『大物主』
~ある意味でもオオモノの神の話~
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初代神武天皇が宮を築いた倭にある三輪山(みわやま)には、
大物主という蛇神が住んでいました。
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その昔、大国主のマブダチが亡くなった際、途方に暮れた大国主の前に現れ、
「ワシを倭の国の山に祀ってくれはったら国造りが上手くいきまっせ!」
と持ちかけ、大国主によって三輪山に祀られたそうです。
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そんな大物主が暇を持て余していたところに、思わず息を呑むようなスーパー美人が現れます。
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この美人はタマクシヒメと言い、あの八咫烏の娘だとのことですが、
運良く母親に似たおかげか、鳥類ではなかったようです。
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さっそくタマクシヒメにロックオンした大物主は、
タマクシヒメが川でお花摘みをしようと着物をまくり上げたところを見計らって、
朱塗りの矢に姿を変え、川上から流されながら忍び寄ると、
あろうことか女の子の一番大切な所にズブリと侵入しくさりました。
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これにはタマクシヒメも、寝起きに洗顔してたら鼻の穴に小指が刺さった時以上に驚いて、
矢をオマタに刺したまま、お家に走って逃げ帰りました。
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なお、タマクシヒメが逃げ帰る際に、
「もう、イ矢~ン」
と言った記述は何処にもありません。
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帰宅して落ち着きを取り戻したタマクシヒメは、
刺さりっぱの矢を引き抜き、力いっぱい土間に叩きつけてから、ふて寝します。
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わたしなら囲炉裏にくべて灰にしてやるところですが、
詰めが甘いタマクシヒメがトドメを刺さなかったのをいいことに、
スケベアローこと大物主は姿をイケメンゴッドに戻し、タマクシヒメの寝込みを襲いました。
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こうして、奇襲に夜這いという、今ならもれなく死刑相当な事案で既成事実を作った大物主は、
タマクシヒメをまんまと妻にしました。
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初戦の相手が『矢』だなんて、他にお嫁に行けないのも無理はありません。
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そんな事件があったとは知らない神武天皇が
「ボク朕(ちん=皇帝が自分を指す時の呼称)、超絶美人のお嫁タンほちぃ!!」
と、ダダをこねて聞かないので、部下たちがあちこち探し回ると、
「三輪山にヒメタタライスケヨリヒメ(以下、イスケヨリヒメ)という、激マブなおなごがいる」
と聞き、神武天皇のお嫁さんに迎えました。
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お察しの通り、このイスケヨリヒメは、大物主とタマクシヒメの娘です。
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時は過ぎて、第十代崇神天皇(すじんてんのう)が即位して少しすると、
国中では謎の病気が蔓延し、そこら中に身元不明の遺体が転がっているという、パンデミックが起こります。
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「ボク朕のせいじゃないもん!」
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という崇神天皇の想いも虚しく、神様からのありがたい御神託を受けるため、
崇神天皇は神床(かむとこ=御神託を受けるための天皇専用の寝室)に半ば強制的に幽閉されました。
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「テラサミシス……」
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本当の意味で神頼みするも、御神託は一向に降りて来ず、
抱き枕の持ち込みすら許されず、何日も独りで眠る日々を過ごしていた崇神天皇も、
ついに我慢の限界がきて、キレ気味に愚痴ります。
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「それにしても、ボク朕が天皇になった途端に疫病がバズるとかタイミングおかしない?
何処かの製薬会社が人体実験しとるか、ナンチャラメーソンとかの陰謀ちゃう?」
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一人暮らしすると独り言が多くなる理由は、こういうところにありそうです。
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その辺は「ドンマイ♪」と同情したくなりますが、崇神天皇のボヤキは止まりません。
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崇神天皇「うちの家系って、ホンマにアマテラスの家系なん?!誰か見たん?
そもそもアマテラスって誰やねん?!ホンマにそんなんおるん?」
謎の声「おるぞ」
崇神天皇「ひぃやぁぁああああ!!」
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独り言を聞かれた恥ずかしさと気まずさからか、悲鳴を上げた崇神天皇に謎の声が言いました。
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謎の声「疫病が流行って大変そうやな」
崇神天皇「せやねん……てか、誰?」
謎の声「ワシは大物主や」
崇神天皇「あ!矢に化けて女の股ぐらに物理的に突っ込んだ変態の?」
大物主「いや、言い方ァ!!」
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茶番はさておき、崇神天皇が現状を相談すると、大物主は言いました。
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大物主「それ、ワシのせいやねん……あれから社もボロくなって、力的なもんが出えへんくなったんや」
崇神天皇「ほな、新しゅう建てたるさかい、また守ってくれへん?」
大物主「えぇよ!ついでに、管理人はオオタタネコっちゅうヤツにやらしてな!」
崇神天皇「りょ♪」
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待ちに待った御神託を授かった崇神天皇は、翌朝すぐに新たに社を建て始めることと、そこの管理人になるオオタタネコを探すよう、勅令(ちょくれい=偉い人の命令)を出しました。
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オオタタネコもすぐ近くで見つかるかと思いきや、河内国(今の大阪府あたり)でやっとこさ見つけ、ダメ元で頼んでみると、あっさりOKしてくれます。
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それもそのはず、オオタタネコは、あの大物主の子孫だったんです。
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こうして出来たのが、大神神社(おおみわじんじゃ)です。
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また、オオタタネコが三輪山の語源になった逸話を語っています。
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倭にはドチャクソ美人で、鍵つきの箱入り娘と近所でも評判なイクタマヨリビメがいました。
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ハレンチの権化こと大物主が、そんな上玉を見逃すはずもなく、
夜な夜なイクタマヨリビメの部屋の万全のセキュリティをかいくぐり、
さんざんスケベなことをした挙げ句、
やや子まで仕込んでけつかります。
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我が娘を穢れなき純潔と信じていた厳格な父親は、髪の毛が金髪にならんばかりの勢いでブチ切れ、イクタマヨリビメを尋問しました。
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昭和の刑事ドラマばりの迫力で問い詰められたイクタマヨリビメは、
「何処の誰かは知らんけど、テライケメンな人やねん」
と、真っ正直かつ他人事のような一言で、さらに燃料を投下します。
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「お前の貞操観念はどないなっとんねん!!」
と、父親は可愛さあまって憎さ百倍界王拳です。
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それを隣で聞いていた賢い母親は、怒りに震える父親をなだめながら、
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「うちの磐石で強固なセキュリティを抜けてまで来るヤツやねんから、そうとうスゴいヤツなんやろねぇ。
今度来たら、麻糸を巻いたのをその男の着物の裾に仕込んだったらどない?」
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と、諸葛孔明の生まれ変わりかと思ってしまうくらいナイスな策略を娘に授けます。
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素直なイクタマヨリビメが実際にやってみたところ、麻糸は鍵穴を通って外へと延び、とある山まで続いていました。
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その麻糸の残りが3クルクルだったことから、その山を三輪山と呼ぶようにそうです。
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さらに、大物主絡みのこんな伝承もあります。
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第七代孝霊天皇(こうれいてんのう)の娘のヤマトトトヒモモソヒメ(以下、モモソヒメ)も大物主の妻になっていました。
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しかし、大物主は顔を隠したまま夜ごと寝室にやって来ては、ヤって帰るだけ。
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そんな日が続くモモソヒメは、ある晩のピロートークで
「そろそろ顔くらい見せてくれてもエェんちゃうん?」
と言うと、大物主はめんどくさそうに返します。
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「まぁエェけど、絶対ビックリしたらアカンで?」
と、旦那に軽く脅しをかけられた妻のモモソヒメですが、
「旦那の顔に今さら驚きますかいな!」
と言うので、大物主は
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「ほな、朝になったら櫛笥(くしげ=小物入れ)を開けてみ?そこにワシ、いてるさかい」
と言い残し、帰って行きました。
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朝になり、モモソヒメが言われた通りに櫛笥を開けると、
そこには黒いヘビが元気よくニョロついているではありませんか!
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まさかのスネークに驚いたモモソヒメが、その場に腰を抜かして尻もちをつくと、
たまたまそこにあった箸に乙女の聖域を貫かれ、その傷が元で亡くなってしまいました。
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それが、今の奈良県にある箸墓古墳(はしはかこふん)の伝説です。
何で食事時でもないのに、そんな所に箸があったのかは誰にもわかりません。
続く?
作者ろっこめ
今回は、大物主(オオモノヌシ)という神様が登場です。
神には女好きが多いですが、この大物主に関しては、アプローチのクセがスゴいです。
また、古事記での女性の死因には『大事なトコに何かが刺さって死ぬ』ことが多々あります。
上巻でもスサノオが高天原追放になった決定的な事件の『機織り場 屋根ぶち抜き 馬投げ込み事件』で亡くなった女神の死因も結局はソレです。
こうして読んでいくと、昔って大変だなぁ…なんて思っちゃったりします。