」
「なんか・・・踏んじまったか・・・お尻に何か当たってるぜ!!!」
オヤジがもう1度車から出た
私は即座に後ろの座席を見た
ガーーーン!!!!
お気に入りの三脚が折れていた
「うわl!!三脚が・・・折れてる・・・お気に入りの三脚が・・・」
「お!わ!もろに折れてる・・・三脚がないと撮影できんぞ・・・」
「オヤジ!!!どうしてくれるんだよ!!!」
「ち!ちゃんと片付けしてねーのが悪い!俺は知らん!」
「オヤジの責任だろ!!!弁償しろよな!」
「俺・・・金・・・ねーぜ、すべて、あいつが管理してる、あいつに弁償してもらえ!」
「はぁ?・・・・・オヤジ、逃げるんじゃねーー」
「俺は知らん、あばよ!おれはクソ坊主の車に乗せてもらうぜ!!」
さっーと小走りで和尚様の車に乗ってしまった
「クソオヤジ!!!」
「おやっさん・・・それは無いよ・・・」
「何が神様の一族だ!単なる疫病神だよ!オヤジがまともに頭を下げたところ見たことない!!!」
「F・・・・同情するよ・・・これはひでぇ・・・他人なら俺が殴ってるところだけど・・・相手がおやっさんでは・・・殴りようが無い・・・反対にボロクソにやられるのがオチだし・・・」
「S君、ありがと・・・後でおふくろから弁償してもらうさ・・・」
出発前にこんな下らん出来事を起こした
不安がさらに増大した
オヤジは呑気に和尚様と談笑していた
腹が立つ・・・
「お!和尚様の車が動き出したぞ、F!」
「おっとと・・・」
とりあえずは和尚様のお寺へ行く道を走った
途中まではいつもの道なのだが今回はその廃寺を目指さないといけない
十字路が見えてきた
本来ならここをまっすぐ行くのだが
和尚様の車は左へ曲がった
どんどん寂しくなっていく
初めて見る風景
林や竹藪が延々と続いてるという感じ
段々と和尚様の車のスピードが遅くなってきた
もうそろそろ到着なのかな・・・
左わきのすこし広いスペースに和尚様の車が止まった
私も和尚様の後ろに止めた
「住所はここら辺なのですが・・・お寺が見えませんな・・・おかしいですわい」
あたりは何もない寂しい場所だ
竹藪がすごい
「そうですか・・・とりあえず車から降りて歩いて探しましょう」
それらしき寺がなかなか見つからない
スマホでも住所はここらへんを指している
しばらく歩いてるとT字路が見えてきた
「あれ!T字路でしょ、あそこから左側にあるんじゃないですか?」
「おお、たしかに、見覚えがありますわい」
T字路目指して全員歩き出した
左へ曲がると・・・
「あれ・・?寺が見つかりませんな・・・おかしいですな・・・曲がったらお寺が見えてたんですわい」
しばらく歩いていると・・・・
石碑が少し傾いたまま建っていた
「○○寺跡地」
「ここですな・・・ありゃ・・・建物など一切無いですわい・・・おかしいですわい
見たときにはちゃんとお寺がありましたわい」
「クソ坊主の言う通りさ、おかしい・・・」
石碑の横を通り抜けて中へ入ってみた
中は草藪になっていた
「こりゃ・・・もうなにもかも・・・無い・・・」
「死体ところか・・・お寺が無いですわい・・・」
遠くから和尚様の名前を呼ぶ声がした
「和尚!!!遅くなった、すまんのぉ」
どうやら和尚様の檀家の一人だと思う
「おお、これはこれはわざわざ・・・ご苦労なこった・・・」
「わしもここに来るのはひさしぶりだから・・・少し迷ってしまった」
私たちはその檀家の人に挨拶をした
「おお、・・・遠路はるばるお疲れ様・・・」
「ところでのぉ・・・お寺が無いんじゃが・・・」
「ああぁ・・・言うのを忘れてた・・・昭和30年ごろかな・・・誰も後継者がいなくなったんで・・・お寺を解体したんじゃよ・・・記念として石碑を置いたんだが・・・」
「そうだったんですかい・・・」
「このお寺はのぉ・・・わしもわしのじいさんから聞いた話なんで・・・記憶もあいまいだが覚えてることをしゃべるけど・・・
このお寺はここら辺の村の中心に建っていたんじゃとか・・・
江戸時代の時だな・・・結構な立派な寺でここの藩のお殿様もお泊りになったとか・・・
ここの奥にお狩場があってな・・・
近所の百姓衆を集めて狩りを楽しんだとか・・・
だがな・・・ここらへんの土地は痩せていてな・・・
飢饉の時には・・・大変な数の餓死者が出たんだそうだ・・・
その餓死した死体をこのお寺へ生きてる村人がせっせと運んで来たんだそうだよ
でもな・・・その運んでる村人もな・・・餓死してしまったそうだ・・・
江戸時代も末期になると・・・もはや村がほぼ全滅していたんだとか・・・
明治になると年貢米制度が無くなって・・・なんとか村の維持ができるようになった
でもな・・・やはり痩せてる土地では・・・作物は十分に育たん・・・
村はいつまでも貧乏でな・・・村人が一人・・・また・・・一人とこの土地から出て行ってしまったわけだよ
ついには・・・終戦後にここら辺は誰もいなくなってしまった
もちろんお寺もだよ・・・後継者が誰一人・・・出てこなかった・・・
今じゃ・・・この有様だよ・・・
もう21世紀だよ・・・ここらへんの再開発など聞いた事がない」
「なるほどな・・・オヤジが見たのはその餓死した人たちだったんだ・・・」
「まるで・・・オハル・オアキちゃんたちと同じだな・・・」
「今!なんとおしゃったかな?」
「はい?オアキ・オハルと・・・・」
「なぜ、オアキ・オハルという名を知っておられるのじゃ?」
私はこの檀家の人に今までの経緯を簡単に説明した
「なんと!!!あなた方はあのオアキ・オハルさんたちの子孫かね・・・
わしのじいさんからよく聞かされてたんじゃて・・・・
じいさんが幼少の時にお寺へ読み書きの勉強をしによく行ってたようなんじゃ
そのときの師範代がオアキ・オハルという少女だったとか・・・
「もしお寺に行き読み書きを習わなかったら仕事にありつけなかったかもしれなかった」とよくわしに話をしてくれた
そぉか・・・・
これも縁じゃな・・・・
それとどこかの財閥があの和尚の寺の蔵や本堂の修復の資金を出してもらって修復できたんじゃが・・・そっか・・・オアキさんの嫁ぎ先が財閥だったとはのぉ・・・
わしはオアキさんを見たことないんだが・・・じいさんが「将来はオアキ姉さまのような美しいお嫁さんをもらいたかった」とよくわしに言うとった・・・」
私は19歳の時にオアキちゃんの写真を檀家の人に見せた
「これが19歳の時のオアキちゃんです」
「おおお!!!これはこれは・・・凛として美しい・・・じいさんの言ってた通りじゃ
でも・・・なぜかな・・・もの悲しい表情にも見えるのぉ・・・」
「たしかに・・・おしゃるとおりです・・・・」
「これは来週にも合同慰霊祭をするべきじゃな
村長や他の檀家やこの付近の連中にも話をしてくるわ
こりゃ一度慰霊をしないとあかんじゃろ・・・」
「ですわい・・・来週の土曜日にも実施しましょう
この村や周囲の村で亡くられた方の成仏をしないといけませんわな」
オヤジの行動がここまでになるとは・・・・
これもオアキ・オハルちゃんたちの導きなのかな・・・
今日は1時間ほど和尚様がお経をあげ
私たちは手を合わせ供養をした
来週はここで合同慰霊祭をする予定だ
もちろん私たちの家族全員とS君の両親も参加する
どのくらいの人が来るかわからないがここで亡くられた方の無念を少しでも和らげてあげて天国へ行ってもらおう
帰りに塩とお守りとお薬と水ようかんをもらって帰宅した
作者名無しの幽霊
オヤジの行動が合同慰霊祭をすることになるとは夢にも思わなかった
帰宅してからおふくろたちに今日の出来事を話をした
もちろん家族全員が出席したいと言ってきた
S君の両親も出席するとS君から電話があった
私が事の経緯を話してると
葵が涙を流し始めた
楓も泣きそうな顔をしていた
来週の土曜日は大忙しになりそうだな
どのくらい人が集まるんだろうか・・・
予定としては土曜日の午後6時から3時間ほど実施すると和尚様から電話があった
村長や村の議員、檀家衆など主なメンバーが集まるらしい
供養祭の費用はすべておふくろの財団が出すことになった
帰宅して少し落ち着いてから家の周りの点検をした
あの血の文字が書かれた石が塩やお守り・薬などと一緒に消えていた
誤解を解いてくれたのかな、と勝手な解釈をしたけれど・・・・
それとオヤジが壊した三脚の弁償をおふくろがしてくれた
もちろん、オヤジは散々に説教され2日間寝込んだ
まったくガキと同じだ
神の一族ではなく単なる疫病神だ