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長編11
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誘い~番外編~

やかましい騒ぎ声が私の部屋を通り過ぎると、階下へと向かって行く。

途中、「妹ちゃん今度一緒に遊ぼーねー!!!」という大声が聞こえ、思わず体がすくんだ。

「ちょっともー!やめなってー!」

「ねえ妹って可愛い?俺まだ顔見たこと無いんだよね~」

「あの子は無理。てか、会っても無愛想だから~」

「なあ、次はいつ来ていい?俺今週暇でさー」

一体何人居たんだろう?姉の部屋も私のと同じで、大して広くないのに…今回はいつもより人数が多い。なのにあんなスペースで「してた」んだ…引くわ。

「ねえ!みんな帰ったからもう出て来ても大丈夫だって!」

ドアの向こうで、ダルそうな声が聞こえた。

姉は、大学に進学するなり親の留守を良い事に、頻繁に仲間を家に連れ込むようになった。

陽気でノリの良い人達だなと最初は思ってたけど…実際は欲求不満で満ち満ちた奴等だって最近は気づいた。大学生って、こんなのばっかりなの?私だっていつかは大学行きたいって思ってるのに…何か、気力が失せる。

片親同士の再婚…お母さんも義理の父も優しいし、何も不満は無い。

いきなり出来た姉という存在に戸惑いつつも、周りの兄弟姉妹がいる家庭に憧れてたから、これで仲良くなれたらな…って思ってたけど、現実はそう期待通りにはいかない。姉は私の事を、あまり良く思ってないみたいだ。

一緒に暮らし始めてもう5年経つけど、ただの「姉」ってだけで、家族じゃなかったら他人でしかない。私には、そんな感覚だった。

「今度あの人達がまた遊びに来たら、隙を見て外に出掛けようかな」

なんて思ったけど、私の部屋を物色されたらって考えると気持ち悪いし、結局は籠っておくしかなかった。

あの時までは。

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「アキちゃんさ、夏休みどうするの?」

同級生のサラが、予備校の休み時間に声を掛けてきた。

サラは両親がイギリス人だけど、生まれも育ちも日本だから、日本語の方が流暢で英語は殆ど喋れない子だ。

両親も日本での暮らしにすっかり慣れて、あまり家庭内でも英語を喋らないらしい。そのせいか、「日本人らしい」普通のノリで会話が出来る。

「私はあんま考えてないな…バイト入れて、あとは勉強かな~」

「えー!つまんなくない?どっか遊びに行こうよ。海行きたいんだよねー」

「うん、いいね…海行きたいなぁ」

海行きたいな。の合間に思わずため息が出ていた。姉が、あの仲間が家に来なくなれば安心して「行きたい!」ってなるのかも知れない。

というのも、2日前とうとう仲間の男子に顔を見られて、

「可愛いじゃん!ねえこっちで一緒に遊ぼうよ!」

と寄って来られて、間一髪で部屋に逃げ込んだけど…ノックされたりドア越しに変な事を笑い混じりに呟かれたりした。

「あんたが愛想よくしないのがいけないんじゃん」

という姉の言葉に流石にキレた私は、隙を見て姉の部屋に入り、ゴミ箱に捨てられていた避妊具を持ち出してリビングにバラ撒いた。いかにもそこで「しました」とでも言うように。

仕事から帰った母は悲鳴を上げ、私は「なにこれ!」と、姉がしていた事を「初めて見た」体で打ち明けようとしたけど、

「てめえ何勝手な事してんだよ!」

と、キレた姉に椅子だの食器だのを振り回され、投げつけられた。幸い怪我は無かったけど、母はショックでへたり込んでしまうし、こんな時に限ってお義父さんは仕事が遅いしで…結局姉に、

「次やったらマジぶん殴る、私のやる事に口出しすんじゃねえ」と凄まれて、何の解決にもならなかった。

そして今日も、姉はいつものように仲間を連れ込んでは事に更け、私は気楽に家の中を出入りも出来ずに、ただ奴らが帰るのを自室で耐えていたのだ。

「軟禁状態だよ…まじツライ」

「なんだっけあれ、えーと…スー・チーじゃん!それ~、てか外国人並みに性欲ヤバくね?ちょっとウケる(笑)」

サラの反応に少しムカッと来たけど、私は他に吐き出せる所が無かった。

「カメラでも仕込んでさー映像流しちゃえば?」

っていう案もあったけど、家族の事を考えると余りにもリスキーだし、今度こそブッ殺されるかも知れないし、

「私そっち遊び行こうか?」

とも言ってくれたけど、サラは本当に、絵に描いたような可愛さで、あいつらが何するか分からない。サラ自身は「私ただのガイジンだし(笑)」って言ってるけど、「外国人」ってだけで欲情する奴もいるし…

そんな計画と心配ばかりが渦巻いていたが、家に帰ると、それは杞憂に終わった。

迎えに来た母が、運転席で「帰ったら千晶は先にお風呂入って部屋にいてね」と言っていたのが何でか分からずにいたけど、玄関に入るともう既に姉と義父の大声が聞こえてきて、状況を悟った。

「私もう19だよ!?なんで友人関係ごちゃごちゃ言われなきゃなんないの!!!」

「馬鹿野郎!!!毎日家に男連れ込んで!そんな事させる為に大学行かせた訳じゃ無いぞ!!何考えてんだ!!!」

母に促されて自室に戻り、暫く経って風呂に向かおうとすると…喧嘩はまだ続いていて、両親と姉の声が響いていた。

そして、パチン!と頬を叩いた様な音が聞こえた後、

「出てく!!!誰と付き合おうと私の勝手だし!てかあの子嫌いだし!!!マジクソ!!!」

と言いながら姉が階段を上ってくる音が聞こえ、とっさに私は身を隠した。

怖いと思いながら、口元は自然とニヤけていた。

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その言葉の通り、姉は家出をした。

スーツケースを片手に私とすれ違うと、

「あんたのせいだからね?あんたも仲良くしてくれれば、こんな事にならなかったのに!」

と、ギリギリまで顔を近づけて睨み、出て行った。

両親は本気にしていなかったみたいで、「どうせすぐ戻ってくる」と言ってたけど、私からしたら、もう戻って来ないで欲しかった。でもその反面、お義父さんと娘を対立させてしまった罪悪感もあって、「ざまぁ」と思いながらも気持ちは複雑だった。

「へぇ、まあ良かったんじゃん?軟禁生活終了おめ!(笑)」

サラはそう言って、海水浴場の食堂で何を思ったかジュースを奢ってくれた。

「でも、戻ってきたら嫌だな…すっごい睨まれたんだよ?」

「戻って来てもさぁ、パパにそこまで言われたら出来んでしょ…むしろ出来たらスゴくね?」

「まあそうだね…」

地元から一番近い所は、姉達の様な人で毎年埋め尽くされると知り、私達は少し遠い、家族連れが多いこの海水浴場に来ていた。華やかさは無いけど、水は汚くないし穏やかだ。

「セレブっぽい事しようよ」と言って、ビーチチェアでそれっぽいポーズをして写真を撮り合ったり、年甲斐も無くヤドカリや貝を探してはしゃいだり…私は予想以上に楽しく過ごしていた。

そんな海での楽しさの余韻から、「ちょっと観光もしちゃう?」と、私達はそのまま地元の街景色を見ながらブラブラと歩いた。

そして、細い通りをふと見た時、そこに店があるのを見つけて立ち寄ると、そこは、お守りやパワーストーンのアクセサリーなんかを売っている所だった。

私達は綺麗な鉱石で出来たアクセサリーに見入りながら、何とはなしに店内を物色していた。けれど、その時奥から店主らしき女性が出て来ると、私達を見るなり

「あんた達ちょっとこっち来なさい!」

と少し驚いた顔で、レジの奥に来るように言って来たのだ。

あまりに突拍子も無くそんな事を言われたので、私達は戸惑って、「え、荒手の商売?」「高い料金取られるのかな」と勘繰っていたが、

「お金は取らないから!早く!」という言葉を聞いて、とりあえず…と女性に着いて店の奥に進んだ。

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レジの奥は店内よりも照明が暗く、まるでお化け屋敷のような雰囲気を醸し出していた。

しかし、女性に案内されて部屋の中に入ると、そこは普通の家の、生活感溢れるリビングだった。

「お茶入れたげるからちょっと座ってなさい」

何だか暗くて怪しげに見えた女性も、年の感じ私の母と大して変わらなそうな見た目で、ロングの黒髪を後ろに束ねて、部屋着って感じのスカートを履いてカーディガンを着た普通のおばさんだった。

けど、言われるがままに来てしまって…一体何なんだろうという不安はあって、台所にいる女性を見ながら「今のうちに帰らない?」と、サラに耳打ちした。だが…サラは何故か、「面白そうじゃない?」と乗り気で、そうこうしてる間に女性が冷たいお茶を持ってきて、

「さ、遠慮せず…長い話になるかもだから」と、目の前に置いた。

「長い話って…?」

「そうなるわね…急にごめんなさいね、自己紹介も無く。見てお分かりの通り、私は普通の主婦なんだけど、今流行りのパワーストーンの店もやってて、それで尚且つ…ちょっと視えるのよ(笑)」

「視える…?」

「まあ、信じられないのも無理ないか…でも、今から言うこと、納得できるはずよ」

やっぱり怪しい…早く帰ればよかったと、この時はまだ後悔していた。

だが…その後のおばさんの、堂田さんの話した事に、私は納得どころか…心を読まれたのではと別の意味で不安になった。

「あなた、お姉さんとうまくいって無いわね?しかも、血が繋がってないのかしら…?」

なんて、今さっき会ったばかりの人にそう言われたら…嫌でも信じざるを得ない。

「えー!凄い!そうなんですよこの子!何で分かったんですか!?」

見事言い当てた堂田さんの言葉に、サラは興奮していた。そうだ、この子確かスピリチュアル系の事に興味があったよな…と思い出した。

「言ったでしょう?(笑)まあ、おばちゃんのお節介だと思って聞いて…肩の力抜いていいからね?」

穏やかで、かつハキハキとした口調。そして目は、しっかりと私達を見つめている。若干の不安もありつつ、私は堂田さんの話の続きを聞くことにした。

「お姉さんと仲が悪くなったのって、ここ数か月じゃないかしら?」

「…そう、です…いや、元からあまり仲良しでは無くて…壁を感じてました」

「そうなのね…」

「おば…堂田さん!アキちゃんのお姉さん、家に男連れ込んでヤりまくってんの!」

ダイレクトな表現に、私は思わずお茶を吹いた。

「サラっ!ちょっとやめてよ…」

「ほんとの事じゃん?」

「まあまあ、落ち着いて(笑)そうね…でも、お姉さん気付いてるわよきっと、いけない事だって、そして…あなたを庇ってる」

庇ってる?姉が?

「…え?いや…絶対それは無いです!お姉ちゃん、あんたも愛想よくしろって言ったんです…それで喧嘩になって、睨まれたり、物投げつけられたりして…」

「表現はちょっと悪かったかな(笑)でもね…取り入れられつつ、守ろうとしてるのかも」

「単刀直入に言うわね?色情…って分かる?色に感情の情で、色情…要は、さっきこの子が言ってたような事をしようとする霊の事。その気がね…あなたにも付いてたのよ…」

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―――――は?

「え…え…その…どういう…」

「どういう経緯かまでは分からないけど、恐らくお姉さんと交流のある男性なのかな?って思ってる。霊っていうか、生き霊ね」

思い出して、一気に背筋が寒くなった。

私の顔を見た奴?それとも、ドア越しに声かけてきた人…?誰なんて分かんないけど、姉の部屋に出入りしていた男に違いない。

「多分ね、それでお姉さんも感化されちゃったのかな…で、その生き霊、あなたにも気を向けてるの。このままだとちょっとアレだから…神社に連絡する。行きましょう」

堂田さんはそう言うと、早々に店を閉めて私達を裏山にある神社に連れて行った。

「なんか、予想外の展開でめっちゃ凄い!私こういうの大好きでさ~!」

サラは嬉しそうに、これから起こる展開にかなり期待していたみたいだが…テレビで見る様な「お祓い」はする事無く…神主さんからお守りとお札だけを貰うという、予想以上にあっさりとした対応で肩透かしを食らったのか、帰りは一変、つまんなそうな表情でいた。

ちなみに帰る前、サラも堂田さんに視て貰ったが、曰く「びっくりするほど、悪い気が憑りつけない『何か』を持っている」だそうだ…

「視えるって言っても私自身が何か出来る訳じゃないから、とりあえず肌身離さずね」

と、堂田さんは言ってたけど…

「あの、堂田さん…姉を連れてこれたら、お祓いとかしてもらえるんですか…?」

「う~ん、そうね…でも、お姉さんはこういう、私みたいな人を凄く嫌ってる感じがするのよね…実際、近くに私みたいな人がいて、その人を下に見てると思う。プライド高いのかしら、気付かれたら終わりって感じでね」

姉が大学で何をしているかなんて全く知らないし、正直そう言われてもピンと来なかったが…何となく、そうだろうって感じがした。

「どうしてもね、無理矢理は出来ないのよ…本人にその意思が無ければね」

その後、私達は駅まで堂田さんに見送って貰い帰路に着くと、家に帰って早速お札を自分の部屋に貼った。

もし帰ってきて、以前と同じ事をしようとしても、お札に効果があればきっと…やめるはずだ。

そう信じるしかなかった。

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「千晶…千晶!!」

声に気が付き、起き上がると…母が私の部屋のドア越しに、私の事を呼んでいた。

寝ぼけた足取りでドアを開けると、パジャマ姿の母が、涙目で「大変なの…!」と、リビングに着いて来るよう言った。

何が何だか分からないまま…けど、何か緊急事態である事に違いないと、母と階下のリビングに向かうと…父がソファにうなだれる様に座っていた。

「お義父さん…どうしたの?」

「千晶…今、警察から連絡があってな…洋子の…」

「何…?お姉ちゃんどうしたの…?」

姉は家出した後、あの仲間達の家を転々と泊まり歩いていたそうだ。

そして、夏休みになると仲間の1人が所有する別荘に皆で向かい、そこでも家と同じ様に、行為に興じていたという。

だが、2日目の夜…。仲間の1人が突然行方不明になり、何処を探しても見つからず、警察と地元の人とで捜索を行った結果…何故かその人は、こっちに住んでいる、同じ大学の学生のマンションに居る事が分かったそうだ。

そして、その事件が起こる前日、姉達は肝試しに行き、そこでも行為をしていて…

「捜索が終わって、帰ろうとした時に体に異変を感じて、それからみるみる具合が悪くなって…救急車で病院に運び込まれたんだ…」

「千晶…破傷風、って知ってるか…?」

以前、バラエティー番組で見た事がある。傷口に菌が入って、そのせいで体が痙攣する病気だ。重症化すると酷い苦痛を伴って、場合によっては死に至ると知って、怖いと感じた記憶がある。

その病気に、姉を含む数人が肝試しに訪れた場所から感染したと…両親は地元の警察から知らされたのだ。

「幸い、潜伏期って時期だから大事には至らないって…」

病院での措置のお陰で、姉の破傷風はすぐ回復に向かった。だが…病院から再び来たその連絡は、決して喜ばしいものでは無かった。

姉達は同時に、梅毒にも感染していたと分かったのだ。

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あのお札を貼って、1週間後にこんな進展になるなんて…未だに、にわかに信じられない。

でも、堂田さんの言っていた事や…お札やお守りの効果が本物なら…これは、成功した事になるのか?

確かに私は、今は不安も無く家で過ごせている。望んでいた通りに…

戻ってきてから、姉は仲間を連れ込む事はもう無くなった。

でも、その代わりに…夜中に時折、呻く声が姉の部屋から聞こえてくるんだ。

「醜くなるのは嫌だ…ブツブツが出来るのは嫌だ…」って。

それから1か月と経たずに、姉は精神病院に行ってしまった。台所の包丁を持ち出して、自殺未遂を図ったのだ。

何とか療養は行われてるみたいだけど、面会は難しくて…両親は行ってすぐ帰ってくるを、今でも繰り返している。

「最近ね…洋子ちゃん、前とは違う事を何度も言ってるそうなのよ…『誘われた』『会いに来る』って…」

姉は、何に誘われたんだろう?そして、姉に憑いていたものは…人間だったのだろうか?

今では、知る由も無い。

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@天津堂 様
読んで頂きありがとうございます!
今回は色情の気を持つ生き霊をテーマにしました。血の繋がらない思春期の女子の感情の動きを、少し大げさに、でも現実味がありそうな感じで書けたかと思います('◇')ゞ

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@さかまる 様
読んで頂きありがとうございます(^ω^)
ヤマノケは読んだ時めちゃめちゃ怖くて震えました。
人ならざる何かって、目的が分かんないのが謎で怖いです。
続編書けるよう構想練ります(∩´∀`)∩

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