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中編3
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◇海星◇

勝負事は世の中にたくさんあるけれど、小さな勝負事も同様にたくさんある。お皿の上に一つだけ残った鳥の唐揚げを賭けて行われるじゃんけん大会、ババ抜きや神経衰弱などのトランプカードを使った簡単なゲームなどなど。

それには必ず勝者と敗者がいる。普通は勝ったり負けたりを行ったり来たりだけど、たまに一方通行の人がいる。勝ち続けるのは気持ちが良いけど、負け続けるのは気分が良いものではない。

私は今年の四月から晴れてぴかぴかの大学一回生となった。封を開けたばかりのぴかぴかな状態は気を抜くとすぐに汚れがついて、放置すると簡単には落ちなくなる。お風呂場の水垢や台所の油汚れの如く、怠惰が染みつかないように充分注意したい。

この大学には私と同じ高校から進学した友人がいて、通いはじめてすぐに彼女から紹介された人がいる。その人とはそれから何度か顔を合わせているのだけど、私は未だに彼の顔が分からないでいる。

二回生の先輩であるその人は勝負事に滅法弱い。同回生の友人達と二回生の先輩方の数人で居酒屋さんを訪れた際、先程述べた唐揚げ争奪じゃんけん大会で一人だけパーを出して負けたり、テーブルゲームやテレビゲームなどでも悉く負けてしまう。勝負事に関しては一度も勝利したことがないそうだ。

聞くところによるとくじ運も絶望的らしく、おみくじでは凶しか引けず、好きなアーティストのライブチケットの当選には一度も当たったことがない。ハズレ一方通行で当たりらしい当たりを出したことが全くないそうだ。私もくじ運はひどい方であるが、さらに下がいたとは…。

そんな彼の背中には海星がはりついている。と言っても海にいる海星ではなく普通の人には見えないモノ。所謂、妖怪の海星だ。

私は幼い頃から普通の人には見えないモノが見えてしまう。所謂、幽霊や妖怪。それが私以外には見えないことを知ってから、この事は自分だけの秘密にしている。きっと人に話したら頭のおかしい奴だと思われる。それが嫌だったから…。

その海星は半分が黒く、もう半分が白い勾玉みたいな模様をしていて、随分ぽっちゃりしていた。後で調べて分かったことだけど、カワテブクロと言う海星に姿形がそっくりであった。

たまに「くちゃり」と音を立てて腕を動かしたり、前日は右肩に居たそれが翌日には左肩に移動してたりと、一応生きているようではあった。

普段は化石みたいに微動だにしないので「動いている」と分かるとそれがなんだか不気味で、ぞわっと寒気がする。

海星に憑かれた先輩を初めて見たときは顔面が墨で塗りたくられたように真っ黒で、首や腕などには星形の黒い痣が点在していた。先程顔が分からないと言ったのはこういうことだ。背中の海星と星形の痣。それは容易にこの海星の所業であると推察できたが、それが確信に変わったのすぐだった。

彼がじゃんけんに負けたとき、掌に滲むように星形の痣が現れたのだ。負けると星がつく。要は黒星がついたということ。いつ海星が彼に憑いたかは分からないけど負けに負け続け、こうしてたくさんの黒星がついて彼の顔面は真っ黒になってしまったようだった。

では勝つと白星がつくのか。残念ながら勝負事に弱い彼が勝った瞬間を見たことがないので確認のしようがない。

それからしばらくして、負け続けた彼は全身が真っ黒になってしまった。だからといって体調が悪かったり、不慮の事故に遭うような不幸もないので、ただ単に負けると黒い星の痣をつける妖怪なのだろう。

今でも彼はひたすら負け続けている。だから私は未だに彼の顔を知らない。

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