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中編6
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小人の夢 【奇告蒐集】

数年前、私のホームページにこんなメールが届いた──。

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S県在住のC美さんが中学生の頃のこと。

ある日から、不思議な夢を見始めたそうだ。

明かりもない真っ暗な自分の部屋の中。

夜中の静寂の中で、まるで重い何かを引きずるようなズルズルという音が遠くからしている。

耳は聴こえるのに、C美さんの身体は指一本動かせない。

そして、ソレは少しずつ、確実にこちらに近づいて来る──。

ズル…ズル………。

ズル……ズルズル…………。

動いては休み、休んでは、また動く……微妙にズレたテンポを刻みながら、ソレはじわじわと迫ってきている。

何故だかC美さんは、そう直感したそうだ。

C美さんは言い知れぬ不安で身体中から汗を噴き出し、その上、ムカデが這う如く、悪寒が背中を走り抜ける。

幸い、目蓋の自由は利いていたので、C美さんは固く目を閉じて、朝が来ることを願い続けた。

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C美さんの祈りが通じたのか、気がつくと遮光カーテンの隙間から、優しい光が部屋に射し込んでいた。

気持ちの悪い夢のせいで、身体がだるい。

C美さんは気持ちを奮い起たせて、ベッドから身を起こすと、一階のリビングへ降りた。

リビングに入ると、続き間になっているダイニングから、笑顔の母が「おはよう」と挨拶してくれた。

きっとゆっくり眠れたであろう母に、若干苛立ちながらも、理不尽に当たり散らすこともなく、C美さんも挨拶を返した。

ゆっくりと朝食を摂っていると、二階からバタバタと騒々しい足音を轟かせながら、4つ上の兄がリビングへ入ってくる。

「今日も早ぇな」

「お兄ちゃんはいつも遅いね」

兄と毎度のやり取りをして、C美さんは朝食を終えて学校の支度をしに部屋へ戻った。

C美さんの兄は、いわゆるヤンチャな部類に入る人で、暴走族とまではいかないものの、車やバイクで走るのが好きだった。

最近は免許を取ったばかりの自動車にハマっていて、アルバイトで貯めたお金でチューンアップした車を、夜通し乗り回す日々に明け暮れていたそうだ。

そんなイカつい兄でも、C美さんにとっては妹想いの優しい兄で、二人の兄妹仲はとても良かった。

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授業と部活動を終えて帰宅したC美さんは、夕飯を食べ終えてから宿題をし、お風呂に入ってテレビを見て、ベッドでマンガを読んでから就寝する。

いつものルーティーンで眠りにつくと、また夢を見た。

真っ暗な部屋に独り──。

ピクリとも動けない中、何処からともなく聴こえてくる何かを引きずる音。

心なしか昨日より音が近くに聴こえる……。

C美さんは自分の方に来ないように、一心不乱に神仏に祈った。

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そしてまた、気がつくと朝を迎えていた。

眠れない日も二日過ごすと、流石に気味の悪さが強まった。

悪夢ではあるが、前日の続きを見せられている。

そんな気がして、C美さんは眠ることに言い知れぬ恐怖を抱き始めていた。

神仏にすがったのも空しく、三日目の夜、四日目の夜も同じ夢を見た。

それも日に日に音は近づいてきているのは、音の大きさで分かった。

どうやら、音の主は家の外から、中へ入ってきている。

C美さんはそう感じた。

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そして、迎えた五日目の夜──。

謎の音に変化があった。

ズルズルと引きずる音だったものが、トン………ベチャッ……トン………ベチャッ……という音に変わった。

軽く床を叩く音と、水気を含んだタオルを叩きつけるような音──。

ソレは、ついに部屋の側の階段を上ってきている。

そう感じたC美さんの不安と恐怖は最高潮に達しようとしていた。

満足な睡眠もとれない日が五日も続けば、端から見ても衰弱しているのが分かる。

あまりにも元気のないC美さんを心配した兄が、声を掛けてきた。

連日見ている夢の話すると、兄は豪快に笑って言った。

「バケモンだか何だか知らねぇが、そんなもんはオレがぶっ飛ばしてやるよ!」

頼り甲斐のある兄の言葉に、C美さんは気休め程度ではあったが、少しだけ嬉しかったそうだ。

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六日目の夜──。

やはり、身体の自由を奪われたC美さんの耳に、あの音が聴こえる。

階段を上って来る音はC美さんの部屋の前で止まり、静かにドアを開けて中に入ってくる気配を感じた。

部屋のカーペットにある程度音は奪われているものの、微かにでもする音は確実にC美さんに迫って来ていた。

広くない部屋だけに、ベッドまで来るのは、大して時間はかからなかった。

C美さんのベッドの縁に、ミシリと何かの重みがのし掛かり、C美さんのベッドに上がろうとしているのは肌で分かった。

ニチャリと粘りのある音と共に、ソレはC美さんの肩の辺りのスペースに乗った感じがして、苦しげな吐息が、背を向けているC美さんの耳にかかる。

見てはいけない!

C美さんは一層、目を固く閉じるが、意思とは裏腹に目蓋はゆっくりと開いていく。

そして、C美さんの視線は徐々に見たくないモノへと向けられていく。

暗い部屋に射し込む月明かりのせいで、シルエットが浮かんで見える。

黒い短髪の男──。

それだけは分かった。

初めての恐ろしい体験に、C美さんは涙を流した。

もう帰ってください!!

その言葉だけを頭の中で連呼していると、C美さんを覗き込んでいたソレは、ヌゥッと手を伸ばしてくる。

お兄ちゃん、助けて!!

咄嗟に浮かんだ兄に助けを求めると、伸びてきた手がピタリと止まり、ソレは手を引っ込めていった。

少しの間の後、ソレはベッドから静かに降り、あの気味の悪い音をさせながら、部屋を出ていくのを感じた。

C美さんは危機を脱したと思い、少しだけ動けるようになった首を部屋の外へ向けると、上半身だけの……いや、正確には普通の人の上半身から不自然に短い足を生やした人間……言うなれば小人のようだったと、C美さんは表現していた。

ソレが去って行ってから、すぐにC美さんの意識も遠のいていった。

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しかし、C美さんの久し振りの眠りは、母によって破られた。

「お兄ちゃんが……」

青ざめた母の顔を見て、C美さんは冷水を浴びたように覚醒し、「すぐに出かける支度をしなさい」という母の言葉に従い、用意を済ませて両親と出掛けた。

場所は地元の警察署だった。

警察官に案内された部屋は薄暗く、簡素な祭壇の前に白いシーツに包まれたストレッチャーが一台あった。

霊安室だった。

「ご確認をお願いします」

そう言った警察官は、ストレッチャーにかけられた白いシーツをめくり上げると、土気色の見慣れた顔が見え、カッと見開かれた瞳は乾いて白く濁っていた。

初めて見た人の遺体に若干の違和感は感じたが、C美さんの兄に間違いなかった。

C美さんは思わず目を背け、両手で口を抑えて身を屈めた。

今朝まで元気だった兄の変わり果てた姿を見て、C美さんの心は悲しみの許容範囲を超えてしまったらしい。

兄にすがりつきながら泣きじゃくる母、傍らに立っていた父は肩を震わせて声を殺していた。

同じく悲しみに暮れる両親の姿を見上げて、ふと冷静に戻れたC美さんは、恐る恐る立ち上がり、兄の亡骸に目をやった。

白くて長いシーツの下にあるはずの兄の身体は、明らかにおかしかった。

そこで、警察官が父に話しているのが耳に入ってくる。

「どうやら、お宅の息子さんはスピードを出し過ぎてカーブを曲がり切れず、センターラインを超えて峠の斜面に突っ込んでしまい……」

淡々とファイルを読み上げる警察官に視線を向けて、C美さんは兄の最期の瞬間を知った。

「正面衝突の勢いで、車がフロントごと圧し潰れた衝撃で、両足が骨盤ごと上半身の中に潜り込んでいまして……即死でした」

それを聞いて、C美さんはようやく違和感に気づいた。

身体の長さが圧倒的に足りなかったのだ。

それと同時に、あの忌まわしい夢を思い出した。

あの人影は、今の兄にそっくりだったのだ。

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結局、あの夢と兄の死に何かの関連があったのか、C美さんは未だに分からないままだという。

Concrete
コメント怖い
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こんばんわ!
このお話YOUTUBEにて朗読を投稿してよろしいでしょうか?

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こわいっす。
朝から鳥肌立ちました。

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