東京都。
秋山さんの通う中学校近辺には、長年誰も住まずに廃屋と化している一軒家があった。
ご多分に漏れず、かつて一家心中があり幽霊がでるという噂つきである。
あるとき、上岡さんという友人が肝だめしに行こうと発案。
秋山さんを含む四人が集まったのだが。
上岡さんだけ、実は肝だめしは二回目とのこと。
彼は以前、また別の友人グループたちと潜入したらしいのだが、廃屋の二階奥にある部屋で
《ある恐いもの》
を見つけたのだ、という。
一軒家とはいっても、小ぶりな住宅である。
全員で行っても恐くないということで、上岡さんは更なる追加ルールを提案した。
廃屋には一人ずつで入り、二階の部屋にある《それ》を見て、戻ってくるというものだ。
最後の一人が終わる時点まで《それ》の正体は伏せ、全員で答え合わせをする。
答えが違うやつは、実際には行かずに戻ってきた臆病者だと判るじゃないか、と。
全員はその提案に乗った。
nextpage
放課後、例の一軒家の前に集合した。
真夜中ではないとはいえ、傾きかけた陽の中に佇む、薄汚れた廃屋の雰囲気は充分であった。
上岡さんは二回目ともあり物怖じせず、さっさと一人で入っていく。
そして、すぐに戻ってきた。
《まだ、あったぞ。早くみてこい》
と意味深に笑う。
二人目、三人目と続き、秋山さんは最後。
他の三人とも、自分の番が終わってしまえば調子のよいもので
《確かにあった》《あれのことだよな》
と言い合って笑っている。
秋山さんは意を決して侵入。
nextpage
薄暗く、カビ臭い廊下を進む。
あらゆる死角や隙間から、視線を感じた。
軋む階段をのぼり、二階奥の部屋を目指す。
扉を開け部屋に入っても、それらしきものは見当たらない。
照明の傘やカーテンすら撤去され、がらんと片付いている。
他の三人で口裏を合わせ、自分だけ担がれたのではないか、と疑い始める中、少しだけ開いているクローゼットが視界に入った。
何者かがじっと見ている気配は、そこから最も強く感じた。
覗くのは恐ろしかったが、ほかに何も見当たらない。
秋山さんはクローゼットを開けた。
nextpage
あった。
《恐いもの》
はオバケなどではない。秋山さんはむしろ拍子抜けしてしまった。
しかし確かに存在した
《それ》
を目に焼き付け、戻った。
nextpage
秋山さんたちは、せえの、で見つけたものを同時に口にする。
《首吊りのロープ》
と、全員が答えた。
全員がドローという結果に落ち着いたのだが、上岡さんの
《あれは死体の重みでちぎれたんだろうな》
という一言で、雲行きがあやしくなる。
話をしていくうちに、食い違う点があると判った。
nextpage
まず上岡さんは、部屋の中央で上部からちぎれ、床に落ちたような状態のロープを見ていた。一度目に発見したものと同じだという。
二人目は、ドアノブにかかったロープを見ている。輪の部分が床にだらりと流れていた。
三人目は、窓際。西陽に照らされ、カーテンレールに垂れ下がるロープを見ていた。
秋山さんも、クローゼットの中で先端が輪状に結ばれた縄を見つけたときは、そのあまりの禍々しさに
《上岡の言ってたのは、これだ》
と確信できたのだ。見間違いのはずがない。
《もう一度確かめる》
と上岡さん。
今度は四人全員で二階の部屋へ向かう。
nextpage
ロープはなかった。
nextpage
誰の言っている場所にも、部屋のどこにも。
そんなものは初めから存在しなかったかのように、消え失せていたのである。
四人とも、全速力でその場を離れたのは言うまでもない。
nextpage
一家心中の噂だが
《一家が何人であったか》
《どのようで方法で心中に至ったのか》
《部屋のどこで発見されたのか》
は判らない。
調べる気もないという。
作者退会会員