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短編1
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風呂に関する短い話 九

十五年ほど前のこと。

恭平さんは自宅でテレビを観ていた。

ある番組が地方の温泉を紹介していたのだが、出演者が湯に浸かる際、同じ浴槽に

《うつぶせになった人間》

が浮いていることに気がついた。

どうやら、男であるらしい。

理由が判らず恭平さんは画面を注視したが、出演者は誰もそのことに触れず、景観の素晴らしさや温泉の効能について喋っている。

うつぶせの男は、呼吸をしていないような状態のまま出演者とともに画面に映り続けた。

肥満体。血管の浮いた肌が異様に青白い。

髪の毛が海草のように、ゆらゆら動いている。

確かな質感、存在感があり《幽霊》という感じでもなかったそうだ。

出演者が動くと波紋が生まれ、男もそれに合わせて少しだけ揺らいだり、向きが変わったりするが、顔は見えない。

三分ほどの場面が終わるまで、ついぞ男が顔を上げることはなかった。

一度だけ、タレントが足先で触れたにもかかわらず。

当時はインターネットなどで検索をかけても、同番組のこの場面の異常さを指摘するような動きはなかったという。録画などもしておらず、再度確かめることができない。

あれを観たのは自分だけであるのか、気になっているそうだ。

現在は放送が終了しているが、定期的に特番構成で復活する超人気旅番組である。

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