私とNが出会ったのは場末の居酒屋だった
Nも私もお互い独り身で年齢が近いこともあって、飲み屋のママを交えて話すうちに仲良くなった
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「昨日は3万も負けちまってさー、やっぱ4パチなんて打つもんじゃねーな、趣味でやるなら1パチだよ1パチ」
今日もNはパチンコの話でくだを巻く
私も一緒に行ったりするがいつも負けている気がする
「まあまあ…、それより前に聞かせてくれた話の続きを聞かせてくれよ」
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「話?あー、三ノ原でバイトしてた時の話か」
「それそれ、やっぱり箱の中は死体が入ってたんだろ?お前実ははっきり見えたんだろ」
前回この飲み屋であった時聞かせてもらった
田舎の村の謎の儀式?みたいなものに私は興味があった
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「ああーたしかに見たよ。"死体"は"死体"だったよ」
「なんだか煮えきらんな?」
「うーん、明日も休みだし、まあいいか話すと長くなるぞ…」
なにかNに少し陰が差したのが気になったが、もちろん話をしてもらった
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NはYさんとサンプルを取りに戻った時、不思議と嫌な感じはもうしなかったそうだ。
古屋の前のベンツも消えていた。
安心させるためかYさんが覗きに行き「ほら何もないぞ」振り返りながら言った。
Nも見てみたが確かに痕跡の一つすらなかった。
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もちろんNはYさんに前に言われていたことが気になって
「あのとき不幸だなって言ったのはこのことだったんですか?」
「……そうだな」
「一体あれは何をしていたんです?先に言ってくれれば見になんて行かなかったのに…」
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「お前、三ノ原に住む気あるか?」
「ええっ、嫌ですよ。そりゃ」
「なら、話せんな」
Nはこのとき、Yさんは言葉は頑なだけど実は話してしまいたい気持ちがあるんじゃないかと察した
本当に隠し通したいなら「不幸だな」なんてあのとき言う必要はなかったはずだと
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結局、YさんはNに押し切られた
ただし、と念を押して
「お前、怖くなって仕事辞めるなよ。バイトから正社員に上げるならお前だってオレも社長も思ってんだからな」
Nは肩透かしを食らったように感じた
少なくとも他言無用で話したら殺す、くらいは言われると思っていたのだ
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「なあに、三ノ原のヤツならみんな知ってることだしな」
「オレの心配はかわいい後輩が消えちまわないかってことだけさ」
Yさんはそう言うと少し照れてはにかんだ
(はにかむな)
そして、あの時見たモノのことを語ってくれた
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その儀式は『受肉』とか『伝え』とか呼ばれているらしい
特に正式な名前は無く、儀式で起こることがそのまま名前になっているのだ
星辰列合 僧唱空躁 銀肢奏相 思駆銀声
Yさんはいきなり経のようなものを詠んだ
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「この経文はほんの一部だ。しかし要約するとこれが全てだ。」
つまり、"ちゃんとした日付"に"坊さんが秘密の経文を詠み"、"屍肉に故人を取り憑かせ"ると"故人の記憶を『語らせる』"ことができるらしい
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「僕が見たのはその場面ってことですか!」
「そうだ、その真っ最中だろうな」
Nはそんなバカなことがあるはずがない、と強い嫌悪感を感じた
「故人を乗り移させる"屍肉"ってのはなんなんです!まさか人間なんですか?」
「バカ、お前、人間なんか使うかよ。ニワトリかなんかだろ」
「そっか、お前、オレが死体の臭いの話したからその話に引きずられてんだろ、悪かったよビビらせようとしただけだよ」
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このあたりは山を持ってる地主が多くてな、財産を山のどっかに埋めたままポックリいっちまうこともよくあることなのさ
そこで困るのが相続人だ。山のどっかに一財産あるかもと思ったら、山ごと売っぱらうのも気が引ける
だから、故人に聞いちまおうってことよ
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「…本当に故人が乗り移ってしゃべるんですか?」
Nが恐る恐る聞くと、ひといき間が空いてYさんは笑い出した
「ガハハハハ!そんなわけあるかニワトリって言ったろう、知らないんだな、腐った肉はガスが出るんだ。ガスがニワトリの喉を通るとどうなる?」
「……あっ、そのガスでニワトリが鳴くのか」
「そういうことだよ、ハハハ」
Yさんはちょっと涙が出るくらい笑ってたらしい
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「結局、おまじないさ、ニワトリの死骸だって腐っているから鳴くことの方が少ないらしい。鳴いたら鳴いたで坊さんがお宝の方角なんかを占うらしい。」
Nは話はこれでおしまい、といった風に私に言った
「えっ、それでおしまい?」
「そう、おしまいおしまい」
私のせめてもの抵抗は軽く流された
(つらい)
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「長くなるってお前が言ったんだろうがー、本当のこと言えよー」
私がふざけ混じりに言うとNの顔色が変わった。
途中まではホント、途中からはウソ
いや、オレを巻き込まないように言わなかった。てのが正しいのかな?
友達がいのあるヤツだ。お節介しがいがあるよ。
助けてやろう。
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私は頭の中でNの話を逆再生して考察した
①坊さんが最終的に占うなら最初からそうしろ
②ニワトリを使うというのは最初にYが言ったときには確定していなかった。(後付でNがニワトリを使った儀式という印象にしたかった?)
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③故人に語らせるための『受肉』なら
"人間の声帯"を使わなきゃダメじゃないか
Nはいいヤツだ。だからこそ、話しづらいだろうが話してもらおう
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shake
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だってさ、俺、霊感ってほどじゃないけど
見えてるんだよ
お前の背中から"生えてる"パースの狂った赤ん坊がこっち睨んでんのをさ
作者春原 計都
三ノ原の2本目の話です
結構最近の話