中編4
  • 表示切替
  • 使い方

点滅

長く人間は地球上にいるどの生物よりも優位に立っている。人間は食物連鎖から外れた生物である。そのため死を身近に感じることは他の生物よりも少ない。自分の身に危険が及んでも大事に至るまで気づかないこともあるほどだ。

nextpage

しかし、ふとした時に防衛本能が働いて自分に降りかかる災厄から身を守れることもある。

今回話すのはたまたま防衛本能により身を守れた体験である。

nextpage

友人のAと同じバイトに入ることを決めた。面接も同じ日にする予定だったので2人で事務所へ向かった。バイト内容は工場での仕分けやシールを貼るなどの単純作業だ。

separator

とりあえず事務所に入り受付の人に来たことを伝えた。「担当者は今外出していますのでしばらくお待ち下さい。荷物はあちらのロッカーを使ったら良いので」と言われた。受付から待ち時間を訊くと少し長かった。そこでおれとAはロッカーにカバンをしまい鍵をかけて暇な時間は工場見学することに決めた。事務所のすぐ近くに工場がある。

nextpage

工場というだけあってガコンガコンとレールの音やガシャンガシャンといった機械の音がよく聞こえた。作業している従業員の顔はどれも暗い表情だった。そんな中、何人かはとても楽しそうな表情をしていた。

nextpage

少し奇妙だったからAに「暗い表情のやつと明るいやつがいて気持ち悪いかないか」と聞いた。

Aも「おれもちょうどそう思ってたとこ」と言い続けて「たぶん楽しそうにしてるのは社員だ。他の多くの従業員たちと作業着の色が違う」

確かにそうだった。暗そうな従業員は白の作業着だったが社員らしき人は青だった。

nextpage

パチパチパチンと一つの照明が点滅して消えた。そのあと連鎖的に隣りの照明が消えていき一列だけ綺麗に照明がついていない状態になった。突然、社員の一人が「皆さん、今日はお疲れ様でした!照明が消えましたので見にくくなったことと思います。本日の仕事はここまででお上がりください!」と言った。

nextpage

すると白の作業着のバイトらしき従業員たちはさっきとはまるで違う生き生きとした表情で、工場から引き上げて行った。おれはそこに気味の悪さを感じてAの方を見てそのことを伝えた。Aはそれとは別に気づいたことがあったようで「少し離れた場所で話そう」と言った。

nextpage

工場から少し離れた場所にあるコンビニの前でAの話を聞いた。

「今さっき照明が一列だけ点滅して消えただろ?その後にすぐ従業員を帰らせたのおかしくないか?」

「それはおれも思ったけど、まだありそうだね」

「うん。照明は入り口にいる俺たちの方から見て縦にまっすぐ消えていっただろ?」

「そうだった」

「暗がりから誰一人として出てくる奴はいなかった。引き上げて行ったのはみんな照明がついた明るい場所にいた奴らだけだった」

「!?」確かにAの言う通りだった。

nextpage

困ったことに荷物はロッカーの中に入れたので、取りに戻らないといけない。仕方なく再度事務所に行き中へ入った。いきなり受付の人から「あの。帰られるのですか?」と声をかけられた。「何で知ってんだ?」と思いながらもおれは「荷物を取るだけですよ」と返した。

「それなら良かったです。ここ途中やめにするのは御法度なんですよ」

nextpage

正直、おれはさっさと帰ってしまおうと思っていたので無言で荷物を取り出していたらAが「どうしてですか?」と訊いた。

「工場見学して来られましたよね。たぶんアレを見たから分かると思いますが」

「アレって何のことか分からないんですが。」とA。

「点滅、ですよ。大変なんですよ。私たちも。と言っても実行するのは私たちではありませんが。」

nextpage

荷物はおれもAも取り出していたが、逃げるのは容易ではなさそうだった。受付のお姉さんは片手にオノを持ち、ジッと俺たちの方を見ていたからだ。おれは話をして時間を稼ぎなんとか逃げ出そうと考えた。

A「なんであなたはオノを持っているのですか?実行者は別にいると言ったのに」

パチパチパチパチ!と激しく事務所内の照明が点滅を始めた。

おれは焦って玄関から外に出ようとしたがその手を引っ張ってAは逆方向の事務所の廊下側へ突っ走った。

そのまま緑色のランプがついた非常口のドアを開けて脱出した。

nextpage

(Aとの考察)

落ち着いた後、Aに「どうして玄関から出なかったのか」と聞いたところ。

A「奴は暗いところしか移動できないんだと思った。それなら入り口の照明を真っ先に消すだろうから。たぶんあの女自身は生身の人間で別に存在する霊的なものが殺しをする仕組みだと思う。」

おれ「生身の女がオノでおれたちを殺さなかったのは?」

A「確実じゃないからだと思う。受付にはカウンターがあるし、おれたちとの距離があったから。」

separator

おれ「暗くすれば辺りが見えなくて逃げられ難くなるし、幽霊なら瞬間移動みたいなのできるからか。でも最初から暗くしてなかったのはなぜ?」

A「それはあの女自身が殺されないようにするためだろうな。霊は無差別に殺すんだと思う。工場内で一列だけ点滅させたのも社員を巻き込まないため。だから点滅は人為的なものでその日に殺す相手を霊に指示してると思う。」

おれ「点滅にした理由は?普通電気って一気に消えるよな」

A「霊の性格なんだと思う。バチバチって点滅させて恐怖を煽ってから殺したいみたいな。それか点滅させることで職員が死なないようにするためかも。間違えて職員のいるとこを押したときに逃げる時間を与えるため。」

おれ「じゃあ最後の質問、人を殺す理由は?霊に殺させる理由は?」

A「生命保険に加入させて受取人に会社がなっていた。あるいは会社が生き残るために犠牲が必要。人の命を定期的に与えさえすれば会社は繁栄し続ける契約を悪魔と交わしたとか(笑)」

おれ「実際、霊現象を受けた後だと信じてしまう」

Concrete
コメント怖い
1
4
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ
表示
ネタバレ注意
返信