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中編3
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知らない人

ある男性が体験した話です。

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彼が地元の高校に入学した際、不可解なことがあったそうなんです。

入学式って一人一人名前が呼ばれますよね。出席番号順に名前が呼ばれて、返事をして立ち上がるあれです。

それで彼の名前が上野さんというんですがね、出席番号が2番だったそうです。

当然2番目に呼ばれると思っていたんですが、1番の男子が呼ばれて立ち上がったので準備をしていたら次に呼ばれたのは彼ではなかったそうです。

「イイノ、ナヨコ」

数秒の間、沈黙が流れました。

当たり前ですが、彼の隣には先に呼ばれた男子生徒が1人座っているだけなので誰も立ち上がりません。

不思議に思いましたがすぐに彼の名前が呼ばれたので慌てて返事をして立ち上がったそうです。

その後式は滞りなく進み、上野さんたち新入生は教室に戻ったそうです。

クラスの名簿を見ても、イイノナヨコという名前は見つかりません。

次の日からの教室での出欠確認でもイイノナヨコが呼ばれることはありませんでした。

何かの間違いだったのだろうと気にしないことにしていましたが、彼はまたその名前を目にすることがあったそうです。

ある日彼は電車でイヤホンをつけて動画を見ていたんですが、その動画のコメントにこんなものがあったそうです。

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「飯野奈代子」

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見ていた動画は当時好きだったアーティストのPV。そんなコメントがつく理由は思い当たりませんでした。

普段なら特に気にも留めないのですが、入学式の出来事を思い出してネットで検索してみることにしたそうです。

「飯野奈代子」

特にヒットするものはありませんでした。

次にSNSで検索してみると、いくつか飯野奈代子の名前が見つかりました。

日時も投稿したアカウントもバラバラでしたが、ただ「飯野奈代子」という文字だけが書かれた呟きが約20件ほど投稿されました。

結局、飯野奈代子が誰なのかはわかりませんでしたがそういう人が存在していることはわかりました。

なんとなくモヤモヤした気持ちでいましたが、それも時間が経つにつれて忘れていったそうです。

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でもまた、忘れた頃に彼はその名前を耳にしました。

高校3年生になった彼は、夏風邪をひいて近所の病院を訪れました。

15分ほど待っていると診察室の戸が開き、看護師が顔を覗かせました。

「イイノさーん、イイノナヨコさーん」

ゾォッと背筋に冷たいものを感じました。

いる。飯野奈代子がこの近くに。

でもようやく飯野奈代子の姿を見ることができる。

好奇心と不安を押さえつけて飯野奈代子が立ち上がるのを待ちました。

しかし、入学式の時と同様に彼女が立ち上がることはありませんでした。

「飯野さん?いらっしゃいませんか?」

看護師が繰り返し呼んでも飯野奈代子らしき人物は現れず、結局すぐに別の患者が呼ばれて診察室に入っていきました。

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さらにその数日後、家族と夕飯を食べていると家の固定電話が鳴り出しました。

母親が箸を止めて電話に出ると、何か様子がおかしいようでした。

「はい?……あ、いえ」

「あ、違います」

あ、間違い電話かなって思ったそうです。

「あのー……番号お間違えじゃないですか?」

「いえ、あの、うちはイイノじゃないです」

ブツッ、ツー……ツー……

もう怖くて食べかけの食器を放り出して自分の部屋に戻ってガタガタ震えていたそうです。

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そんなことがあってから彼は外出するのが怖くなって学校を休みがちになってしまったそうです。

でもそれから飯野奈代子の名前を聞くことはなくなったので、なんとか高校を卒業できたそうです。

その後東京の専門学校に行って就職も東京でしたので、職場の近くにアパートを借りて独り暮らしをしていたんですよ。

でも今年の正月にね、彼の部屋に全く知らない人から年賀状が届いたらしいんですよ。同僚に送るために何枚も刷ったような平凡なデザインのものが。

差出人の名前は見覚えのない男性の名前なんですが、送り先が彼の住所と郵便番号なのに宛名だけ違うんです。

「飯野奈代子様」

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彼もう、アパート引き払って仕事も変えることを検討しているそうです。

Concrete
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