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俺は3度目の呼びかけでなんとかヒットしてくれた◯◯寺へ向けて、車を飛ばしていた。
瞬きをするたび、あの白い毛むくじゃらの化け物が目の奥に映り込む。隣りでは龍が起きているのか寝ているのか、口元に泡を作りながらまだぶつぶつと独り言を繰り返している。
独り言はいつのまにか、「ハイレタ、ハイレタ」から「てん…そう…めつ…てん…そう…めつ…」に変わっていて、いよいよあのヤマノケの話と同じようになってきた。ただ、一つの違和感だけを除いてだが。
「龍しっかりしろ!!すまん俺のせいだ、待ってろ、すぐに助けてやるからな!」
俺は更にアクセスをふみ込んだ。
5
幹線道路を外れて少し走ると、寝静まった人家の先にその寺はあった。
こんな時間だが寺の横にある建物に薄い灯りがついていたので、俺は龍を引きずりながらそのドアを叩いた。
すると、つるっ禿げ(失礼)のいかにもな顔をした住職が上下スウェット姿で出てきた。最初めちゃくちゃ眠たそうな顔をしていたが、龍を見た途端、鬼のような顔になり、「おまえら!いったい何をした?!!」と、なぜか思いっきり平手打ちされた。
俺は平手打ちが痛かったのと、助けてもらえるかもしれないという安堵感から、膝から崩れ落ち、号泣した。
「泣いとらんで、はよそいつを運べ!!」
通された広間でありのままを話すと、住職はため息をついて、気休めにしかならんと思うが…と、硬い棒のようなもので、龍の股間をバンバンと叩きはじめた。龍は悶えながら「ぎゃふん!」とか「うそん!」とか言いながら、苦しみはじめた。
「こやつは当分ここで預かる事になる。ヤマノケが剥がれるのが先か、こやつが死ぬのが先かは分からんが」
住職の口から「ヤマノケ」という言葉がでた。やはり「ヤマノケ」という化け物は本当に存在するようだ。
住職は3人の男に羽交い締めにされている龍の股間を更にビシバシと痛めつけながら、悲しい顔で話しはじめた。
「ヤマノケは間違って男に憑いてしもうたようじゃ…普通なら女にしか憑かんのじゃが、ほれ見てみい、この男は女みたいに髪が長いじゃろ?」
住職の言ったこと。俺がヤマノケを読んでからずっと感じていた違和感がまさにそれだった。確かに龍は去年から始めたビジュアル系ヘヴィメタバンドのせいで、髪を腰まで伸ばしている。
「そ、そうですよね?ヤマノケは快楽度の高い女性に取り憑いて、その肉体が死ぬまで自慰行為を繰り返すと読みました!だから、なぜ男の龍に取り憑いたのかが疑問だったのです住職!」
「うるさい、黙れ小僧!!!」
住職はあからさまに嫌な顔をしながら、硬い棒のようなもので、龍の股間を思い切りシバいた。
「あふん!!!」
「こやつがここで自慰行為なんかを始めよったら、即刻、ワシが成仏させてやるわい!不快な!!とにかく明日、こやつの家族をここへ呼んでくれ。ワシが話してやる。49日が勝負じゃ。49日でヤマノケが出ていかんかったら、こやつは…」
「ど、どうなるんですか?」
住職「知らん!」
大の字に寝転んで気を失ってしまったはずの龍が、よく見たら目を閉じたままニヤニヤしている。そしてピクリと右手が動き、ゆっくりとその手を自分の股間の上に乗せた。
「マチガエタ、マチガエタ、マチガエタ、マチガエタ、マチガエタ、マチガエタ、マチガエタ、マチガエタ、ツイテル、ツイテル、ツイテル、ツイテル、ツイテル」
龍は涙を流しながらそう繰り返し始めた。
つづく
作者ロビンⓂ︎
更にもう一つのヤマノケ
http://kowabana.jp/stories/32046