亜沙美さんは新古書店のチェーンでアルバイトをしているのだが、ときたま買い取り希望で持ち込まれる商品に不気味なものがある。
二〇〇四年に刊行されている、ある子供向けの《怖い話の本》なのだが、一年で二十冊以上は同商品が持ち込まれた。
持ち込むのはすべて、共通項のない別人たちである。
単なる評価の低い本だと考えることはできるが。
ひとつだけ、判らないこと。
本の最後のページ、奥付の部分に
《さがむらみよこがしにますように》
と、印刷ではないたどたどしい文字で書かれている。
同じような筆跡で、赤色の筆記用具で。
その本に限り、すべてにである。
恐らく人名であり、その死を願っているようだ。
収録された怪談には《さがむらみよこ》が登場するものはなく、また本の制作者にもその名はない。
書き込みのある本は売買できないが、どんな状態であろうと買い取り拒否はせず無料で引き取り、処分品にする決まりである。
今日も続々とその本は持ち込まれ続け、むしろその数は増えていっている気がするという。
作者退会会員