<其の一>
中学生の頃、初めて金縛りにあった。
私の部屋は2階の南側で姉と同室だった。
ある夜のこと。息苦しさに目を覚ました私はいつもと部屋の様子が違うことに気づいた。
じっとりと湿った生暖かい空気が、閉め切った窓から流れて身体にまとわりついてくる。身をよじろうとして、身体が動かせないことに気がついた。隣で眠る姉を起こそうとして、声すら出せないことを知った。
試してみようとは思わなかったけれど、多分目を開けることもできなかったと思う。
怖くて、どうしていいかもわからなくて、時間だけが過ぎていく。ふと、枕元に気配を感じた。目は閉じていたけれど、女の人が立っているのがわかった。そしてそれがこの世の者ではないことも理解した。
恐怖で思考が止まった。
どのくらい時間がたったのか…
気がつくと朝だった。
女の人はいなかった。
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<其のニ>
夜寝ていて、気がついたら金縛りになっていた。
私は疲れていたり寝不足だったりしても、金縛りになるので、今回のはその類のものなのかなと思っていたけど違った。
身体が浮き上がっている感じがして、恐ろしくなった私は金縛りを解こうと、動かない身体を動かそうと必死になった。でも身体が浮いて上手くできない。
その内に今度は突然、誰かが私のお腹をグッと押さえつけてきた。
浮いている身体を腹から押さえつけられて、私はもう
吐きそうだった。
しばらくすると身体は元に戻り金縛りも解けた。
これは独身の頃の話。
思い出す度に思う。あれ、誰かにお腹を押さえられなかったら、そのまま幽体離脱してたんじゃないのかなって。
誰が押さえたんだろ?
守護霊?
通りすがりの親切な霊?
それとも私自身?
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<其の三>
二十代前半の頃の話。
寝苦しくて目が醒めたら金縛りになってた。
驚いたのは誰かが私の上に乗っかっていたことだった。
男だった。
気がついたら朝だった。
私は戸締りを調べて、誰かが侵入したあとがないことを確認した。
暫くしてテレビの怖い話で生霊の話をしていた。
ふと思った。
あの男、生霊だったのかもしれないと。
ちょうどその頃、断ったのにしつこく言い寄ってくる男の人がいて、彼からかかってくる電話は無視してた。
もしかしたら彼が生霊になって現れたのかも…軽い気持ちでそんなことを思ったあと、こんどは別な考えが脳裏をよぎって、私はゾッとした。
当時私には大好きな人がいたけれど、浮気ばかりの彼に愛想を尽かし自分から別れを告げた。だが、忘れることができず、苦しい思いを抱えていた。
私も自分では気づかないうちに生霊をとばしていたかもしれない。
そう思うと肝が冷える。
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<其の四>
後ろの家に集まってくるモノが、我が家の二階のトイレの窓から入ってきて、階段を降りて私が眠る一階の和室にやってくる。
この日の夜も布団に入って間もなくそれはやってきた。
何かが階段を伝って降りてきて和室にきた。いつもは金縛りになるが、この日は違った。
何かが首の後ろから入ってきた。
上手く説明できないが、何か、エネルギーみたいなものが、首の後ろからぶつかるように力まかせに無理やり入り込んできた感じがした。
このままだと自分が自分でなくなってしまうという恐怖に駆られた私は、
「出て行け! 出て行け!」
と心の中で叫んだ。
こういう時は、私は何もしてあげられません。と念じるといいって言うけど、私は
それができない。恐怖から逃れたくて足掻いてしまう。
その、エネルギーみたいなモノは私の身体の中で消えた…多分。
他の人にこの話をすると、霊は首の後ろから入ってくるって教えてくれた。
怖っ!
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<其の五>
別な日。
やっぱり上から階段を伝って何かが降りてきた。
ああ、来たな。と身構えてると、その何かは大きな平べったい塊になって、上から私の身体をバチーンと叩いた。
ハエ叩きで叩かれたハエになった気分。
怖いと言うか、複雑な気持ち。
作者國丸
金縛りにはよく合うのですが、一番嫌なのは、呼吸ができない金縛りです。毎回ではありませんが、時々呼吸のできない金縛りに合います。
窒息死はイヤーなんて思いながら、苦しいので必死で身体を動かそうとします。極々たまになんですけどね。