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我が家の歴史【奇告蒐集】

中編5
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我が家の歴史【奇告蒐集】

こんなメールが届いた──。

F県に住むTさんは子供の頃、霊感があったという。

5才のある日の夜に眠っていると、突然カラダが動かなくなった。

初めての金縛りに怖くて、固く目を閉じていると、何処かから若い女の声がする。

小さな声で、何を言っているか分からなかったが、徐々に声が近づいて来ているように、女の声は少しずつ大きくなってくる。

ボソボソと、囁くような小さくか細い声。

幼いながらも女の声が何を言っているのか聞き取ろうと、Tさんは耳に意識を集中する。

すると……女の声は耳元でハッキリと、

「早く………」

その声と同時に、Tさんのカラダは布団の中へグイッと引き込まれた。

もがこうともするも、一向にTさんのカラダは動かない。

それでも必死に抵抗するTさん。

どれくらい抵抗しただろう……。

気がつくと、Tさんはキチンと布団から顔が出た普段通りの姿勢に戻っていたそうだ。

しかし、まだ幼かったTさんは、この体験を直接的に霊と繋げることは出来なかった。

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それから時が経ち、小学4年生になったTさんに一人部屋が当てがわれた。

二階の8畳間が、Tさんの部屋になったのだ。

姉と妹に挟まれた長男だったTさんは、念願の一人部屋にとてもテンションが上がったそうだ。

そんなある日、Tさんが自室で寝ていると、急にカラダが床に引き込まれるような感覚があった。

まるで仰向けになったままフリーフォールに乗せられたような、重力がかかったような感じが10秒くらい続いて、フワッとカラダが軽くなる。

あまりの突然の出来事に驚いたTさんは、ガバッとカラダを起こすと、自室の真下にある両親の部屋の父親の布団に寝ていた。

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さらに時が過ぎ、中学3年になったTさんに、決定的な事件があった。

ちょうど夏休み中だったこともあり、買ったばかりのマンガを夜中まで読みふけったTさんは、深夜2時を過ぎた頃、そろそろ寝ようと明かりも消さずに布団に横になった。

その途端、Tさんのカラダは金縛りに襲われた。

今までにないほど強力な金縛りで、横向きに寝転んだまま、指一本動かせない。

この頃のTさんは金縛りにも慣れていたと言うか、落ち着いていて、まぶたをしっかり閉じて、やり過ごそうとする。

しかし、そうはいかなかった。

唐突に甲高い耳鳴りがして、こめかみ辺りをギリギリと音がしそうなほど強く締め付けるような感覚と共に、閉じていた目がTさんの意思とは裏腹に開いていく。

その視線の前には、黄色いトレーナーに紺色の短パン姿の子供が枕元に正座しているひざ小僧があった。

幸運なことに、顔はまだ見えてはいない。

見たらヤバい!

そう直感したTさんは、目を閉じようとしながら、渾身の力を込めてカラダの自由を取り戻そうとした。

Tさんの気合いが勝ったのか、カラダが動けるようになると同時に、目の前にいたはずの子供の姿は消えた。

Tさんはすぐに階段を降り、台所から塩を鷲掴みすると、部屋の布団に叩きつけるように塩をぶちまけた。

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不定期とは言え、自分の家で複数回も不可解な体験をしたTさんは、流石におかしいと思い、自分の家について調べてみることにした。

まずは図書館へ行き、自分の住む町で何かなかったかを調べたが、残念ながら昔の新聞記事などはなく、近くに住むTさんのお祖母さんから話を聞いてみた。

なんでも、姉が生まれてすぐ、今は故人のお祖父さんが、孫娘可愛さに自分の家の近くの空き家を買い上げ、当時は川向こうの町に住んでいた両親と姉を、家を取り替える形で今の家に引っ越してきたのが、Tさんが生まれる少し前のことだった。

頑固一徹で孫娘バカになったお祖父さんが、誰にも相談することなく、独断で突っ走った結果であること以外、収穫はなかったそうだ。

両親に聞いても同じような返事だったらしい。

捜査はのっけから暗礁に乗り上げたが、Tさんは諦めなかった。

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自宅のすぐ近くには、そこそこ大きなお寺がある。

そこの住職は、子供の頃に友達とよく遊ばせてもらっては、アイスやお菓子をもらっていたり、夏休みのラジオ体操を一緒にやったりと、それなりに知った仲だ。

もしかしたら何かつかめるかも知れないと、住職を訪ねたが、住職はその寺の生まれではなく、寺に入ってからそんなに古いわけでもないため、そんなに昔のことは知らないそうだ。

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手がかりがつかめないまま、何ヵ月か経ったある日、諦めかけていた捜査は急展開を迎える。

お寺の隣に住むお婆さんから有力な情報を得たのだ。

お婆さんが言うには、Tさんの住んでいる家が建った頃、そこに住んでいた三人家族が皆殺しにされた。

犯人が捕まらないまま、何ヵ月かしたある日、一人の男がその家に向かって必死に土下座をしながら許しを乞いに現れたのだ。

近所の通報により、すぐに男は逮捕されて身元が割れた。

男は少し離れた町に住む男で、動機もただの逆恨みだったそうだ。

殺人を犯してから、男の元に殺した家族が毎夜のように現れ、ノイローゼになった男は、家族に詫びようと家の前で何度も何度も土下座していたそうだ。

にわかには信じられない話だと思っているTさんに、お婆さんは家のそばに建つ大きな石碑を指差した。

「これは、その家族を弔うために犯人の家族が建てた慰霊碑なんだよ」

毎日のように見ていた石碑を、何かの記念碑だと思っていた石碑に彫られた文字を読んだTさんは驚愕した。

『一家供養碑』

その夜、このことを知っていたかと両親に訊いたが、両親はそんな事件のことは全く知らなかったそうだ。

さらに両親からこんな話を聞かされる。

この家に引っ越して来てからすぐ、仏壇に飾った花が、どんなに新しくても二日ともたずに枯れるという日が続いていた。

変だと思いながらも放置していたが、元々古い空き家だった家ということもあり、二階が雨漏りするようになる。

すぐに大工を呼んで修理を頼むと、大慌ての大工に父親が呼ばれた。

一緒に二階の天井裏に上がると、屋根裏から床にあたる天井には、おびただしい量の古く煤けた御札がビッシリと貼り付けられていたのだと言う。

すぐさま神主を呼んでお払いをしてもらい、それを丁重に納めると、仏壇の花がすぐに枯れるという現象はピタリと止まったそうだ。

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それから時は流れ、Tさんの結婚を機に家を建て直す。

奥さんの希望通りにしたら、以前の面影は微塵も感じられない家になった。

それが良かったのか、Tさん自身が怪現象に見舞われることはなくなったが、新築してから生まれた長男が赤ん坊の頃、誰もあやしていないのに急にキャッキャと笑い出したり──。

少し大きくなった今は、誰もいない部屋で何かを相手にじゃんけんしていたりすることがあるそうだ。

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どうやらTさんの家には、まだ何かがいるらしい。

Concrete
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