中編4
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異形

<前置き>

今住んでいる家を購入して15年くらい経つ。

子供が幼かった頃は一階の和室で親子4人で眠っていた。

越してきて間もなく、私は頻繁に金縛りにあうようになった。それも、金縛りにあう時はいつも二階から階段を伝って何かが降りてくる気配がして、それが私たちの眠る和室に入ってくるのだった。

昔から金縛りにはよくあっていたので、あまり気にしないようにしていたが、ほかにも様々な怪異がおこり、理由が知りたくて知り合いから霊能者を紹介してもらった。

霊能者は言った。

隣の家は霊が集まって真っ黒に視える。ここまで来ると原因が土地にあるのか、住んでいる人にあるのかわからない。

集まってくる霊の一部が我が家の二階のトイレの窓から入ってきて、階段を伝って降りてきているらしかった。

隣の家の浄霊は霊能者に断られた。

理由は、これだけ集まると一人ではできないし、下手をしたらこっちがやられてしまう。とのことだった。

結局、霊視である程度のことはわかったが解決には至っていない。

今回はそんな我が家で起こっている怪異の一部を紹介したい。

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いつだったか、日帰りの予定で黒部ダムに行った時の話。

前日に愛犬をホテルに預け、まだ暗いAM3:00頃 起きて身支度を始めていた時だった。

一階のトイレからでてきた夫が言った。

「後ろの家の奥さん、こんな時間から庭で何かやってる」

「あーそれね、奥さん洗濯物を干してるか取り込んでるかしてるんだよ」

先程トイレに行った時、後ろの家の庭で聞いた音。それは窓ガラスやシャッターをふく音。それから庭を歩く音。竿を拭く音。

それらはいつも後ろの家の奥さんがしている動きがだす音と同じで、深夜トイレに起きる私がよくきいているものだった。

「後ろの家、洗濯物なんか干してないぞ」

外を覗いたらしい、夫が言った。

「外にでてみると音はしないのに、トイレからは庭で奥さんが動いている音がするんだよ。それに俺気づいたんだけど…」

夫の表情は固く強ばっている。

一階のトイレに入ると聞こえてくる音。

それは普段の奥さんがだす生活音。

シャーシャーと網戸を拭いたあと、砂利を踏みしめ物干し竿に近寄り、竿を拭きながら右から左へ移動する音。

そして少しの静寂のあと、再び始まるシャーシャーと網戸を拭く音と砂利を踏みしめる音。

それらは一定のリズムで繰り返し聞こえてくる。何度も何度も繰り返し……

だが、外に出てみるとそこには誰もいない。

音も聞こえてこない。

最初トイレでこの音を聞いたとき、夫は後ろの奥さんこんな時間に何やってるんだと思ったらしい。だが、聞いてるうちにおかしいことに気がついた。

同じ動きを繰り返しているのはすぐわかったが、一通りの動きが終わったあとに訪れる静寂。そして再びはじまる音。

この音、人が動いている音なら、一通り終わったあと、網戸を拭く音が始まる前にそこに移動する砂利の音がするはずなのだ。

後ろの家は防犯対策なのか、庭一面に大きめの砂利を敷き詰めていて、人が歩くとジャリジャリと音がするのだ。だがその間、物音はしない。それで意を決して外に出て確認してみると、やはり庭には誰もいなかったということだった。

「お前も聞いてみろよ」

夫が言った。

「やだよ! 恐いじゃん! そんなん私は聞こえんもん!」

私が拒否すると夫はウンザリするように言った。

「馬鹿だな! お前はもう聞いてるんだよ! 自分で言ってたじゃないか」

「はあ?」

反論しようとしてハッとする。

夜中、トイレに行った時に、後ろの庭からきこえてくる奥さんの動く音。

あれは本当に後ろの家の奥さんなのだろうか?

「でも、夜中に奥さんが歌ってる声聞くし……」

「毎回じゃないだろ? それに聞こえても家の中からだろ? お前はポヤンと聞いているから気がつかないんだよ。でも実際は聞いているんだよ」

「……」

そのあとトイレに行ったが、私は音が聞こえないように、舌を鳴らしながら用を済ませた。

だが、それでも聞こえてくる、砂利を踏みしめる音。

恐い。

このあと寝ている子供たちを起こし、急いで準備をする。

先に娘が夫と一緒に車に移動した。

私は息子をせかしながら、全部の部屋の戸締りの確認をする。

忘れ物をした夫が車から戻ってきた。私は車に一人でいる娘が心配で移動する。

車に乗り込むと身を固くして俯いている娘がいた。

「何? 何かいるの?」

心配して尋ねても、娘は応えない。

「何か聞こえるん?」

しつこく聞くと、

「お母さん、黙って! 気づかれる」

小声で娘が話すのを聞いて、私はそうっと庭を振り返った。

でもそこには夜に埋れた庭があるだけ。私には何も視えない。何も聞こえない。

間もなく夫と息子が車に乗り込み出発した。AM4:00前だった。

家から離れて娘が言った。

「さっき後ろの家の庭に何かいた」

「何? 幽霊?」

「黒っぽいような茶色っぽいような、大きな塊が庭をウロウロしてた。あれは人間の霊なんかじゃない。絶対違う! もっとヤバい、見ちゃいけないヤツだ」

私は夫をみた。

「何か見えた?」

「いや見てない」

「もう、お母さん信じられない!」

娘の恐怖は私への憤りに変わっている。

「視たことを気づかれないように必死になってるのに、あんな大声で話すんだから、信じられないよ」

娘の言葉に続いて夫までも文句をいいだした。

「お母さん、空気読まないからね。大体この時間に外で大声で話すとか、近所迷惑だから!」

私、そんな大声だしてないし…

このあと別なときに、夫も後ろの家の庭で視てしまったらしい。夫が視たのは人の形をしていたらしい。

よく聞くよね。

神は乗り越えられる試練しか人に与えない。

あれ本当かも。

今回 娘が視たもの、夫が視たもの。私には耐えられない。たぶん視たら心臓とまる。

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