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短編2
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母が亡くなったときの話

卓治さんの母が亡くなったときの話。

《母が事故に遭った》という警察の報せがあり、ただちに病院へ搬送されるも三日ほどで還らぬ人となってしまった。

やがて葬儀が済み事故の検分も終了したのだが、母が持っていたはずの携帯電話が発見されなかった。

当時の卓治さんは、自分の携帯電話から母へ発信をしてみたという。

何度目かの呼び出し音のあと。

音が途切れ、応答する者がいた。

しかし、一言もしゃべらない。

卓治さんは落ち着いて会話をこころみたが、数秒間の沈黙のあと、一方的に通信は切れた。

応答した者は、使用可能な状態の電話機を持ち去ったか、あるいはどこかへ放置したのかもしれない。

契約会社に相談し、位置情報の特定を試みると。

件の、事故現場であった。

母の携帯電話は、いまだにそこに存在することになっていたのである。

卓治さんはそれからも、思い出すたびに何度か発信をしてみた。

呼び出し音が鳴り、応答する者がいる。

会話が成立しないまま、通信が切れる。

その不毛な繰り返しが続いた。

事故発生から五年間ほど経過した現在は繋がる頻度がぐっと減ってしまったらしいが、それでもまれに応答はあるという。

一般に普及している携帯電話。充電もせずにどの程度使用できるのだろうか。

また母以外の名乗り出ぬ持ち主が居たとして、その人物はなぜその事故現場から動かないのだろうか。

いまだに電話機は見つかっていない。

ちなみに母の事故というのは《海難事故》である。

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