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もう何十年も前、僕が小さい頃に経験した実話です。
お化けも霊も出て来ないし、猟奇的な事件も起こりません。
ゾっとしたり、ヒヤっとしたりもしません。
聞いてください。
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小学校の低学年の夏休み、親戚と一緒に街で遊んでいました。
そこは地方都市では栄えていた街で、当時の休日は、歩けないほどの賑わいでした。
お金もない2人は、涼しい場所を探して銀行に入ったり、デパートに入ったり、そんな事でも楽しく遊んでました。
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ある大きな交差点で、着物を着た上品なおばあちゃんを見かけました。
交差点にはとても多くの人が信号待ちをしていました。
おばあちゃんは、ボロボロの紙を見せながら、いろんな人に声を掛けていました。
しかし誰も見向きもしません。
僕たちも、新たな涼しい場所を探してあっちこっちに移動していたので、急いでいました。
青になった途端に「あっちにも銀行あるぞ!」なんて言いながら走って交差点を渡りました。
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数時間経ち、またその交差点に行くと、そのおばあちゃんは、まだ居ました。
何を訪ねているのか…と聞き耳を立てると、人を探している様でした。
「おばあちゃん、誰を探しているの?」
と、僕が聞きました。
誰にも相手にされていなかったおばあちゃんは、とても喜んで話をしてくれました。
「まぁ!僕、探してくれるの?探しているのはね、君たちと同じぐらいの男の子だよ」
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僕たちは言いました。
「それなら判り易いや。探してあげる。どんな服を着ているの?」
「黄色い帽子を被っているから目立つはずよ。白いシャツにベージュの半ズボンよ」
とても古い紙に描かれた、その子の風貌のイラストを見せられました。
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僕と親戚は顔を見合わせて言いました。
「おばあちゃん、僕たち今日は、ずっとここら辺で遊んでるけど、そんな服の子はいなかったよ」
おばあちゃんは言います。
「そんな事ないわ!ここで手を離したのよ!ここで別れたのよ!」
おばあちゃんは「いない」という言葉に、急に荒々しい返しをしてきました。
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僕たちはまた顔を見合わせて下を向きました。
「判ったよ。探してみる。ねぇおばあちゃん、その子と、いつごろ別れたの?」
と聞いた僕たちに、衝撃的な返答が返ってきました。
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…
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「この前の戦争の時に…」
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…
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そのおばあちゃんは、戦争の最中に生き別れた子供を、何十年も何十年も探していたのです。
その頃は僕はまだ子供で、「えっ…。もういないよね」と親戚と話し、探すフリをしてどんどん遠ざかりました。
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でも今、大人になって考えると、とても悲しく、つらい話なんだと思いました。
今でも探しているのかな。それとも天国で逢えているかな…と今でも思い出したりします。
作者KOJI