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中編4
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あの世を見てきた話

その日は、母と娘と一緒に

都内にあるビルに用事があって出かけていた。

小さい頃から車移動ばかりな娘は、

慣れない電車移動に不機嫌だった。

不機嫌な娘を母と私でなだめながら、オフィスビルの15階で申請の手続きをしていた。

広々とした清潔感のあるフロアには、私たちと同じような親子連れが何組かいた。

突然、ドォーーーーンととてつもない地響きが聴こえ、同時に視界がグラっと大きく傾いた。

目の前に大きな窓ガラスが迫っている。

咄嗟に娘の腕を掴み、大きく自分に引き寄せた。

凄まじい轟音と共に、なんの準備もなく、私たちは窓ガラスを突き破り、外に放り出された。

娘は自分の腕の中にいる。

視界には外で工事をしていた大きな黄色いショベルカーが見える。

母も目を見開いて真っ逆さまに落ちていく。

時間にして数秒なのだろうが、頭の中は冷静で、

助からないと分かりつつも、娘だけでも助かる方法はないか、頭をフル回転させた。

この高さじゃ助からない…

そう悟った私は娘をより強く抱きしめ、迫りくる地面を目前に目をギュッと瞑った。

痛みも、苦しみも、衝撃さえも何も無かった。

気がつくと私たちは長い行列に並んでいた。

さっきまで、同じフロアにいた親子や、スーツ姿の男性や女性が入り混じっている。

辺りは暗く、しかししっかりと整備されていた。

ディズニーランドにある、スターツアーズの乗り場までのようなイメージだ。

金属製の柵が折り返すように長く建てられており、人々はその柵の中を順番通りに並んでいる。

柵の外側にはスーツを着た職員?のような人が何人も大きな声で案内しながら、ドタバタと駆け回っていた。

自分の胸元を見ると、つけた覚えのないネームタグが首から掛かっていた。

透明のケースの中には、名前が印刷されている。

「まま、ここどこ?」

「たぶん…ここは死んじゃった人たちがくるところかな…」

私の頭は冷静で、ぼんやりと列に並ぶ人達を眺めていた。

泣く子供をあやす母親。

不安そうに列の先を背伸びしながら見る男性。

列に並んでいる人は、泣いている人が多く、皆一様に首からネームタグをぶら下げていた。

柵の外で案内する職員たちは、ネームタグを付けていなかった。

彼らの慌てぶりから見て、何か大災害が起こったのであろうことは容易く想像できた。

未曾有の大災害で、死者が一斉に押し寄せたのだ。

母も不安そうにしていた。娘の背中を撫でながら、列の先に目を向けていた。

「でもさ、みんな一緒でよかったじゃん。」

私の言葉に母は、なんとも言えない顔をして、

そうね…。と小さく呟いた。

私たちの番が来た。

大きな丸い白い机に案内され、座った。

正面には、またスーツ姿の若い男性が座っている。

パソコンを打ち込みながら、こちらに目を向けた。

お名前と年齢、それから住所を言っていただけますか。

「○○です、こちらは娘の△△です、こちらは母の××です。年齢は…」

と、聞かれたことに答えた。

この人は、あの閻魔大王様なのだろうか?

それにしては若い…し、スーツなんだ…

現世でお前はこんな事をしたそうだな〜!

とか言う、あの絵本の閻魔大王様は一体なんだったんだ…

自分のイメージと、目の前にいるスーツ姿の男性とのギャップに驚いた。

とても事務的だ。

はい、確認取れました。

そうしましたら、この先にある扉から49日間旅に出ていただくことになります。

49日を迎えますと、転生をするか現世に留まるかなど、いくつか選択をすることが出来ます。

ただ、この先の道のりは暗く、危険も伴います。

必要なものなどは、無料でこちらの棚からお持ちいただけますので、お好きなものをお持ちください。

なにか質問はありますか?

と、これまた事務的に案内された。

私は咄嗟に日付を尋ねた。

今日は、11月2×日です。

それを聞いた途端、私は冷や汗をかいた。

そうだった。私は知っていた。

この日に大災害がくることを私は知っていた。

やっぱりこの日だったんだ…

私は、夢で見たのだ。大災害がこの日におこることを。

ここにも、夢の中で来たことがあった。

この日付を忘れちゃいけない、覚えておこうって。

ギューっと悔しさがこみ上げる。

しかし、こうなっては仕方ない。

私は母と棚を見た。

お煎餅や、ヤクルトなど簡易的なお菓子やジュースが並んでいる。品数は少ない。

49日も旅するのに、このラインナップじゃなぁ。

「食べ物たくさん持って行こうか。それから飲み物も。」

娘にも好きなものを取らせた。

母の持っていたエコバッグに食料をつめながらふと気がついた。

あ、もう、死んでるから食べ物は別に要らないのか。

だから、そんなに種類も多くないのかなぁ。

棚の端に、小さな箱があった。

手に取って中を見ると、爪楊枝のようなものが数十本入っている。

先端には赤い色が付いている。

?なんだろうこれ。

箱を裏返すと、旅の途中、迷わないために使う道具らしかった。

これ重要じゃん!たくさんもらって行こう!

と、カバンに押し込んだ。

「それじゃあ、行こうか。みんな一緒だからよかったよね。」

棚の横には重厚感のある、深い茶色の木製の大きな扉があった。扉には細かい彫刻が施されている。

ここから旅に出るらしい。

扉の横には、また別のスーツ姿のスタッフがいた。

それでは、お気をつけて。

木製の扉が大きく開く。

先は真っ暗だった。

私たちは手を繋いで旅に出た。

Concrete
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