『神功皇后(じんぐうこうごう)』
~史上最初にして最強のカミさん~
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かのヤマトタケルの子で、第十四代仲哀天皇(ちゅうあいてんのう)には、神功皇后という奥さんがいました。
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この神功皇后は、垂仁天皇時代に10年かけて不死の実を取りに行ったけど間に合わず、
垂仁天皇の陵の前で
「なんじゃこりゃぁあああ!!」
で果てたことでおなじみのマジタモリ…に字面が似ているタジマモリの曾孫で、
新羅(しらぎ=朝鮮半島の国の一つ)の王家の血を引く由緒正しい血統のサラブレッドプリンセスです。
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そんな生まれながらのお嬢さまで在らせられる神功皇后は、イメージ通りの自己中でした。
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仲哀天皇が即位して割りとすぐ、こりもせず九州の熊曾が反乱を起こそうとします。
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熊曾「紅~に染~まった、俺た~ちを~、倒すあ~のタ~ケルは、もぉ~い~な~い~♪」
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なんて歌ってはいませんが、とにかく朝廷に反旗はひるがえしました。
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仲哀天皇「あんにゃろぅめ……もうパパはいないけど、ボク朕だってやれるんだ!
二度と逆らえないように、熊曾をペンペン草一本生えない焦土と化してやるっ!!」
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鼻息荒く通算二回目の熊曾討伐に出かけようとする仲哀天皇の前に、
「旦那さま?何かお忘れではございませんこと?」
と、神功皇后が仁王立ちで敢然と立ちふさがります。
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仲哀天皇「いや、特にはないと思うけど?」
神功皇后「セバスチャン!セバスチャン!!」
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神功皇后が呼びかけると、先代の成務天皇(せいむてんのう)のマブダチで、大臣も勤めている建内宿禰(たけしのうちのすくね 以下、建内)が現れました。
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建内「たけしのうちです」
神功皇后「セバスチャン!
アテクシの旦那さまが何をお忘れなのか教えて差し上げなさい!」
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すると、建内が仲哀天皇にこっそり耳打ちします。
建内「お嬢さまが熊曾討伐にご同行されたいと申しております」
仲哀天皇「だにぃ?!戦場に女を連れて行けだとぅ?!
正気か?タケロット!!」
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仲哀天皇が建内を叱りつけると、神功皇后がずいっと一歩前に出て言いました。
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神功皇后「旦那さま!アテクシを誰だと御思いになってらっしゃるの?
熊曾の田舎者など、アテクシにかかれば、チョチョイのポイ!
ですわ♪」
仲哀天皇「チョチョイのポイ?」
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耳馴染みのない言葉で仲哀天皇が呆気に取られている隙に、
神功皇后「今よセバスチャン!
そこにヨツンヴァインにおなりなさい!」
建内「たけしのうちです」
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神功皇后は建内を足場にして、ちゃっかり仲哀天皇の馬に乗り込んでしまいました。
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神功皇后「旦那さま?何をのんびりなさってるのですか!?
さっさと熊曾の田舎者共の臓物を引きずり出して、野良犬のエサにでもして差し上げましょう♪
ねぇ、セバスチャン?」
建内「たけしのうちです」
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こうして、神功皇后は強引に熊曾討伐に同行したのでした。
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九州の筑紫に着いた仲哀天皇の軍勢は、仮の宮を建てて駐留します。
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そこで、仲哀天皇は戦の勝敗を占うべく、神憑り(かみがかり=神様を降ろして占う)をすることにしました。
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仲哀天皇「ねぇ神功?」
神功皇后「何ですの?旦那さま」
仲哀天皇「琴弾ける?」
神功皇后「アテクシを誰だとお思いですの?
そんな愚問は笑止ですわ!!」
建内「お嬢さまをお出来になられません」
仲哀天皇「いや、出来ひんのかい!」
神功皇后「琴など所詮はお遊び!そんなものは誰かに弾かせるものなの……
ですわ!!」
仲哀天皇「………。
まぁいいや……じゃあ、ボク朕が弾くから、神功は審神者(さにわ)やってよ」
神功皇后「合点承知!ですわ!!」
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審神者とは、神様を自らの体に降ろして神託を聞き、その神意を読み取るイタコめいたことをする人のことで、
イケメン型のしゃべる刀剣をどうこうする人のことではありません。
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神憑りの儀式を始めて少しすると、琴の調べの中で神功皇后に異変が起きました。
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神様「わらわを呼ぶのは誰ぞ?」
仲哀天皇「キタ──(゚∀゚)──ッ!!」
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神功皇后に乗り移って現れた神に、仲哀天皇のテンションが上がります。
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仲哀天皇「神様!ボク朕の熊曾討伐は上手くいきますか?」
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仲哀天皇の質問に、神様は厳かに答えました。
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神様「こんなチンケな所など、クソどうでもよい!
そんなことより、西の海の向こうに金銀財宝ザックザクの国がある……。
そこを手に入れるのじゃ!!」
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神様の言葉を聞いて、仲哀天皇は高台に登って西の海を眺めますが、島一つ見えません。
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仲哀天皇「そんな国は見当たりませんが、本当にあるんですか?」
神様「探せ!この世の全てはそこに置いてあるっ!!
知らんけど!!」
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見開きページにデカデカと『どどんっ!!!!』の文字が踊っていそうな迫力の神様でしたが、
仲哀天皇は今一つ信用出来ませんでした。
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神様「その国を制圧するなら、わらわを含む高天原が全面的にバックアップするぞよ?」
仲哀天皇「ホントかなぁ……無駄足とかマジ勘弁なんですけど?」
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猜疑心旺盛な仲哀天皇の言葉に、神様は憤慨します。
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神様「えぇぃっ!!黙れ小童!!
神オブ神で在らせられる、わらわの言葉を信用できぬと申すのか!?
そんなキサマに、この国を統治する資格などない!!
キサマの命はここでボッシュートじゃ!!」
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ゴゴゴゴゴ……という擬音がつきそうなほどの威圧感を放ち、
何王色かの覇気をまとっていそうな神功皇后を見て、そばに控えていた建内が仲哀天皇に叫びました。
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建内「弾きなさい!チュンジくん!!
誰のためでもない、自分自身の命のために!!」
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建内の言葉で我に返った仲哀天皇が、止めていた琴を慌てて弾き直しますが、時すでに遅し──。
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仲哀天皇はそのまま、琴に覆い被さるように倒れて、そのまま崩御されました。
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軍の総大将を突然失ってしまい、熊曾どころではなくなった朝廷軍は、
崩御した仲哀天皇の亡骸を殯宮(あらきのみや=天皇などが埋葬されるまで安置される御殿)に移し、
大至急、大祓の儀(おおはらいのぎ=国全体のけがれを祓う儀式)をして、神功皇后に宿る神様に御伺いを立てました。
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建内「全てのけがれは祓いました。
どうか、あなた様がどなた様なのかお教えください」
神様「わらわはアマテラス!
一番偉い神様なのに、どいつもこいつも、わらわをナメくさりおって!
そろそろ泣くぞ!!」
建内「ここにはもう、そういう輩はおりません……。
天皇を失った今、この国は誰が治めればよろしいのでしょうか?」
アマテラス「この者の腹に宿る子を次の天皇とせよ!
よいな?わらわをナメるでないぞ?
次は、この国中に黒い悪魔昆虫を放ってやるからな!!」
建内「かしこまりました」
アマテラス「高天原からは以上!解散!!」
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アマテラスが言うだけ言って高天原へ戻ると、神功皇后が正気に戻ります。
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神功皇后「……ハッ!こ…これは、一体どういうことですの?
早く説明なさい!セバスチャン!!」
建内「たけしのうちです……
陛下が御崩御あそばされました……」
神功皇后「御崩御?どなたが?」
建内「ですから、お嬢さまの旦那さまです」
神功皇后「チュリリンのことかーーーっ!!!!」
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建内から全ての経緯を聞いた神功皇后は、弔い合戦の気持ちで兵を率いて果敢にも西の海に繰り出しました。
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新羅からは、特に何もされていないのにです。
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神功皇后「オーッホッホッホッ!!
さぁ!ウェストブルーの国を滅ぼして、アテクシは海賊の女帝に成り上がりますわよ!!
セバスチャン!!面舵いっぱいいっぱいですわ!!」
建内「お嬢さま!海賊の女帝になられたら、それはむしろ、成り下がりです。
それに、舵をいっぱいいっぱいにしますと船は逆戻りします……それと
私はたけしのうちです」
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神功皇后の大船団は西の海を渡り、新羅の国へと向かいます。
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神功皇后「モブの皆様!宝の島が見えて参りましたわよ!!
アテクシたちの大和魂を存分に見せて差し上げなさいっ!!」
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神功海賊団が新羅の国へと突き進んでいると、大船団の起こす大きな波が新羅の国の半分を呑み込みました。
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これには流石に皆が引きました。
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神功皇后「お?………
オーッホッホッホッ!!
見たかでございますわ!
アテクシにかかれば国の一つや二つ、ラクショーなのでございましてよ!!
ねぇ?セバスチャン!!」
建内「たけしのうちです」
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この神憑り的なミラクルラッキーにすっかりビビった新羅の王は、神功皇后にひざまずいて降参し、今後は定期的に御宝を上納する条約を締結しました。
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神功皇后は調子づいて、新羅国の高台に住吉の大神を祀る社をぶち建てたり、新羅の王宮の前に杖を刺して、
「ここはアテクシの国ですわ!」
と、やりたい放題です。
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しかし、神功皇后は調子づいた後に産気づいてしまいます。
忙しい人です。
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神功皇后「鎮まりなさい…アテクシのベイビーボーイ……。
アテクシは、こんな属国で貴方を産むわけには参りませんのよ……。
ミッシェル!ミッシェール!!」
建内「ひょっとして、私ですか?」
神功皇后「石を…でっかい石を拾ってらっしゃい!
あ、やっぱり、あんまりでっかくない石を……」
建内「具体的な大きさと個数をお願いします」
神功皇后「ちょうどいいあんばいの石を一つですわ!
早くなさい!!
ベイビーボーイの頭が、もれちゃうではございませんか!!」
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なんと、神功皇后は今にも産まれそうな我が子の出口を石でふさぎ、生誕の時を帰国までガマンさせるという、『逆天岩戸作戦』をやってのけます。
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こうして、新羅制圧を済ませた神功皇后の一団は、意気揚々と日本へと帰国しました。
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よくよく思えば、神功皇后の母親の先祖は新羅の王子だったので、母親の先祖の本家を乗っ取ったことになります。
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長い船旅を終え、九州の筑紫に着くや、持ち前のガッツでガマンしていた皇子をスポンと産み、
生まれた御子にホムダワケと名づけます。
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ホムダワケは、後の応神天皇(おうじんてんのう)です。
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神功皇后「ベイビーボーイが生まれたとはいえ、何だかアレですわねぇ……」
建内「と、申されますと?」
神功皇后「もしかしたら、アテクシが愛しの旦那さまを殺して、自分の天下にしようとした……なんて考えている輩もいるんじゃなくて?」
建内「まさか……」
神功皇后「いいえ!そう思っている輩がいるはずですわ!
念のため、ホム太郎(ホムダワケ)が亡くなったことにして大和まで帰りましょう!
セバスチャン!!手配なさい!!」
建内「たけしのうちです」
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神功皇后たちが大和への帰り道を喪に服しているように偽装しながら進んでいると、
神功皇后の読み通り、謀反を起こそうとする輩がいました。
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斗賀野(とがの=高知県あたり)にお住まいのカゴサカとオシクマという皇族です。
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この二人は、仲哀天皇の正妻の息子たちで、ホムダワケを次期天皇にすることに反対するために挙兵したようです。
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御二人は、御子を失ってベッコリ凹んでいる神功皇后軍を倒し、一気に成り上がってやろう!という、浅はかなヤツらでした。
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カゴサカ「クーデターが上手くいくか、誓約(うけい)でも立ててみっか!」
オシクマ「せやな、おい!部下ども!山で狩りをしてこい!!」
部下たち「へい!オイラたちが山でデカイ獣を捕ってきてみせやす!!」
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部下たち数名は、オヤビンたちのために山へと狩りに出かけましたが、
デカめの猪1匹に返り討ちにされ、ハンターがハンティングされるという、恥ずかしい結果に終わりました。
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誓約は大失敗しましたが、二人のアホは誓約なんかしてなかった!と現実逃避して、喪の船(ものふね=御遺体を乗せた船)に襲いかかります。
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アホ二人「「かかれー!!」」
モヒカン「ヒャッハー!!」
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しかし、警備が手薄な喪の船を襲ってくることなんか想定内だった神功皇后軍は、モヒカンたちに矢を一斉に射かけて追い返します。
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ここでカゴサカの方は戦死したみたいです。
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モヒカン「ひでぶぅ!!」
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鮮やかに罠にハマったアホたちは、山城国(やましろのくに=京都府あたり)まで撤退し、長いことそこで激しく抵抗しました。
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神功皇后「あのゴミ共はまだ掃除できないのですか?」
建内「敵もなかなかしぶといようです……ここはタケフルクマに任せてみては?」
神功皇后「よろしい!では、そのアンドレとやらに任せましょう!!」
建内「タケフルクマです」
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御指名が入ったタケフルクマは、大后(おおきさき=天皇の正妻や天皇の母のこと)も亡くなったと、
わかりやすいデマ情報を流しに敵の将軍の伊佐比宿禰(いさひのすくね)へ使者を出しました。
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使者「大后陛下も亡くなられたので、戦争止めませんか?」
伊佐比宿禰「だにぃ?!そんな手に乗るものか!!」
使者「ほら、証拠に兵の弓の弦も外して持って来ましたよ」
伊佐比宿禰「ホンマや!!
がっはっは!我らの勝利じゃ!!」
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こんなにあっさり引っかかってくれたので、まさか上手くいくと思わなかったタケフルクマの方がビックリです。
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タケフルクマ「脳筋かよ……アホでよかった」
アホたち「「おのれ!騙したな!!」」
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神功皇后軍は、完全に気を緩めていたアホたちを近江(おうみ=滋賀県あたり)へ追い詰めて一人残らず斬り捨てて鎮圧し、
観念した敵の大将オシクマと伊佐比宿禰は、琵琶湖へ身を投げます。
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その時に歌ったオシクマの歌は、
「フルクマに殺られるくらいなら、わたしは琵琶湖の貝になりたい」
的な意味の歌でした。
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こうして、神功皇后は母親兼摂政(せっしょう=天皇の代わりに政治を取り仕切る役職)に着き、その手腕を大いに発揮しました。
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このせいで、初の女性天皇と混同されることもありますが、あくまでも神功皇后は摂政なので、お間違えのないようにお願いします。
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一説には、数々の功績から、神功皇后は卑弥呼なんじゃないか?説も挙げられています。
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女性である神功皇后が実質的に国を支配してたのもありますし、
神の御告げによって新羅を手中に治めています。
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何より、神功皇后の本名は『息長帯比売命(おきながたらしひめのみこと)』と言うんですが、
この『名前が長たらしいひめのみこと』の名前を新羅のお隣の中国の人が聞き、
ギリギリ覚えられた名前の後半の『ひめのみこと』の部分が縮まって『ひみこ』になっていたとしても、別におかしくない気がします。
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じゃあ、実際はどうだったのか?
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それは誰にもわかりません。
続く?
作者ろっこめ
【ご案内】
たくさんの皆さまに拝読いただいた本シリーズの1話目ろっこめ版『よくわかる古事記』①が、藤滝莉多様のツイッター上でマンガになって、絶賛公開中です!!
わたしの読者欄にある『藤滝莉多』様のユーザーページから、直接ツイッターに飛べるようにしてくれているとのことでしたので、ツイッターをされている方は
是非とも合わせてご覧になってください。
よろしければ、いいね!とフォローもポチッとしてくださると、続きを描いてもらえるかも知れません。
どうぞよろしくお願い申し上げます!!
さて、長きに渡ってお送りしてきた『古事記中巻編』も、いよいよ次回で最終回になります。
上巻から中巻まで全部読んでくださった皆さま、飛ばし飛ばしでも読んでくださった皆さま、そして、何より怪談ですらない、わたしの超解釈古事記解説にポイントやコメントをくださった皆々さま!!
本当にありがとうございます!!
中巻編は次回で最終回になりますが、
「ここまで来たら下巻も読んでやってもいいぞ?」
や
「アホみたいな解説ばっかりしやがって!ちゃんと最後まで書きやがれ!!」
と、言ってくださる方がいらっしゃるようでしたら、古事記下巻も解説させていただきます。
ただ、わたくしごとで恐縮ですが、ちょっとばかり大事な用が出来てしまったので、少しの間だけ投稿が止まります。
なるべく早く戻るつもりですので、今しばらくお待ちいただけたら幸いです。
いただいたコメントには100%返信いたしますが、用事が済み次第、まとめて返信させていただきますので、ご容赦ください。
南都華大学 文学部 国文学科 客員教授(笑) ろっこめ