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短編2
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妻からの電話

それは会社を出てから五分ほどしてからのことだ。

突然ライン電話が鳴りだした。

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私は慌ててハンドルを切り、車を路肩に寄せて停車させる。

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改めて携帯の画面を見ると、妻の美紗代からのようだ。

とりあえず応答のボタンを押して返答する。

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「もしもし、、、」

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するとテレビのバラエティー番組の音を背景に、少しテンション高めの妻の声が聴こえてきた。

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「あっ!ごめん もう仕事終わった?

今、大丈夫?」

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美紗代が仕事の後に電話してくることなど、ここ数年なかったことだ。

しかも声の感じもいつもと様子が違うようなので、私は思わず聞き返した。

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「大丈夫だけど、一体どうしたの?」

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「あっ、、、いや、何でもないの

ただ、何時頃帰るのかなあと思って」

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「いや、いつも通り7時過ぎくらいだけど、どうして?」

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「いや、別に、、、

ごめん、ちょっと変なこと聞いていい?」

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「変なこと?何かな?」

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「わたしの銀行のカードの暗証番号なんだけど、何番だったっけ?」

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「は?、、、

暗証番号?、、、

何でそんなこと聞くの?」

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─自分のカードの暗証番号を忘れるなんて、あり得ないだろう

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「ふふふ、、笑っちゃうよね それがさあ、度忘れしたみたいなの」

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「お前さあ、ちょっと、おかしくないか?

普通、そんなこと、忘れるかな?」

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「、、、」

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何故だか息詰まるような沈黙が続く。

どこか訝しく感じた私は「もしもし?」と問いかける。

すると突然、男のような野太い声が耳元で響いた

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「だから、度忘れしたって言ってるだろうが!

つべこべ言わずに早く教えろよな!」

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瞬間、背中に冷たいものが走った

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心拍数が一気に上がる。

私はしばらく沈黙した後、恐る恐る尋ねる。

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「お、お前、、、本当に美紗代なのか?」

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するとまたさっきの女っぽい声が聞こえてきた。

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「ふふふ、、、バカねえ 

わたしに決まってるでしょ 

変なこと聞かないでよ」

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「だったら、生年月日を言ってみろよ」

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「バカねえ、何言ってるの?

つまらないこと聞かないでよ!」

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「良いから、言ってみろよ」

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「、、、ち、ちょっと待って、、、

えーと、えーと、、、あっ、あの、平成、、、」

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電話は、いきなりここで切れた。

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激しい心臓の拍動を喉裏に感じている。

心の中には不安という暗雲が立ち込めていた。

私は急いで車をスタートさせる。

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ハンドルを握る手が、ぐっしょりと汗で濡れていた。

Concrete
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