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長編15
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異音

それは、向かいのビル修理の、足場の軋む音ではありませんでした。

「お囃子」の音…それも、とてもいびつな、滅茶苦茶に音を出している…そんな感じの。

もしかしたら、近所の人が祭りの為に練習しているのかと思いましたが、時計の針が夜中の3時を指しているのを見て、直ぐにその線は消えました。

気になって、ベランダの窓を開けて様子を見てみたのですが、音も風に乗って微かに流れてくる感じだったので姿は確認出来ず…

両隣のベランダや斜め向かいのマンションを見ても、音に気付いて外まで出てくる人は私の他にいません。なので、当たり前ですが部屋の明かりも消えています。

自分にしか聞こえていないのか…それとも、他の住人はすでに音に慣れてしまって、わざわざ、外に出て確認するまでもない、という事なのか…?

それとも…この地域の風習めいたもので、実際に演奏しているのか…?

夫は寝付きが良い為か、音には気付いていない様子で、それに、相談しようにも何て言えば良いか…

この地域に引っ越してまだ日も浅い為に、どうすればいいのか、私には分かりませんでした。

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お囃子はその後も不定期に、大体、夜中の2時から3時位でしょうか…決まって夜の更け切った時間になると、聞こえてきました。

気が立って神経が過敏になっている時なんかは、耳障りになって寝付けない時もあったけれど、慣れとは恐ろしいもので…3ヶ月も経つと、夜中にふと目が覚めて音に気づいても、

「ああ、また鳴ってるなあ」

ぐらいに思って、すぐに寝付けていました。

そして少しずつ、「生活音の一部」として受け入れ過ごしている内に、私は音が鳴らない夜が、どこか物足りなく感じるようになっていました。

そんなある夜の事です。いつもの様に遠くから、こちらに向かってお囃子が近付いて来るのが分かり…夢と現の境でぼんやりと聞いていたのですが、私はふと、ある事に気付いたのです。

お囃子の音が、いつもより近くで鳴っている、と。そして…同時にある疑問が頭に湧きました。

人の気配が、全く感じられない。

そうです。普通なら、足音だとか喋り声なんかが聞こえて来ても可笑しくないのですが…お囃子には、それが無い。

音だけが聞こえてきて、いつの間にか消えていく。お祭りでよくある、合いの手の様な掛け声すら無いのです。

気付いた時には既に、背中に薄ら寒い感覚がありましたが…どうにも私は確かめずにはいられず、隣で寝息を立てる夫を起こさぬよう、静かに寝室から出て、リビングの窓を開けました。

夜の闇に仄かに外灯が差し込む中…お囃子の音は、ちょうどマンションの斜め向かいの方から、鳴っていました。

音のする方角にじっと目を凝らし、人の気配を探ったのですが…どんなに観察しても、人影は1つも見当たらず…それどころか、服の衣擦れや足音すら、確認出来なかったのです。

寝ぼけていましたから、どこか変な心の余裕があったのでしょう。私は音の方角を見ながら無意識に、「誰もいないなぁ…」と、呟いていました。

ですが、次の瞬間でした。

まるで私の声に反応するように、ピタッ、とお囃子の音が止まったのです。

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それは、例えるならテープレコーダーかCDか何かを流していて、途中で停止ボタンを押した時の様な…実に不可解なものでした。

もし複数人で音を出しているならば、止まるタイミングは多少ズレや余韻があると思うのですが…本当に、誰かが停止ボタンを押したのでは?と思わざるを得ない止まり方。

そして、突然の静寂の中…私は体の右側、音の鳴っていた方に、不気味な感覚を覚えました。

呼応するように、心臓がドクドクと強く脈打っているのが分かる程に…それは感じられたのです。

────こっちを見ている。

気が付くと、自分の手足が恐怖で小刻みに震えていました。

私は、震えて思う様に動かせない足をどうにか後退りさせ、リビングに全身を戻すと静かに窓を閉めました。

やや錆びついて、戸が動かしにくいのを知っていましたから…それはもう、今までにない位慎重に。

途中、喉の奥から悲鳴が出そうになるのを必死にこらえているせいか、頭がおかしくなってしまうのではないかと、本気で思いました。

そうして、キュッと小さく音を立てて戸が閉まり切ると、急いでカーテンを掛け、その場でへたりこみました。

これは、人ならざる何かが出している音なのか…?でも、合点がいく。あれは恐らく私にしか聞こえていなかった…だとしても、何故?

疑問が次から次へと沸いてきましたが、なにぶん頭の中で処理しきれない事態だったので、結局分からず…

少し安心したせいか眠気に襲われ、寝室に戻った私は布団の中に潜り込み、そのまま深い眠りにつきました。

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朝を迎えると、私は昨日の出来事が、夢の中で起きた事の様に感じていたのですが…リビングのカーテンを開けた瞬間、言葉にならない悲鳴を上げて私はその場で硬直しました。

式神というのでしょうか?

あの、陰陽師とかが使う、人型の紙切れ…それがベランダに落ちていたのです。

すぐに夫を起こし、事の顛末をどうにかこうにか話し、半信半疑な夫の手を引いてベランダを見せたのですが…

何故か、私がほんの10分程部屋を離れている間に、忽然と式神が消えたのです。

夫の不思議そうな視線を感じ、その場はどうにか、「変な夢見て、寝ぼけてたみたい」と言って事を収めたのですが…朝から気が滅入ってしまい、持病の片頭痛も起きてしまって、会社を休みました。

夫を見送り、薬を飲んで横になる内に頭痛は落ち着きましたが、そのまま家に居る気は起きません。

私は、5駅先に住む古い友人に連絡を取り、久々に家に遊びに行く事にしました。

「何それ!凄い…面白い!」

友人は少々オカルト好きで、とりわけ日本のホラーや都市伝説に興味がある子でしたから、私の身に起きた出来事を、目を輝かせて聞いていました。

ふざけている訳では無く、彼女なりに真剣に聞いているという事は頭では分かっていても…そのあっけらかんとした態度に、「良いわね気楽で」と、心の中で毒付いてしまう自分がいました。

ですが…その時私の中では、こんな事を話せる相手は彼女以外思いつかなかったのです。

そして彼女は…私の話を一通り聞いた後、こう言いました。

「今日、試しにそっちに泊まらせて?気になるのよ!」と…。

断る理由はありません。夫に連絡を取って許可を貰い、私は彼女を一晩家に泊め、不可解な現象の正体を突き止めよう、という事になりました。

何故か…それは、私の中にある一つの疑念が湧いていたからです。

かつて付き合いのあった、Aという人物の事でした。

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Aは私よりも少し年上の男性で、何年か前に通っていた料理教室で出会いました。

見た感じ真面目な方だな、という印象で…何故なら女性ばかりのこの教室に、臆する事無く通っているから、という単純な理由でした。

暫くは軽い会話をする程度の、ごく普通の人付き合いをしていたのですが…日に日に、彼の行動に疑問を感じ始めたのです。

というのも、彼は他の人に比べて神経質な所があって…例えば、具材を切るにしても、調味料を図るにしても、

「どの器に、どの分量で、どれをどの具材と隣り合わせで置いておくか」

等…かなり細かく決めるのです。勿論、先生はそこまで指導しません。

自分1人で料理するなら、好きなようにすれば良いですが…教室では3、4人で1組になって作るので、Aと一緒の組になった人は、否応なしにのこだわりに合わせなければならない…そんな雰囲気が、いつしか漂う様になったのです。

そして、Aの神経質さは段々とエスカレートし…少しでも自身の思惑と違うと、感情任せに「何でだよ!」「ちゃんとやれよ!」と声を荒げる事が、頻繫になりました。まるで、自分が教えているかの様な振る舞いで。

先生も注意するのですが、頭に血が上っているのか、全く聞き耳を立てないのです。

「Aさんが来るなら私もう辞めたいな」

そう愚痴をこぼす教室の仲間も、少しずつ増えていました。私もその1人で…中には、Aが当たり散らしたせいで、泣きながら教室を出て行ってしまった若い女性もいましたから…

しかし、いつも教壇に立っている先生を通して、教室長(先生を束ねている言わば校長先生的な方)から直々にAを「厳重注意」したと聞いたのは、Aが入会して、たった3ヵ月後の事でした。

そして、それが効いたのか…Aがその後、教室に姿を現す事は無くなりました。

ですが、それから何週間か経った頃の事…教室仲間の数人から、ある変な噂を聞いたのです。

「Aが『仕返し』をして回っている」と…

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何でも、Aとよく一緒の組になっていた女性2人の家のポストに「変なもの」が入っていたそうです。それが何日も続いていて…ある時は、子供の自転車カゴに入っていた事もあったとか。

そして、何故それがAの仕返しかと言うと…その「変なもの」が、Aのカバンに付いていた物に良く似ている事からだ、というのです。

その場は、幾ら何でもそんな事までするかな?と、ただの噂で終わったのですが…後々になって考えてみると、怖くなりました。

と言うのも、この教室の近くにも料理教室は幾つかあるし、男性向けのコースを設けている所もある。学んでいる事も、ごくごく普通の家庭料理…だから、わざわざ女性ばかりの中に入会する必要など無い。

けれど、もし必要性があるとすれば…Aは、支配出来そうな相手を探して、怒りをぶつけている…そう考えました。

あの態度や、どこか上から目線の感じ…似たような性格の人には、男女共に関わった事がありますが、A程に気性の激しい人は、初めてでした。

ただその後、「Aの印」が現れる事は無く…ただの噂だと思って、私は仕事が多忙になった為に、教室を辞めたのですが…

「そのAが、今朝の事をしでかしたって訳?」

友人が怪訝そうに聞きました。…無理もないでしょう。私は、確証は無いけど、その可能性はなきにしもあらずだと…そう答えました。

何しろ…Aがカバンに付けていた「変なもの」と言うのが、形の特徴的に、式神そっくりだったのですから。

友人はそこまで聞くと、おもむろにリビングの窓を開けて外に出て、暫くベランダを行ったり来たりしながら辺りを見回し…そして、

「…ないね」

と、一言私に告げました。

考え過ぎか…なんか悪いことしたな…とその場で考え込んでいると、友人は続けて、

「だってこんな所、大の大人が無理でしょ?それにもしも、Aって人が犯人だとして、そんな頭おかしい奴が、計画的過ぎない?」

と、笑いながら言いました。嫌がらせにしては、手が込んでいないか?と。

確かにそうです。両隣は緊急時に蹴破れる壁で隔たれており、壁と天井の間は10㎝程しか隙間が無く、乗り越えるのは到底無理な話で…しかも、この部屋は7階。

例え嫌がらせだとしても…物音立てずにどうやって式神を置き、そしてどうやって回収したのでしょう?

それに、こう言っちゃ失礼になりますが、Aの見てくれはちょっと病弱な感じで、手も足もフニャフニャと細くて生白く…口は達者でも、思い切った行動が出来る人間には見えませんでした。

…実際料理教室でも、殆ど口だけで、他の人に指図していましたから。

「やっぱ、考えすぎかな…」

「まあ、それは夜になってみないと分からないし…もし、犯人がいるならどうやったのか知りたいから、今日は泊まらせてね?」

憶測は色々とありましたが、とにかく「お囃子」を聞かない訳には分からない。とりあえず問題は置いておいて…私達は夜を待つ間に、息抜きも兼ねて買い物に行き、休みの前日とあって、その日の夕飯は夫も交えて3人で賑やかに過ごしました。

そして…そのままソファでテレビを見ながら、私も友人もいつの間にかウトウトとして…次に意識がはっきりした時には、既に夜中を迎えていました。

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「ちょっと…起きて、起きてって…!」

友人に肩を揺すられハッと目を覚まし…ソファから上半身を起こすと、真後ろのベランダから、あの「お囃子」が聞こえていました。

「これ?これだよね…?」

小声で聞いてくる友人に、私は無言で頷きます。音が聞こえてきた瞬間に、私は昨夜の事を思い出して体が微かに震え出し…声を出す事も出来なくなっていました。

ですが…自分しか聞こえてない、という訳じゃない事だけは、僅かな救いでした。

恐怖でソファにうずくまる私の肩に手を置きつつ、友人はカーテンの閉まったベランダの窓を、睨むように暫く見つめた後…「開けるからね?」と私に言うや否や、勢いよくザッ!とカーテンを引きました。

すると、暗がりに反射した私達の姿と室内が写る中…向かいのマンションの足場に、影のような何かが、ガサゴソと動くのが見えました。

ちょうどこちらのベランダと同じ高さに、不自然に漂う影。そして、見覚えのある表情…

静かにとベランダを開け、私は意を決して、手元の懐中電灯をマンションに向けます。

予感は当たっていました。

「Aさん!?」

ライトの明かりを腕で遮ってはいますが…顔の表情と、手足の生白さ…Aが、そこに立っていたのです。

手に、何かを握りしめながら。

「そこで何してるんですか!?」

聞いても何も答えず…Aは腕で顔を隠しながら、うぅ…と唸るだけ。刑事ドラマで、潜伏先が見つかってしまった犯人さながらに、その場で佇んでいました。

「警察呼ぶね」

背後で友人が私に呟きます。もうこの頃には、お囃子の音など大して気にならず、目の前のAに憤りを感じていて…

「何か答えてください!!」

そう、大声を出しました。しかし、それでもAは、うぅ、ああ…と呻き声を上げるだけです。

友人から、20分程でパトカーが来ると知らされ、私はそれまで、こうして懐中電灯をAに向けていようと思っていました。

が、その時…

「ちょっといい?」

私達の背後で、寝ぼけた声がして振り返ると、私の大声に気付いたのでしょう…そこには夫が、寝間着姿で立っていました。

手に、水鉄砲と酒瓶を持って。

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思いも寄らぬ夫の姿に、私も友人も思わずポカーンとしていました。

「え…何それ?」

と、私が訪ねるのをよそに、夫はスタスタとこっちに来ると、開け放ったベランダに出て、あろうことか水鉄砲に酒を注ぎ…足場に佇むAに向かって、噴射し始めたのです。

「え!?え!?ちょ、ちょっと旦那さん!」

流石に友人も、この行動に驚かざるを得ず…しかし、夫は構わずAに向けて、まるでガキ大将か何かの様にバシバシ水鉄砲を撃っています。

辺りに酒の匂いが漂い…よく見るとそれは、年末年始に夫の実家に帰省した時に、お土産で買った清酒でした。それも、割とランクの良い。

「寝ぼけてんの?え、大丈夫!?」

そう聞いて暫く経つと…夫は撃つのをやめ、代わりに「ほら、見て」とAの方を指さしました。

A…いや、「Aだったもの」の方を。

そこには、Aの体格だけを型取った、まるで紙粘土で実物大に作られたような人形が立っていました。

かと思うと、それは足元からボロボロと崩れ…足場の鉄板に、まるで吸収される様に消えていったのです。

目の前の状況にただ唖然として、声を出せないでいると…夫が私の肩をポンと叩き、「終わったよ」と、いつもの優しい口調で言いました。

ただ…私や友人にしたら、突然の事過ぎて、一体何が終わったのか、まるで分かりません。

「旦那さん…えと、あれは…一体…?」

友人が目をパチパチさせながら聞くと、夫はさっきまでAに向けていた銃口を自分の口に向けて、水鉄砲の容器に余った酒を飲みながら、

「あれは…なんか生き霊らしいよ?多分」

そうあっけらかんと言って…私達にある事を話したのです。

Aに、かつて会ったことがある、と。

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夫は不動産関係の仕事をしているのですが、私と付き合い始めた頃に勤めていた会社の、研修の教育係がAだったそうです。

Aは最初こそ、真面目で実直な印象だったのですが…

「あれは、教育とはとても言えなかったな(笑)だってキーキー怒鳴るだけなんだもの」

Aは、教育係だからという理由なのか、本人の気質なのか、とにかくめちゃめちゃに怒鳴る事が殆どだったというのです。

見兼ねた上司がをAを外し、別の人を教育係としたのですが…後に、そもそもAは教育係に割り当てられておらず、自ら志願した、と聞かされたそうです。

それから2年後、夫は転職して今の会社に入り、年月が経ってAの事もすっかり忘れていた頃…外回り中に偶然前職の同僚と再会し、その方から、Aに関する変な噂を聞いたそうです。

「何かさ、『自分は陰陽道の人間だ』とか…変な事を言い出すようになったって…」

元同僚曰く、その頃Aは社内で腫れ物的扱いされていて…しかし当の本人は、その原因が自分の気性の荒さだとは、自覚が無い様子だったそうです。だから、Aの陰陽師云々の話を聞いても、誰も相手にするどころか…むしろ影で笑い話になっていたと。

夫もその話に「なんじゃそりゃ」と、その場は笑っていたのですが…

「通ってた料理教室に、一時期変な奴がいたって言ってたでしょ?似たような人間かな思ってたけど…やっぱ、そうだったのか…」

私も夫も、別の環境でAと関わりを持っていた…途端に、背筋に寒気が走りました。

「…何で?偶然だとしても、どうしてこんな事…」

「わからない、でも、陰陽道云々ってのは、あながち間違ってはいなかったんだな…」

「ねえ、旦那さんには、仕返しは無かったの?」

「うーん、俺は無かったな。前の所はすぐ辞めちゃったし…それに、もう5年も前の事だからなあ。何か、変な奴だった(笑)何が気に入らないんだろうって、不思議だった。まさかこんな手に出るとは思ってなかったけど」

Aが、何の目的で私の所に現れたのか、真相は定かではありません。ですが…私は1つ、冷静になって疑問に思った事がありました。

「酒と水鉄砲で…それでどうにかなるものなの?」

「ああ、これね…昨日爺ちゃんに聞いたんだわ。変なもんいたら清酒撒いとけって。俺の爺ちゃん、こういうのちょっと詳しいから。応急処置的には最適でしょ、これ(笑)」

そう言うと、夫は残りの清酒をお猪口に少し注いで、私達に飲むよう勧めました。これでお清めになる筈…と。

それからすぐ、友人が呼んだ警察が来て、「不審者がいた」と説明すると、3人とも酒臭い事に若干怪訝ではありましたが…パトロールを強化するという事で話が付き、大事にならずに済みました。

時計を見るとまだ夜中でしたが…私も友人も夫もすっかり目が冴えてしまい、気分改めとして近所のファミレスに行き、夜を明かしました。

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その後、Aが消えたのを境に、あの「お囃子」は全く聞こえなくなりました。

友人も夫も、特に変な事には見舞われておらず…私は、「悪い夢でも見ていのだ」と、あの夜の異様な出来事を、心の中で消化していました。

ですが…それから半年程経った最近、夫が「また変な事聞いちゃった」と、夕飯の席で言ったのです。

夫はあの出来後の後、気になって前職の同僚に連絡を取って飲みに誘い、それとなく思い出話として「Aさんはどうしてる?」と振ったそうです。

すると、同僚はたちまち苦い顔をして…「なんか怖えよあいつ」と、悪口混じりに話したそうです。

聞けば、Aは未だにその会社に在籍していて…ポジション的には所謂「窓際」だそうで、もう誰からも相手にされていないそうです。

しかし、社内を徘徊しては、「教育」と称して他の社員に難癖をつける事もたまにあり、もう解雇寸前だと。

ですが…Aはそれを頑なに拒んでいるそうです。そして、時折震えながら…何かの視線に怯える素振りをみせている、と。

その様子を見て、同僚はノリの良い後輩と一緒に、からかい半分に「幽霊でもいるんすか?(笑)」と尋ねた所…

「『これ以上落ちれない、落ちたら神様になれない、そしたら死ぬしかない』って…A、そう言ったんだって…」

落ちれない。神様になれない。

あの、狂った音…式神…そして、ハッキリと姿が分かる位に、目の前に現れたAの姿…

夫も、あの音を最初は、ただの足場の軋みだと感じていたそうですが…あの夜の出来事の後、夫にはあの音が、お囃子と言うよりも…何か、身体中の関節が軋む音に感じたと、そう話しました。

まるで、体の至る所の骨や髄が、キュルキュル…ギギギ…と、音を立てている感じ、と…。

Aは、何のために神様になろうとしているのでしょう?

虚勢を張り、他者を罵るのが、「神様になる」という事にどう繋がるのでしょうか?

「本当に『陰陽道』なのかな?俺、もっとヤバイ、悪いものって気がするわ…」

夫の言葉に、私は不思議と信憑性を感じています。

それからすぐに、私と夫と友人で、念のためお祓いに行ったのは言うまでもありません。

私の体験した話は、これで終わりですが…もしも、家の外で支離滅裂に軋んだ音が聞こえてきたら、きっとそれは…人ならざる存在かも知れません。

触らぬ神に祟りなし…そう出来れば、一番いいのですが…

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@hiro さん
読んで頂きありがとうございます!
背筋がゾッとなっていただけたら幸いです(^^)v

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@アンソニー さん
読んで頂きありがとうございます!
どんな霊よりも、生きている人間の業が一番おぞましいですね(;^ω^)

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@車猫次郎 さん
読んで頂きありがとうございます!
乱歩的な感じで、昔の怪談っぽい要素を入れたいと思って書きました(^◇^)

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めっちゃ怖い!

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凄く怖い!やはり一番怖いのは人間ですね。

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