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中編5
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奥様の秘密

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武田部長の奥様、ノゾミさんは、誰もが羨む容姿端麗の美女だ。

 既に50歳を超えている部長と並ぶと、外見が20代の彼女はまるで親子のように見える。

 だが驚くべきことに、部長が奥様と知り合ったのは20代のころらしい。

 結婚から30年、年月の経過とともに若さを失っていく部長に対し、彼女は全く変わらず、若さを保ち続けていた。

 子供もいて、既に成人して家を出ていた。

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 どんな美容法を行っているのか、どんな化粧品を使っているのか。

 他の奥様から根掘り葉掘り聞かれても、彼女は秘密だと、決して明かそうとはしなかった。

 しかし、彼女にはある奇妙な趣向があった。

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 赤ワイン、トマトジュース、そして血が滴るステーキ。

 やたら赤い、そう「血」をイメージさせるような飲食物を好んでいるのだ。

 他の奥様からはもしかしたら、それが若さの秘訣なのかも?と言われていたが、

 そういった物を他の奥様が摂取してみても、何も身体に変化はなく、科学的にもそれが若々しさを維持できるという根拠はなかった。

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 そして彼女はよく貧血のため、病院に行くことが多かった。

 しきりにその度「血が足りない」と口にしているという。

 さらに仕事もしていないにも関わらず、夜になると出歩くことが多かった。

 いつしか彼女のことを、嫉妬もこめて周りの人たちは「吸血鬼」とあだ名するようになった。

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 ある日の事だった。

 妻が友達と外出すると留守にしていたときに、警察が尋ねてきた。

 「警視庁です。お話をお伺いさせていただきたい」

 「何だ、私は何もやましいことはしていないぞ」

 「貴方のことではありません。聞きたいのは、あなたの奥様のことです」

「妻がどうしたんだ」

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 「今この地域周辺で、不可解な殺人事件が連続して起こっているのはご存知でしょうか」

 「ああ、知っているぞ。TVで見た。全身の血を抜き取られた変死体が相次いで見つかっている事件だろ」

 「おっしゃるとおりです。何も今まで手がかりを掴めていなかったのですが、ついにこの前、犯人とおもわれる人物の映像が監視カメラに収められた事を確認したのです」

 警察官は、監視カメラの写真の切り抜きと思われる何枚かの写真を差し出した。

 そこにはビジネスマン風の男の首筋に噛み付く、女性の様子が収められていた。

その女性は、奥様で間違いなかった。

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 それを見た部長は絶句した。

 「嘘だ・・・吸血鬼なんてものが・・・この世に存在するはずがない」

「我々もまだ、確認していることが信じられません。しかし、これは紛れも無く真実なのです」

  しかしながら、部長にもひとつだけ、心あたりがあった。

 彼女と出会ってから、付近で血を抜き取られて変死した野生動物が発見される事件がずっと起こっていた。

 最初は気にもとめていなかったが、もしそうだとすれば、つじつまが合う。

 また部長は仕事柄、深夜に帰ったり、地方に出張したりすることが多く、奥様のアリバイを証明することは出来なかった。

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 しばらくして帰宅した彼女は、動かぬ証拠を突きつけられたこともあり、抵抗する様子もなく大人しく自供し、警察に連行された。

 しかし、人外の存在であることもあり、暴れだしたら危険だということで、いったんどのような処罰をするかを決める間、警察病院に拘束されることになった。

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 病院のベッドに拘束されていて、数日間こそ、栄養剤や普通の食事を与えられ、大人しかった彼女だが、しばらくするともがき苦しみ始め、恐ろしい形相で血を求めて暴れだした。

 「血をちょうだい!ほんの少しだけでいいから!!!お願い!!!」

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 「これ以上、見ているのは辛いです」

 彼女の監視を担当された若い女性看護師、立花が責任者に訴えた。

 「情が沸いたんだな」

 「いえ、そういうわけでは・・・」

 「立花くん、彼女は危険な存在なんだ。見かけは普通の人間と代わらないが、実際には人間を襲う怪物なんだよ。だから間違っても、情けをかけてはいけない」

 「先生、言葉には気をつけてください。たとえ吸血鬼でも、私の妻なんです」

 「申し訳ありません、武田さん」

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 その夜のことだった。

 「あなた、立花さんって言ったっけ?拘束ベルトを少しだけ緩めてくれない?」

 拘束ベルトでベッドにくくり付けられた彼女が言った。

 「出来ません。あなたは危険ですから」

 「そんなこと言わないでさ、お願いよ。ちょっとだけでいいから」

 「ですから、出来ません」

 立花は何度も拒絶したが、ノゾミからあまりにもしつこく強要されたために根負けし、ベルトを少し緩めてしまった。

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 「きゃあああああ!!!!!!」

 「立花くん!!!」

  部屋から聞こえてきた悲鳴に、看護師と武田部長は慌てて部屋に飛び込み、立花に襲い掛かるノゾミを引き剥がし、もう一度ベッドに押さえつけた。

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「立花くん!!!何やってるんだ!!!」

「ごめんなさい・・・」

「まあ、無事でよかったよ。彼女が衰弱して力が弱っていたから助かった。もし元気がある状態だったら命はなかった・・・」

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「ああ、血・・・。血がほしい・・・新鮮な血を・・・お願い・・・」

 彼女は依然としてうわごとのようにわめいていたが、その願いが聞き入られることはなかった。

 数日後、彼女は亡くなった。

 遺体はそれまで維持していた若さを一気に失ったように、3.40歳ほど老けた老婆のような姿に成り果て、体重は子供の体重より軽かった。

 解剖の結果、人間の肉体とは大きく構造が異なっており、彼女が人外の存在であったことは明確になった。

 

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 武田部長は彼女の思い出に浸りながら、今は一人で暮らしている。

 そして吸血鬼の血を受け継いでしまった可能性がある子供に、何か異変がないか、その身を案じている。

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私の母がそうです。

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