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中編3
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10円玉硬貨

久喜さんが小学生のころは、まさしくオカルトブームの真っ最中だった。

彼女も御多分にもれず《学校の七不思議》やら《幽霊の声が入ったCD》などに夢中になったが、やはり同年代に熱狂的な支持を得たのは

《こっくりさん》

である。

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ある日の放課後に友人たちと、先生の目を盗み教室に集まった。

全員が初体験のこっくりさん。

他愛のない質問を投げかけ《勝手に》動きだす10円玉に盛り上がったのだが、問題はそのあと。

こっくりさんはその行為を終えたのち、紙は破くか燃やすかで形の残らないように捨てる。

そして10円玉はなるべく早く使ってしまい手元に残してはいけないという不文律があるはずだ、ということを誰かが言い出した。

紙はともかく、誰も貰い受けたがらない10円玉はジャンケンで行く末が決まる。

そして、久喜さんは一人負けをした。

人一倍オカルトの信奉者だった久喜さんは怯えたが、仲間内の決まりごとは無視できない。

実は《校内に財布を持ってきてはいけない》という校則を素直に守っていた久喜さんは他に手持ちもなく、買い物をするのは難しかった。

しかしただ道端に打ち捨てるような真似は、たたりが恐ろしい。

久喜さんは思案のあげく、道中の公衆電話で使用してしまうことにした。

当時はいくつも存在した、繁華街から離れた場所にぽつんと存在する公衆電話。

久喜さんは電話機に10円玉を投入し、自宅の電話番号を押した。

何度かの呼び出し音のあとに、先方が応答する。

『お母さん?』

自宅にいると思われる母親に呼び掛けても、相手は一言も発しない。

どうもおかしい、と久喜さんが思ったとき。

聞き取れるぎりぎりの音量で、人の話し声がした。

複数人の会話であるらしい。

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《……おいでください、おいでください……》

《……すきなひとは……》

《……イエスか、ノーで……》

《……えぇ、ウソぉ……》

《……あんた、うごかしてるでしょ……》

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それは先程の教室でこっくりさんに興じていた、久喜さんたちの声だった。

久喜さんは、驚いて電話を切ってしまった。

すると、ピーピーピーとけたたましい電子音とともに10円玉が釣銭口にもどってきた。

一度でも通話をして電話を切れば、秒数に関わらず10円玉は回収されてしまう。

つまりどこにも繋がっていない、と認識されているのだ。

久喜さんは友人の家、近所の雑貨屋、緊急車両の呼び出し、知っている限りの番号にかけたが、結果は変わらない。まるで録音されていたかのような、数十分前の自分たちのやりとりが聞こえてきた。

それも、新たな番号にかけるたび音量は鮮明に聞こえてくるようになっていた。

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《やだぁやだぁやだぁ》

《あはははははははははははははははは!》

受話器を耳に当てずとも、ボックス内に自分たちの会話が響き渡っている。

いつか終わりが来るはずだと耳をふさいで待機してみたが、会話はいつまでもループし終わらない。

久喜さんはとうとう、受話器を放置したまま公衆電話の外へ出ようとした。

しかし、扉は開かなかった。

外から何者かが押さえつけているかのように。

狂ったような笑い声はもはや受話器からではなく、ボックス内の

《真上》

から聞こえてきていた。

直感的に見てはいけない、と感じた。

これ以上ここに居てはいけない、とも。

『ごめんなさい!二度としません!』

そう叫んだ久喜さんは限界に達し通話を切ると、もどってきた10円玉を口に入れ飲み下してしまった。

ようやく扉は開き、泣きながら自宅に帰る。

あっという間に腹痛を覚え、自宅の両親にいきさつを説明した。

救急病院に連れていかれ、胃洗浄の運びになった。

幸いすぐに腹痛は治まり、それ以外に大した症状もなかったのだが。

医者があらゆる手を尽くしても、胃の中に入ったはずの10円玉は見つからなかったという。

友人同士の秘密の儀式を、図らずとも大ごとにした久喜さんに再びこっくりさんの誘いが来ることはなかったし、彼女自身もそれは避けた。

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それから十数年が経過したが、いまだに10円玉は見つからない。

久喜さんは今現在お腹の中にいる子供に

《将来自分が火葬場で焼かれたあと、10円玉硬貨が出てくるかもしれない》

と話すつもりだという。

Concrete
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