「もうダメだ......俺はなんの為に生きているのかわからない......」
沢辺 悠馬(17)高校2年 現在進行形でイジメという青春を謳歌中
そして今まさに学校の屋上から身を投げだそうとしている。
あと一歩......あと一歩の所で踏みとどまる。「あ~無理だ......この一歩を踏み出す勇気が俺にない」
これで何度目だろうか。いつも身を投げ出すことができない。
つくづく自分に嫌気がさす。帰ろう......
「今日は......よし!靴には何も入れられてない」
毎日こんな感じで一喜一憂する日々を迎えていた。
「さすがのアイツらも終業式の日にはしないか」
家に帰り、ふと「楽に死ねる方法を調べてみよう」と思った。
俺はPCを取り出した。久しぶりに使用したので画面やキーボードには埃がかぶってた。
除菌シートで多少綺麗にするとPCの電源を入れた。
「えっと~楽に死ねる方法っと.....」
やはりポピュラーなものばかり。首吊りは上手くいけば一瞬で落ちるが失敗したらかなり苦しみながら死ぬらしい。
飛び降り、電車への飛び出し、リストカット、「怖くてできない......」
睡眠薬の多量服用、これは楽そうと思ったが、致死量までにはかなりの量が必要らしい。
手に入れるのも難しいし、恐らく飲んでる途中で普通に寝てしまう。
そこで気になるサイトを見つけた。「自殺村......?」
そこには遊園地のマスコットのようなかわいいクマのキャラが背景に、文字も少し歪んだゆるい感じのフォントが使われ、(理由問わず安楽死したい人大募集!)と書かれていた。
「絶対なにかのネタで作っただろ」っと思ったが、確かに海外の一部では安楽死を幇助する団体もあると何かで見たことがある。しかし人の死のことだ。審査も厳しいらしい。俺みたいなイジメごときではまず通らない。
「......」
「この自殺村って......いやいやバカらしい!」っとPCを閉じようとしたが、もしかしらという気持ちもあってエントリーしてしまった。
次の日に登録した電話番号に電話が掛かってきた。「知らない番号だな......もしかして」と思い電話に出る。
「もしもし」
「あっもしもし!沢辺悠馬さんですか?」
「はい」
「こちら自殺村です!エントリーして頂きありがとうございます!」
恐らく驚くところではあるんだろうが、相手の声がまるでヒーローショーのアナウンスのような元気でハキハキとした女性の声だったのでこちらも緊張感がまるでない。
「あっ......え~と......」
「あっ自殺希望という事なので一度こちらの方にお越し頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
時間が空けば決意が鈍りそうなので俺は
「じゃあ今からでも大丈夫ですか?」
「はい!大丈夫ですよ!では住所の方お伝えしますね!」
俺が住所を控え終わると
「ではお待ちしております!」
電話が切れた。
俺は早速準備をし、親にバレないようにこっそりと家を出た。
電車とバスを使い1時間ぐらい経過し、かなりの田舎に着いた。
地図を見てみるとここから徒歩でしか行けない。
仕方なく俺は歩いて目的地に向かうことにした。
そこから1時間ぐらいしてようやく集落のような場所にたどり着いた。
入口の看板には消えかかった字で(自殺村)と書かれている。
「こんな何もない山奥に人が住んでたのか......」
入口で茫然と立ち尽くしていると、
「もしかして沢辺さんですか?」
後方で声がする
見た目は20代半ば~後半ぐらいで髪は黒髪のセミロング、黒いパーカーにジーンズ姿とラフな格好だ。
とてもこの村のイメージに合わない。
「はい。もしかして電話で話した人ですか?」
「はい!夜川と申します!」
相変わらずヒーローショーのアナウンスのような元気な声だ。このうす暗い村にこの声......ギャップがすごい。
「本日はエントリー頂きありがとうございます!」
俺の死んだような目とは裏腹に輝かしい目でこっちを見て彼女は言った。
「あの、ここって本当に安楽死ができるんですか?」
「はい!こちらから理由は尋ねることなく簡単にできちゃいますよ!」
ノリが軽いな......人命だぞ......まぁどうでもいいか......
「では実行はいつにしますか?」
一瞬背筋がゾクッとなった。
そうか......俺は今死のうとしてるんだ。この人が明るすぎていて実感がなかったんだ。
そしてここでは安楽死のことを(実行)と呼んでるようだ。
いや、ここで怯んだらダメだ。またいつもの日常に戻ってしまう。
「今すぐお願いします!」
「はい!かしこまりました!」
満面の笑みで彼女は答えた。
「ではこちらの方へ!ご案内します!」
薄暗い集落のような村に入り、蔵のようなボロい家がぽつぽつとあるが人の気配はない。
すると一つの蔵を彼女が指差し、「ここで行います!」っと言った。
中に入ると、外観から見たボロい感じとは裏腹に中は埃1つ落ちてないような床、本棚には小説や漫画がぎっしりと入っており、まるでおとぎ話に登場するかのようなベットが置いてある。
「中には実行を躊躇って何日かここで過ごす方もいらっしゃいます。ここは最大で3日間お貸することができます。3日後にもう一度、実行か帰宅かを選んで頂きます。」
「なるほど、帰宅も選べるんですね」
「はい!まぁ帰宅されてからこの村のことを誰かに話されたら困るんですけどね(笑)よくある(この村の記憶だけ消す)って技が使えたらいいんですけどね~(笑)」
俺はここで下手ながらでも愛想笑いをするべきなのか?
「まぁもし話されたらまた村ごと引っ越しですかね!」
(また)ってことは前にもあったのか......今はその事に触れないでおこう。
「では沢辺さんは(今すぐ)が希望のようなのでこちらの方へどうぞ!」
指定されたのは先ほど見たおとぎ話のようなベットだった。
「こちらで横になって頂き安楽薬を腕に点滴します。その後は眠ったように逝くことができますので苦しみ1つありません」
「なるほど、わかりました。」
俺はベットに横になった。とりあえず横にはなったが実はさっきから自分の中で葛藤がある。
本当にこのまま死んでもいいのか......まだ生まれて17年、もしこのまま生きてさえいればいつかは......
そんな事がさっきから頭の中でぐるぐる駆け巡る。
「では点滴しますね!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「?」
「どうかされましたか?」
「あっ、いやっ、心の準備が......」
「わかりました。ではお待ちしております!」
同じだ......屋上から飛び降りるときも、電車に飛び出す時も、いつもこの後一歩で・・・本当に自分は意気地がない。今回は何も痛みなど感じることなく死ねる......そうわかっているのに......なぜ......
「......」
「......どうですか?」
「!?」
「いざ簡単に死ねるとなって実行する瞬間にアナタはなにを思いましたか?」
彼女はさっきまでのへらへらした様子とは打って変わってとても真剣な眼差しでこちらを見つめた。
「そっ......それは......」
彼女は瞳を閉じ肩の力を抜き、首をゆっくりと左右に振りながら言った。
「私の想像ですが、アナタは過去に何度も自殺を試みましたね?」
「......はい。」
「そして何度も失敗して(こんなこともできないのか)と自己嫌悪に陥り、そんな自分を嫌いになり、ますます生きる希望を無くしていった」
まるで自分の心の中が彼女に乗り移り、喋らせてるかのように的確に自分の心情を当てられた。
すると彼女は目を見開き
「それはね、アナタに死ぬ勇気がないんじゃなくて心の奥底では(生きたい)と願ってるからです。
生きて生きて、いつかは周りと同じように笑いあって普通の一般的な日常を心深では願ってからです。」
彼女の真剣な眼差しは力強く説得力があった。
俺は気づけば双眸から涙が溢れ出ていた。初めて(生きたい!生きたい!)と強く感じた。
「あの......やっぱり帰ります......」
「それはダメです!」
「え?」
「今帰ると今までの繰り返しになるだけです。今一時的に生きたいという感情を持ってることに過ぎないので、現実に戻っていつもと同じような生活をすれば、また辛くなって死にたい......でも死ねないという悪循環の繰り返しです。」
「......」
「ここで働いてみませんか?今は恐らく夏休みの期間でしょう?」
「ここで......?」
「はい!アナタと同じような境遇の方を客観的にみれば、多少考え方も変わると思います!」
真剣な眼差しから打って変わって、優しい眼差しで彼女は俺に微笑みながらそう言った。
こうして俺は夏休みの期間ここで働くことになった。
続く
作者ゲル
初めましてゲルです。
今回初投稿になります!
読んでくれたら嬉しいです(/・ω・)/
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