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中編5
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天愚 X-1

この世には禁足地と呼ばれる土地や場所がある。

だが、第二次世界大戦中に日本軍は青森県にある禁足地にヒヒイロカネという金属の鉱脈が眠っていると情報を掴む。

その禁足地の近くで日本軍はヒヒイロカネ研究所を建設する。

多くの兵士達が何かを探し禁足地に足を踏み入れ一人の兵士が叫ぶ

「立木大佐!」

部下に呼ばれた立木大佐は煙管を咥え、兵士たちが立つ洞窟の入り口を眺める。

「これが文献に記されていた洞窟か?」

「ハッ!特徴が一致しました。洞窟内部はヒヒイロカネと思われる鉱石が見受けられます」

立木大佐と他の兵士たちが洞窟内部に奥へと侵入する。

「これは石碑か?奥には空間がまだあるようだが」

静かに兵士たちに指示する

石碑に縄を結び一斉に引っ張ると土埃を立てて倒れた。

石碑の奥に円形状の空間が広がっていた。石碑を倒した後しばらくすると、急な地震に襲われ構えていると、地震はすぐに止んだ。

円形状の空間を進むと真ん中にポツリと、一匹の人間のような鳥のような生物を発見する。松明を持った兵士たちが、その生物を囲い立木大佐の指示を待つ。

「立木大佐。どうします?」

立木大佐は煙管を吹かし洞窟の出口に向かう

「捕獲しろ。同時にヒヒイロカネの採掘の準備を急げ」

「ハッ!」

正体不明の生物を縄で縛り研究所に隔離した。

「この生き物は何だ?人間のようにも見えるが…」

先ほどは松明の光でしか姿を見ていなかったが醜悪な姿に改めて立木大佐は興味を示す。

研究所の科学者たちは、この正体不明の生物に「天愚」という名前で呼んでいた。

「立木大佐。この生物、あの文献にある天狗に似ておりませんか?」

眼鏡を掛けた老人が立木大佐に話しかける

「確かに」

「この生物の全身は黒い羽根で覆われており、人間にも擬態するようです。」

立木大佐はガラス越しにこちらを見つめる天愚に言えぬ恐怖感を抱く

それから数日後…

謎の病原体が原因で次々と兵士たちが天愚と同じ見た目に変化していき、最終的には天愚と同じ生物に変化していた。

立木大佐は止められない感染の中、生き残った兵士たちに感染者を殺害するように命じるが感染者を止める手立てはなかった。なぜなら、感染者の頭を撃ち抜いても死ぬことはなかったからだ。

なんとか天愚から逃げ延びた科学者3名、立木大佐を含めた兵士12名はヒヒイロカネ保管所に逃げ込む。

「立木大佐!どうしますか?ここには食料も武器もありません」

絶望に混乱する兵士たち、恐怖に震える科学者たち

立木大佐は黙ったまま考える

「佐々木、ヒヒイロカネには未知の力があると言っていたな?」

震えながら眼鏡を掛ける佐々木

「ええ、確かにヒヒイロカネには未知の力が」

「そして保管庫の横には戦死した兵士の遺体がある。」

立木大佐はおもむろに立ち上がり扉に手を伸ばす

「大佐!外には天愚がいるんですよ!?」

「俺が死体を持ってくる、誰か付いてくるか?」

兵士の何人かが立ち上がり帽子を被り決心した言葉を呟く

「大佐が行くなら俺は付いていきます」

「私も…遺体がどこにあるか知っているからな」

佐々木も立ち上がり合計五人で遺体を回収しに向かう

立木大佐が扉を開き辺りの様子を伺いながら慎重に部屋を出た。

不気味な静寂の中、緊急ランプが点滅を繰り返していた

長い廊下には虚しくも村人、親しかった兵士達の亡骸が床に転がり転化するのも時間の問題だった。立木大佐は名残惜しくも屍を踏みながら越えていく。

「音を立てるな、武器は無い。」

立木大佐の言葉に皆、静かに頷く。

だが、前方に天愚が立ち尽くしていたが、幸いにもこちらには気づいてはいない。

佐々木は黙ったまま立木大佐の肩を叩き、指を差す先には遺体安置所があった。

立木大佐は「ここか?」と口を動かす。

皆、ゆっくり歩き立木大佐のあとに続き遺体安置所に侵入する。

佐々木は薄く伸ばしたヒヒイロカネを遺体に当てて何かを確かめる。

「この鏑木と桑田が使えそうです」

立木大佐は遺体の奥の木箱に気づく、音を立てないように木箱を開くと軍刀と鞘に収まりそうにない巨大な野太刀を兵士たちに配る。

「これで多少は戦えるな…よし、保管庫に戻るぞ」

兵士は二人の遺体を担ぎ立木大佐と佐々木が先頭を歩く

しかし、扉を開き歩き出すと目の前に天愚が立ち塞がっていた。

立木大佐は軍刀を構え天愚の頭を背後から切り落とした。

倒れた天愚の物音に反応して他の天愚が雄叫びを上げる

「行くぞ!急げ!」

廊下に雄叫びとともに無数の天愚の影がチラチラ見える

遺体を担ぐ兵士を庇いながら迫ってくる天愚を切り伏せていく。

しかし、兵士の一人が一匹の天愚に捕まり腹を引き裂かれた

すかさず立木大佐が天愚を切り刻み、まだ意識のある兵士は「殺してください」と懇願していた。立木大佐は黙って頷き兵士の頭を切り落とす。

なんとか遺体を運び出し保管庫にたどり着くと保管庫の扉は開いたままで大量の血が床に広がっていた。

「襲撃されたか…生存者は…。」立木大佐は床の割れた硝子を足で退け、ため息を零す。

「立木大佐、急いで実験を始めましょう。上手くいけば天愚を全滅できるやもしれません」

立木大佐は袖を捲り遺体の服を脱がしていく。

「で?佐々木、案はあるんだろうな?」

佐々木は大量にあるヒヒイロカネの入った箱を叩き

「魔導人形を、この二人を使って創造しようかと。」

立木大佐は佐々木の不敵な笑みを見て遺体に視線を戻す

「うまくいくのか?」

佐々木は曖昧な記憶から顎を触りながら

「昔、失敗している幾多の実験がありまして、観音像の首を切り落とし、そこに人間の首と大量の血を浴びせて作られた「怨乃神」と呼ばれる存在を作り出そうとしていたみたいです。まあ、実験は失敗に終わりましたが、非科学的な現象が後を絶たず、その研究施設は閉鎖されました。だが、伝説のヒヒイロカネがあれば勝算はあります」

あれから何週間が経過した。

ヒヒイロカネを使った実験は何度も行われ、ようやく実験は成功した。

だが、最初の被検体の桑田は全身の9割がヒヒイロカネが占めており生前の記憶はなくなっていた、言葉も発することもできない状態だったが天愚と戦うには必要なかった。桑田改め「スサノオ」と名付けられた。ヒヒイロカネ製の武器も製造した。

そして被検体の鏑木は脳以外はヒヒイロカネ製となり、生前の記憶を保持していた。彼らの動力源は熱であり、たき火の火力でも一年は稼働し続けられる。

何とか反撃に出た立木大佐達は近くの村へ向かったが一向にたどり着かず

見えない壁に阻まれてしまう。

「なんだ?この透明な壁は!」

透明な壁の向こうには森が続いているのを見た佐々木は愕然とした

「保管室から村まで1里もないはずです!この透明な壁まで10里もある。空間自体が膨張しているのか?」

立木大佐は鏑木に周囲の警戒を頼む

「鏑木、スサノオ、少しの異変も見逃すな」

鏑木、スサノオはヒヒイロカネ製の刀を抜き頷く

立木大佐は透明な壁に手を当て考える

「ここから再び保管庫に戻るには遠すぎる、研究所に向かうぞ」

それから何十年後…

「残ったのは我々だけか…」

To be continued…

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