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中編3
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原稿用紙怪談

『窮鼠』

ある夜、通い猫が煩く鳴くので玄関に出てみると、猫は玲子を誇らしげに見上げた。

揃えた前足の前には、喉を食い破られた鼠が一匹、痙攣しながら灯りに照らされ横たわっていた。

「あら、捕まえてくれたの。助かるわ。これからもよろしくね」

猫はやはり誇らしげに一声鳴いて、美味そうに鰹節を平らげた。

次の日の夜、猫は玄関で息絶えていた。食い破られた喉から、赤黒い血がタラタラと流れていた。

その夜から、天井裏や壁の中をトタトタと走る足音が聞こえるようになった。時には、夢うつつの時間に耳元で「チュッ」と嘲るような鳴き声がすることもある。カーペットの端や布団の隅が齧られてボロボロになり、まるで玲子に迫ってくるようだった。

どうやら猫のみならず、玲子も恨まれてしまったらしい。

「窮鼠猫を噛むとはいうけれど」

玲子は微笑む。

「私は猫より手強いけれど、どうするつもりかしら」

部屋のどこかで、「チュッ」と勇ましい返事がした。

(395文字)

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『バレンタインデー』

僕の左目は、奇妙なものを映す。

ある朝目覚めると、目の前に女の顔が浮いていた。知らない顔ではない。大学のクラスメイトだ。

寝ぼけて目の前の現象に頭がついていかない僕に、彼女はニコリと微笑んだ。

「キタさんにプレゼントです」

しかしそのプレゼントとやらは見えない。今は顔しかないので差し出せないんだな、と僕は妙に冷静に考える。

「よかったら、どうぞ。もちろんお返しは結構ですよ」

彼女はそれだけ言うと、スッと消えた。

僕は左目を前髪で隠し、見慣れた天井だけが右目に映るのを確認してから、二度寝した。

二度寝から目覚め、変な夢を見たなぁとぼやく僕の目に、こたつの上の小箱が飛び込んできた。リボンをセンスよく結んだソレを見て、僕は固まった。あれは夢じゃなかったのか?

小箱は確かに実体を持ち、右目にはっきりと映った。中には手作りと思われるクッキーが入っていて、「お返し」という彼女の言葉を思い出し、僕をますます困惑させた。

(399文字)

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『梅にメジロ』

庭の掃除をしていると、突然「バン!」と音がした。何事かと音のした方へ向かうと、窓ガラスにメジロが激突したようで、地に落ちてピクピクと痙攣していた。

脳震盪を起こしているなら動かさないほうがいいだろうと、しばらく近くで見守っていたが動く気配はない。そっと手に持つと、まだ温みはあったが生死の判断はつかず、一先ず庭の梅の木の下に寝かせておいた。

一時間後に様子を見ると、メジロはすっかり硬く冷たくなっていたので、そのまま梅の下に埋めてやった。

作業を終えて木を見上げる。すっかり年老いてしまったこの梅は、もう如月に入るというのに蕾の一つも見当たらない、寂れた木だった。

そのはずなのだが。

月が開けたある晴れた日、賑やかさに庭に出てみて目を疑った。

梅は雪が降ったように白い花を満開にし、暖かい空気の中には清らかな香りが漂っていた。

そして、何羽ものメジロが忙しそうに囀りながら、枝々を渡って遊んでいたのだった。

(397文字)

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『籠の鳥』

朝、籠の中で文ちゃんが死んでいた。

昼間外に出たら怒られるから、夜アパートの花壇に埋めた。

何度も謝った。文ちゃんの白い羽が薄桃色の嘴が小さな体が、土に覆われていくのを見て涙が出た。

これで私はひとりぼっちだ。

パパは「ペットには自分のメシを分けてやるもんだ」って言ってた。私はそうしなかったから、パパが帰ったらきっと怒られる。

文ちゃんの姿が見えなくなってから、私は倒れこんだ。

あげたくても、もう食べるものはなかった。パパが一ヶ月前に買ってきた食べ物はとっくに空っぽだ。パパはそれ以来帰ってこない。

でもそれは言い訳だと、パパは私を叩くだろうな。

土が気持ちいい。もう動けない。

その時、土の下から声が聞こえた。

「しぬよ」

それは文ちゃんの囀りに似ていた。

「とばなきゃしぬよ」

でも私、文ちゃんみたいに飛べないよ。

「とばなきゃしぬよ」

…そうかもね。でも今は、このまま眠りたい。起きたら頑張るよ。

そして私は目を閉じた。

(399文字)

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@黒木露火さん
読んでくださりコメントもありがとうございます。
キレがある、とのお言葉、飛び上がるほど嬉しいです。これからもこんな感じの書き散らしを上げていくかと思いますが、もしよろしければまたお付き合いください。

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なんだか、いろんな話がたくさん読めて、嬉しいやらもったいないやら。
ある程度長いものもよいですが、短い話はキレが冴えて、また良いものですね。
ありがとうございます。

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