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中編3
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原稿用紙怪談・二

『イマジナリーフレンド』

イマジナリーフレンドとは幼児期特有の幻覚で、多くは大人になると消えてしまうという。

ある日の学食で、隣の席の学生が「俺、イマジナリーフレンドいたんだ」と友人に話しかけていた。

つい、関係ない僕とオイちゃんも話に聞き入ってしまう。

「ナベちゃんって、なぜか鍋被った猫でさ。俺が一人の時に、オカンのお菓子の隠し場所とか兄貴の宝物とか、教えてくれたんだよな」

「それもういないの?」

「うん、気づいたらいなくなってた。俺、想像力豊かだったんだな」

彼らは笑いながら席を立ち、学食を出ていく。

オイちゃんがその変哲ない後ろ姿にブハッと吹き出したので、僕も左目で彼を見てみた。

彼の頭には、なぜか古びた鍋が乗っていた。

視線に気づいた鍋は、ギロリと僕らを睨んだ。どこが目かはわからなかったけれど。

「イマジナリーフレンド?」

「どっちかつーと、守護霊?」

「鍋が?」

その後しばらく、文句あるかとばかりの鍋に、会う度に睨まれたのだった。

(400文字)

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『親友』

自分にしか見えない友達というのが僕にもいた。

猫の形をした障子の破れ目から生まれた彼女を、僕は「ショアナちゃん」と呼んでいた。

ショアナは、当時弟が生まれたばかりでナーバスになっていた僕を慰めてくれた。障子出身らしくペラペラの影のような姿だったが、独り寝を嫌がる僕の布団に潜り込む時には、温かく柔らかい毛並みで安心させてくれた。

両親の愛情を奪った弟が憎いと思えば、その小さな顔の上で丸まって居眠りをした。赤子を亡くし茫然自失で、僕に見向きもしなくなった母が嫌いだと泣けば、階段上で母を躓かせた。自棄になった父が僕を殴った夜には、ストーブをひっくり返し僕だけを助けてくれた。

その後僕は施設に入ったが、勿論ショアナも一緒だった。施設生活は辛いことも多かったが、彼女のおかげで乗り切れた。

大人になった今、ショアナの姿はもう見えない。でも、困難にぶつかった時には、今でも彼女の存在を強く感じる。

彼女は僕の親友だ。

(400文字)

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『鬼を秘す』

母は六十歳で、若年性認知症と診断された。

結婚したての妻が、母の事であれこれ動いてくれた。常に丁寧に声をかけ、何を言われても怒らなかった。

昔を思い現状に苛立つばかりの私とは雲泥の差だ。

私達の子供が一歳になる頃にはもはや一人暮らしは難しく、同居になった。失禁や徘徊をするようになっていた。

私もできる限りはしたが、妻との負担の差は傍目にも明らかだった。

あの夜、寝ていた私を妻が揺り起こした。

「また、いないの」

「探す?」

妻の目は爛々とし、笑みさえ浮かべているようだった。

戦慄しながら私は、問答に負けた相手を食らう鬼の話を思い出した。

母は近所の側溝で遺体で見つかった。

発見時も葬儀でも、妻は泣いていた。その涙にも、生前の母を世話してくれた姿にも、きっと嘘はない。

一方で妻は、自身も気づいていないかもしれない鬼を、心の中に隠していた。

そしてその鬼は、あの日外に飛び出さず妻を抱いた私の中にも、確かに存在するのだ。

(400文字)

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『煙に巻く』

最近元気のない村田が、気になる子がいると白状した。

恋煩いかと茶化すと

「名前は知らん。授業中とか学食でよく目が合うんだ。髪が長くて白い服着てて、存在感が薄いのかな、晴れた日は透けて見えることもある。でも可愛いんだ」

返答に困ったが、後輩の坂本は

「それヤバくね?」

あっさりそう言った。

若白髪で老け顔なのにイケメンという、ムカつく奴だ。

「そんな怪しいのより、一年の春ちゃんが格好いいって言ってましたよ」

坂本はふてぶてしく言うと、あろうことか手にした煙草の煙を俺たちに吹きかけた。

「てめぇ!」

狭い部室内を数周鬼ごっこし

「じゃ」

と坂本は退室した。

文句を言いながら村田に向き直り、思わず二度見する。

顔洗った? と訊きたくなるくらいスッキリした表情だ。

「春ちゃんが…」

ニヤニヤするな。さっきの話はどうした。

心なしか重苦しかった空気も霧散していた。

坂本が撒き散らした煙草の煙だけが、妙に清廉な香りと共に空中に漂っていた。

(400文字)

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@Nezumikoさん
読んでいただき、嬉しいコメントもありがとうございます。
応援していただきとても嬉しいです。これからもよろしくお願いします。

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カイトさんの怪談。短くても温もりがあって、とても好きです。あやしいはなし、あやしのはなし。ご活躍のほど、応援しております。

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秘すの言霊に引き寄せられました(*´ω`)イイデスネ響きが…

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