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中編4
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飛び降りの影

部屋を借りるときにはよくよく気を付けた方が良い。

油断していると本当に後悔することになるから。

あれはまだ大学に通っていた頃。

その日はバイト終わりで自宅に帰るところだった。

自宅があるマンションは、こんな田舎にしては珍しい13階建て。

駐輪場で自転車を降りてエントランスに向かう前に、なんか気配がしてふと上を見たんだ。

そしたら屋上の縁のところに、今にも飛び降りそうになってる人影を見つけちゃったんだよ。

ヤバい!

こんな時に限って周りに人もいないし、一体どうしたらいいんだ!?

急な出来事で軽くパニックになるも、とにかくその人影から目を離さないようにした。

最初は太陽の逆光でよく見えなかったけど、しばらくしてちょうど日差しが雲に隠れたんだ。

その人影はどうやら女性のようなんだけど、このとき何となく微妙に変というか、違和感があることに気が付いた。

まるで上体が宙に浮くように、屋上の縁から斜めに立っている。

え?もう飛び降りてる!?

しかし奇妙なことにその女性は縁に足を置いたまま、明らかに斜めの状態で止まっている。

その奇妙な光景に一瞬寒気が走り、そこに緊張感が入り混じって変な汗が出てくる。

目を離しちゃいけない気がする。とにかく大声で、危ないですよ!なんて叫んでみるが、何の反応もない。

助けを呼ばなきゃと思い、スマホを取り出し警察に電話しようと、一瞬目がスマホを見た瞬間……

どちゃ!

すごい音だった。

まだ蝉が鳴くような蒸し暑さの中なのに、背中はもはや真冬並みに凍り付いている。

落ちたと思われる場所が植え込みの向こうだったおかげで、生々しいものが見えなくてまだ助かった。

震える指でなんとか警察に連絡して、すぐに駆けつけてもらえることになった。

相変わらず周りに人気はない。こういうとき田舎は本当に困る。

しばらくして警官が到着。落ちるところを見てはいないものの、たぶんあの辺りですと説明する。

現場を見に行く警官。しかしすぐに戻ってきて、意外なことを言われる。

何もありませんよ?と。

そんなはずはない。確かに屋上の縁に女性が立っていて、目を離した隙にそのちょうど真下のあたりから落下音のようなものを聞いた。

動転気味の説明も虚しく、ないものはないと諭されてしまう。

恐る恐る警官と一緒に現場を見に行く。確かに何もない。

落ちたと思われる足元に何かが潰れたような古いシミみたいなものはあるが、それでは説明にならない。

おかしいな、確かにあそこから……と上を見た瞬間。

手遅れ。

耳元で声がしたかと思うと、もはやこの世のものとは思えないすごい形相をした女性の顔が目の前まで落ちてくる。

ぎゃあああああー!

腰が抜けてその場にぶっ倒れて、振り払うように思いっきりバタバタと暴れる。

横にいた警官にすぐに制されて、しばらくしてようやく落ち着きを取り戻した。

この世のものではなかったのか。警官の話では、急に一人で叫んで倒れて暴れていたんだそうだ。

とにかく事実上は何事もなかった以上、警官にはよくよく謝っておいた。病院に行った方が良いと真剣に勧められたよ。

でももちろん病院なんかじゃなく、とにかくまずはお祓いだろうと。

もうどうしようもなく疲れてて怠かったけど、気合でその日のうちにちゃんと済ませた。

夜になって自宅にいると、ふとカーテンの隙間が気になった。

窓に何か紙のようなものが小さく折りたたまれて挟まってるようだ。

一瞬嫌な予感がしたものの、お祓いしてもらったんだから大丈夫だろうと、その紙を取って広げてみると……

見ててって言ったのに。

真っ赤な文字で歪な走り書き。紙から出てきた長い髪の毛がバラバラと落ちる。

うわあああ!

紙を投げ捨ててまた腰を抜かす。もうダメだ。

その瞬間、窓も開いてないのにカーテンが風でふわりとめくれる。

見ると窓のすぐ外に逆さまの女性が、昼間にも増してすごい形相でこちらを見ている。

恐怖のあまり訳も分からず足が勝手に動いて、気が付いたら靴も履かずに一目散にマンションから脱出していた。

とても自宅になんか戻れない。仕方なくその日は大学の友人に連絡を取り、快く泊めてもらえたのが幸いだった。

翌日、友人とも相談してもう一度除霊師のところへ。ことの顛末を話すと、それはあなた自身ではなく部屋とマンション自体をお祓いしなければならないと言われた。

入居前には事故物件についてちゃんと確認したのに、あのときそれらしい話がまったく聞けなかったことが今となっては不可解だった。

とにかくすぐに除霊師にお願いしてマンションに来てもらい、部屋にもお札やら盛り塩やらいろいろと増えた。

それから不動産屋にも状況を説明して、どういうことなのか改めて聞いてみた。するとこんな返答が。

実は以前この部屋に住んでいた女性が、マンションの屋上から飛び降り自殺したのだと。部屋からは遺書も見つかり、ちょうど窓のところに立てかけるように置いてあったそうだ。

ただ通常は部屋そのものが現場でなければ事故物件扱いにはならず、この件に関しては説明不足で申し訳なかったということだった。

まあそう言われても今更なんだよな……確かに事故物件じゃないと聞いたことで油断して、入居時に窓のところに貼ってあった謎のお札みたいなのを剥がしちゃったのも悪かったんだろうけど。

除霊師の人にはお祓いやら何やらいろいろしてもらったのに申し訳ないけど、身軽な学生の一人暮らしだったしすぐに引っ越すことにした。

次からはそこまで確認しとかないとなってことで、このときばかりはほんと良い勉強になったよ。

Concrete
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