皆さんは伝説の怖話、「ヤマノケ」そして、「もう一つのヤマノケ」をご存知だろうか?
知らない方のために一応コメント欄にでも添付しておきます。
今回お話しすることは、つい先日俺の周りでおこった出来事がこの「ヤマノケシリーズ」に非常に酷似していた事から(嘘)、皆さんにも注意して欲しいという意味で書いてみました。
それでは、最後まで読んで頂けたら幸いです。
1
その日俺は後輩の山村龍と、居酒屋で呑み、美人ママがいると噂のラウンジでボッタクられて、お互い無言のまま帰路についていた。(もちろん飲酒運転)
夜も更けていて、道ゆく人や車もまばら。国道をそれて俺たちの車は暗い山道に差し掛かった。
給料日までまだ10日もあるのにこんな身包みはがされちまって…これからどうやって生きていこう。後輩に払わせるわけにもいかないし、やっぱカッコつけて全額払ったのはマズかったかな?
カッコ悪いけど、龍に一万借りようかしら…などと考えながら龍をチラ見すると、バカみたいに赤い顔をした龍がタバコに火をつけていた。
「おう、てめえ!何やってんだよ?!この車禁煙だぞコラ!」
「あっ!兄貴さーせん!忘れてました!」
慌てた龍が咥えていた火のついたタバコを、あろう事かシートとシートの隙間に落としやがった。
「おい!てめえこんにゃろ!ブッコロされてーか!!」
「さーせん!さーせん!さーせん!」
龍は必死にその隙間へ手をつっこもうとするが、グローブみたいな分厚い拳が狭い空間に入るはずもなく、次第に車内は焦げくさいにおいで充満し始めた。
「こ、ここ!これしかない!」
すると追い込まれた龍は信じられない行動に出た。なんとホルダーにささっていた缶ビールを俺の新車のシートにブチまけたのだ。
2
とりあえず車を山中の路肩にとめ、土下座する龍の頭をボコボコにしていたら、森の中から女の悲鳴のような声が聞こえた。
「な、なんだよ今の?」
「うう…。これはたぶん鹿ッス。鹿が鳴いたらこんな声だって前にも教えたじゃないですか兄貴」
「あんだとてめえ偉そうに!まだ殴られたいか?ああ?」
「ちょっとまってください静かに!なんか聞こえません?」
耳をすますと確かに暗い森の奥から、ガサ、ガサ、と何かが近づいてくる音がする。しかもまるでぴょんぴょんと飛び跳ねているような音だ。
「鹿か?」
「これはたぶん違います…動きが鹿とも猪とも似ていない…これってもしかして…」
次の瞬間、龍は俺の車を指差して悲鳴をあげた。「うわー!兄貴!なにやってんすか?!か、カラス!前輪でカラス轢いちゃってますやん!」
見ると、確かに黒いカラスが俺の車に踏み潰されている。腹はねじれ、クチバシはもげ、目玉も飛び出していた。
「はやく!はやく逃げないとヤバイすよ兄貴!これはヤマノケッすよ!カラス轢いちゃダメですってバカだなー!何やってんすかアンタ?!!」
俺と龍は急いで車に乗り込み、エンジンがかかった事に安堵した瞬間、フロントガラスに何か巨大なモノがぶつかってきた。
そいつはボンネットに飛びのると、熊みたいな毛むくじゃらな太い腕でガラスを叩いてきた。それはいままで見てきた動物とは明らかに違う、人間でいう胸のあたりに大きな顔がついていた。
そいつはドロドロになったガラスを撫でるようにしながら、車の中を覗きこんできて、大きく口を開けバラバラな歯を見せた。
「おい龍!大丈夫か?!」
後輩の身を案じ隣りを見ると、龍も大きな口を開けて、ぼろぼろと涙を流していた。
3
俺はしばらく気を失っていたようだ。
数分かもしれないし、もっとかもしれない。一瞬、夢かと期待したが、フロントガラスはドロドロで、ヒビも入っていた。新車なのに。
幸い、近くにあのバケモノの姿はない。
隣りの龍はまだ寝ているようで、夢でも見ているのか何やらぶつぶつ言っている。
耳を近づけると、「ハイレタ、ハイレタ、ハイレタ、ハイレタ」などと、意味不明な言葉を繰り返すばかりだ。
「ちょっと待て!『ハイレタ…』って、何かどっかで聞いた事があるぞ?」次の瞬間俺はハッ!とした。
急いで最近はアクセスしていなかった、日本一のホラー小説サイト「怖話」を立ち上げ、「特選の話」から「ヤマノケ」という話を探しだした。
ヤマノケを読み終わり、ついでにもう一つのヤマノケも読み終わった瞬間、俺はアクセルを目一杯にふみ込んだ。
「寺!寺!寺はどこだ?!龍がやられた!!警察も病院もダメだ!寺!寺に連れてかねーと!!」
5分ほど走ると幹線道路にでたので少し安心した。俺は車を止めて、スマホのホームボタンを長押しした。
「へい、Siri!一番近くのお寺を探して!」
Siri「すみません、聴き取れませんでした」
つづく
作者ロビンⓂ︎
ヤマノケ
http://kowabana.jp/stories/6785
もう一つのヤマノケ
http://kowabana.jp/stories/8506