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中編3
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一人ずつ

東京都。

秋山さんの通う中学校近辺には、長年誰も住まずに廃屋と化している一軒家があった。

ご多分に漏れず、かつて一家心中があり幽霊がでるという噂つきである。

あるとき、上岡さんという友人が肝だめしに行こうと発案。

秋山さんを含む四人が集まったのだが。

上岡さんだけ、実は肝だめしは二回目とのこと。

彼は以前、また別の友人グループたちと潜入したらしいのだが、廃屋の二階奥にある部屋で

《ある恐いもの》

を見つけたのだ、という。

一軒家とはいっても、小ぶりな住宅である。

全員で行っても恐くないということで、上岡さんは更なる追加ルールを提案した。

廃屋には一人ずつで入り、二階の部屋にある《それ》を見て、戻ってくるというものだ。

最後の一人が終わる時点まで《それ》の正体は伏せ、全員で答え合わせをする。

答えが違うやつは、実際には行かずに戻ってきた臆病者だと判るじゃないか、と。

全員はその提案に乗った。

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放課後、例の一軒家の前に集合した。

真夜中ではないとはいえ、傾きかけた陽の中に佇む、薄汚れた廃屋の雰囲気は充分であった。

上岡さんは二回目ともあり物怖じせず、さっさと一人で入っていく。

そして、すぐに戻ってきた。

《まだ、あったぞ。早くみてこい》

と意味深に笑う。

二人目、三人目と続き、秋山さんは最後。

他の三人とも、自分の番が終わってしまえば調子のよいもので

《確かにあった》《あれのことだよな》

と言い合って笑っている。

秋山さんは意を決して侵入。

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薄暗く、カビ臭い廊下を進む。

あらゆる死角や隙間から、視線を感じた。

軋む階段をのぼり、二階奥の部屋を目指す。

扉を開け部屋に入っても、それらしきものは見当たらない。

照明の傘やカーテンすら撤去され、がらんと片付いている。

他の三人で口裏を合わせ、自分だけ担がれたのではないか、と疑い始める中、少しだけ開いているクローゼットが視界に入った。

何者かがじっと見ている気配は、そこから最も強く感じた。

覗くのは恐ろしかったが、ほかに何も見当たらない。

秋山さんはクローゼットを開けた。

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あった。

《恐いもの》

はオバケなどではない。秋山さんはむしろ拍子抜けしてしまった。

しかし確かに存在した

《それ》

を目に焼き付け、戻った。

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秋山さんたちは、せえの、で見つけたものを同時に口にする。

《首吊りのロープ》

と、全員が答えた。

全員がドローという結果に落ち着いたのだが、上岡さんの

《あれは死体の重みでちぎれたんだろうな》

という一言で、雲行きがあやしくなる。

話をしていくうちに、食い違う点があると判った。

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まず上岡さんは、部屋の中央で上部からちぎれ、床に落ちたような状態のロープを見ていた。一度目に発見したものと同じだという。

二人目は、ドアノブにかかったロープを見ている。輪の部分が床にだらりと流れていた。

三人目は、窓際。西陽に照らされ、カーテンレールに垂れ下がるロープを見ていた。

秋山さんも、クローゼットの中で先端が輪状に結ばれた縄を見つけたときは、そのあまりの禍々しさに

《上岡の言ってたのは、これだ》

と確信できたのだ。見間違いのはずがない。

《もう一度確かめる》

と上岡さん。

今度は四人全員で二階の部屋へ向かう。

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ロープはなかった。

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誰の言っている場所にも、部屋のどこにも。

そんなものは初めから存在しなかったかのように、消え失せていたのである。

四人とも、全速力でその場を離れたのは言うまでもない。

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一家心中の噂だが

《一家が何人であったか》

《どのようで方法で心中に至ったのか》

《部屋のどこで発見されたのか》

は判らない。

調べる気もないという。

Concrete
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