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中編4
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コーヒーカップ

古い遊園地にはよくあった乗り物、コーヒーカップ。

最近は遊園地自体がめっきり数を減らしてしまったこともあって、ご存じない方も多いのかもしれない。

丸いトレーの上にコーヒーカップを並べたような形状で、お客さんはそのコーヒーカップに乗り込む。

動き出すとトレーが回転し、さらにその上のコーヒーカップもランダムに回るというアトラクションだ。

乗り物酔いしやすい人などにはあまりお勧めできない代物となっている。

僕は某遊園地に出かけたとき、久々にそのコーヒーカップを見つけた。

けっこう流行っているようで、カップルや親子連れなんかでなかなか賑わっている。

つい懐かしくてしばらくぼーっと眺めちゃったんだけど、そのうち何巡目かに変な親子が乗り込んできた。

変っていうのは僕のセンスが合わないだけなのかもしれないけど、とにかくなんか姿が普通じゃなかったんだよ。

赤と白のストライプ柄のぴっちりしたシャツに、銀色のロングスカートを穿いた母親と、緑の全身タイツみたいなのを着た子供。

二人ともやたら派手な黄色い髪色で、母親の方は頭のてっぺんにお団子でまとめた髪型だったかな。

そして何より異様だったのが、首がやたらと細長いってこと。

それなりに周りにも人がいたのに、意外とそういうのって誰も気に留めないものなんだよね。

でも僕はそれが何故かやたら気になっちゃって。

喩えるなら何と言うか、よくわからん前衛アートから飛び出してきた人みたいな、いわゆる奇妙な不気味さってやつだったな。

それでその親子も普通にコーヒーカップに乗っかって、子供はこう、逆向きに座ってカップの縁に手をかけるような形になって。

そのままブザーが鳴って回り出したんだ。

僕は何となくその親子を目で追ってたんだけど、ずっと見てると何か違和感を感じたんだ。

トレーが回る、カップも回る。

でもよく見ると、それに乗ってるその親子の首までぐるぐる回ってるんだよ。

しかも周りの乗客たちみたいに楽しそうに笑ってるっていうよりは、何かこう無機質にケラケラケラっていう感じの笑い方。

何ていうか、まるで機械なんじゃないかと思うような異質さ。

おいおい誰も気が付かないのかって、そのときは本当に背中がサァーってなるような変な孤独感を味わったよ。

そんなものをまさか僕だけが見たってのも何か薄ら寒いし、人に説明してもどうせ伝わらないんだろうと思ったから、そのとき咄嗟にスマホで動画撮影しておいたんだ。

コーヒーカップが終わると、その親子は普通にスタスタとどこかへ行ってしまった。

僕はそのあと普通に娘を連れて一日遊園地を満喫したわけなんだけど、結局その親子にはそれっきり会うことはなかったんだ。

つまりこれから見せるのはそのときに撮った動画ってわけなんだが。

僕も撮ってから初めて再生するんだけど、あの奇妙さは思い出しただけでも何だか鳥肌が立ってくるよ。

じゃあ再生。

慌てて撮り始めたから最初は手振れがひどいけど……ほらこれだよこれ、って。

えっ!?

見ると回転するコーヒーカップの中で、二つの首がずっとこちらを向いている。

うわ、何だこれ!

僕たちは凍り付いた。

カメラはずっとその親子を追っているので目が合いっぱなしだ。

しかも何かこちらに向かってぼそぼそと言っているようにも見える。

その瞬間、勝手にみるみる音量が上がりものすごい速さのお経のような不気味な声が爆音で鳴り響く。

うわああぁぁ!

何度押しても停止ボタンが効かない。音量も下がらない。

そして何故か画面から目が離せない。

これは、やばいかも。

視界がビビッドカラーになっていく。

やがてバツンッと真っ暗になった。

気が付くと僕は自分のベッドにいた。

夢だったのだろうか、妙に気分が悪い。

今何時だろう。

時計を見ると、昼過ぎ。

あれ?

時計の針がぐるぐると回り出す。

何だこれ。

視界そのものが回り出し、ビビッドカラーに染まっていく。

ただいまー!

出かけていたらしい妻の声でふと我に返る。

何だったんだろう……あの変な夢のフラッシュバックなのか。

いや、あれは本当に夢だったか?

妻が買ってきてくれたコーラでも飲むか。

ふとペットボトルの蓋を見た瞬間、またそれがぐるぐると回り出す。

おいおい何なんだよこれ。

またぎらぎらと色が濃くなり目が回る。おかしい。

僕は思いっきり首を横に振り、何とか正常に戻す。

ちょっと外の空気でも吸おう。

家を出て散歩中、ふと路駐してあった車に目が留まる。

なかなか渋いクラシックカー。

しかしそのタイヤを見た瞬間、またぐるぐる回り出し、あの変な発作が起こる。

自分で頬をぱんぱんぱんと叩き、正気に戻る。

完全に変だ。

僕はあのとき一緒に動画を見てたやつに電話してみる。

しかし彼はそんな動画を見た覚えはないという。

やはり夢だったんだろうか。一応そのときのことを一部始終説明してみる。

するとしばらく沈黙したあと、おまえ遊園地でその変な家族に本当に会ったのか?と急に声色が変わる。

あれはこの世のものじゃない。悪いことは言わんから今すぐお祓いに行ってこいと言う。

その言葉にすがるように僕はその足でお祓いに行った。

住職からは、回るものを見たり意識したりすることをしばらくは避けなさいと言われた。

だから僕の家にはアナログ時計が一切ない。

スクリューキャップの食品は買わないし、車が通ると今でも目を逸らすんだ。

Concrete
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