※虫の話です。苦手な方はご注意ください。
これは留学にいった某国で現地の友人に聞いた話。
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それは突然だった。
いつもと変わらない通学路で何を考えるでもなく、お気に入りの音楽を聴きながら、地下鉄に乗るとこだった。
「マモナク電車ガ到着イタシマス、黄色イ線ノ内側二サガッテオ待チクダサイ」
限りなく無機質だ。
今ここにいる誰がいなくなったって、だれも気にすることなく、満杯の人を運んできた電車がホームに到着すれば、またその空いたスペースを満たしていく。
そうしていったい俺たちはどこにいくんだ。
まっ学校か。
そんなちょっとインテリチックなことを考えながら、実際はスマホ片手に自分も無造作に電車に乗っていく。
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ばんっ
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ちっ
急にばばあがぶつかってきた。降りるときは準備しとけってんだ。
しかもあのばばあ、ぶつかってきたのにニタニタ笑ってやがった。人間社会も人口過密で、近頃は変な奴も増えてきた気がする。
少し苛つきながらも、再びスマホいじりに戻る。
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何か臭う、、しかもなんだか無性に腕が痒い。尚更イライラしながら、腕を掻こうとすると、
なんだかぶにょぶにょする。
慌てて指先を見ると、黒い樹液のようなものがべっとりとついている。
shake
「きゃぁあぁああ」
shake
「虫!虫!」
突然女の人たちが騒然として、他の車両に移っていった。他のサラリーマンたちは俺の方をじっと見ている。俺の腕を。
まさか、、
なにか黒いやつが、黒いなにかが俺の腕に歯を食い込ませ腹部をぱんぱんに膨らませている
パニックになった俺はなりふり構わず腕を振り回すがそいつは一向に離れない。
周りの奴も見てるだけでなにもしてくれない
くそっ
くそっ
かなりぞわっとしたが、ドアに思いっきり打ち付けた
ダメだ
もうそいつの腹はとっくにキャパオーバーだろうにまだゆっくり膨らんでいる。
きもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるい
誰か助けてくれ。
なんでただ見てるんだ、こいつを一緒にとってくれ
そもそもこいつは何なんだ、一体いつ、、
はっとしたが、あのばばあはもういない。
限界だ、おかしくなりそうだ。
膨らんだそいつの腹はうっすら赤みすら帯びてる。
誰か
誰でもいいから
とってくれ
shake
「うわぁぁああぁあ」
shake
一緒にとってほしいだけなのに、頼もうとするとみんな逃げていく。
何でだよ、俺だってこまってんだよ。そいつも気がついたら赤くなってるし、もう耐えられない。
誰か
誰か
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ばんっ
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足の遅いおばあちゃんにぶつかってしまった。
その刹那
俺からなにかを吸い付くしたそいつがあっという間におばあちゃんに乗り移った。
少しほっとしてしまったが、そいつはさっきよりさらに膨らみ続けている。
おばあちゃんは声にならない悲鳴をあげて、こっちに助けを求めてくる。
思わず
くるな!
そういって逃げようとしてしまった。
ばちんっ
そいつの腹がとうとうはち切れた。
真っ黒でねっとりした液体が辺り一面に飛び散る。
はち切れると同時におばあちゃんは倒れた。
乗客の誰かが非常停止ボタンを押した。
救急隊が駆け付けたが、、
「亡くなっています」
黒い何かはすっかり乾いて、電車の中に無造作にアスファルトを敷いたようだった。
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その後友達は警察による取り調べを受けたようだが、何一つ信じてもらえなかったらしい。
周りにいた乗客は、
腐った臭いのする蟲を腕に這わせた青年が電車に乗ってきたと証言していたらしいが、おばあちゃんの死との関連性は立証できず、厳重注意に終わった。
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彼が最近なくなった。
まだ32歳という若さで。
昔酒の席で彼が話してたこの話が忘れられない。
あの蟲は何を吸っていたんだろう。
なぜ彼が。
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突如として、どうにも理不尽な災厄が身に降りかからないよう日々祈り続けることしかできない。
作者さかまる
朝寝坊していたら。
1つ隣のドアから乗っていたら。
おばあちゃんじゃない人にぶつかっていたら。
小さな違い1つで未来が大きく左右されるのかもしれません。
ですが、未来は誰にもわかりませんから。
抗いようのないことなのでしょうか。