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長編9
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我が家

友人のタカヒロは見える人だ。

そこそこ見える。

たまに見える。

忘れた頃に見える。

見えるというか体験する。

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レイミの様にずっと見えっぱなしではないだけに、そこそこの恐怖体験をする。

そんなタカヒロから半分愚痴の様に聞いた話。

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俺はタカヒロ。

普通の男だと思っている。だが、俺と俺の彼女、コトミは二人ともそこそこ見える。

見えてしまう。

デートしていても、片方が霊っぽいものを見た場合、お互いに確認しあう。今のは二人とも見えていたのか。そうでないのか。

正直怖い。

俺はたまに見える程度だが、コトミは見える&聞こえる。

コトミはよくデート中に霊の声を聞くらしい。

俺が見えて、コトミが聞く。

そういうことも度々ある。

何よりの嫌なのは俺の家に泊まりに来た時だ。

大概何かが起こる。

変な物音は当たり前、寝ている時天井から視線を感じる。

コトミは寝ている時に廊下を走る音が聞こえるという。

ムードもへったくれもありゃしない。

そんな話を友人達にしたら、ある日みんなでお泊まり会をしようという事になった。

全員24、5歳でお泊まり会とか、どうかと思うが。

それには訳がある。

俺の友人に最近彼女が出来た。

その彼女はレイミさんという子で、それはそれは容姿端麗、ビックリするような美人だ。

だがこの子、限りなく見える!

俺の見えるとか、そんなレベルではない。

友人の一人の顔面のすぐ前に女の生首がへばりついて、ずっとガン付けしているという、そんな事実を爆笑しながら指摘してくる強者だ。

実際俺が見たものが見えているので、信じざるをえない。

そんなレイミさんにも我が家に来てもらい、色々見てもらおうという寸法だ。

勿論彼氏である友人の□にも泊まってもらう。

バーターとして、友人のユウジとその彼女のチカちゃんも参加するという話になった。

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当日、みんなで夕食を食べに行く。焼肉食べ放題が良いというレイミさんのリクエストにみんな賛同し、

美味しくいただいた。

そしていよいよ我が家へ、自慢するわけではないが我が家は普通の家のサイズより相当でかい。みんなで泊まろうとなったのもそれが理由だ。父親は勤務医であり、母親は薬剤師。

俺も夜勤のある看護士をしている。

家庭全収入はかなり多いといえるだろう。

□やユウジからはよく「金持ちのボク」等とからかわれる。

とにかく人数が多ければ多いほど今夜はたすかるのだ。

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みんなでリビングでお酒を飲む。

□とチカちゃんはこれが目当てだろう。

ユウジは酒が飲めない。レイミさんは照明や置物を見て回って何やらはしゃいでいる。

俺とコトミも嫌いじゃないので、そこそこ飲む。

そこへ俺の母親がケーキを持ってきた。

近所の有名な菓子工房のケーキ。これがこの街では中々の贅沢品である。

女子達が一斉に群がり、その眼差しは肉食獣の目の様になっていた。

ユウジはそわそわと落ち着かない。中でも一番の霊嫌いなのだ。

帰りたそうな空気をビシバシ感じる。何故来たのだろう。

□とレイミさんは仲良くケーキを食べさせあっている。

仲睦まじい事だ。少々見せ付けすぎな気もするが。

まぁ、いい。俺の目的はレイミさんにこの家にいる何者かの正体を暴いてもらうことだ。

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リビングで酒盛りをし、歓談を楽しんでいるうちに夜もふけた。

気付けば深夜2時。

俺の経験上、そろそろコトミが音を捉えるはず。

□とユウジはアホみたいな顔で寝入ろうとしていた。

チカちゃんはまだ酒をあおっている。鬼強い。

レイミさんはその美しい顔に赤みが見え、余計に怪しい色気を醸し出していた。しかし、

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何故かキョロキョロしている。

もう何か見えているのだろうか。

コトミは一点を見つめ出した。これは聞こえ始めている合図でもあった。

コトミに声をかける。

コトミ「後ろの廊下から歩いている音が聞こえる…」

不安げに呟いた。

俺はレイミさんの方を見た。

レイミさんは□の寝顔をみて微笑んでいた。

こちらの視線に気付いたのかレイミさんは聞いてきた。

レイミ「ごめんねぇ。私、聞こえは悪いの。きっとコトミちゃんの方が聞こえるんだろうね。」

「でも、確かにいるね。いるというか、出入りが凄い。通り道なのかも。」

聞いたことがある。霊道といったか、何だったか。

霊には霊の通り道があるらしい。詳しくは知らない。

だが、我が家が通り道だとするならば、解決のしようがないじゃないか。どうすれば良いのだろう。

レイミ「ごめんねぇ。何がいるとかは決まってないみたい、ただみんなが通りやすい空間があるんだろうね。でもこの家全体に悪い感じのものはないよっ。大丈夫。安心してね。コトミちゃんも。」

レイミさんが明るく説明してくれた。

何故だかこの人の言葉には重みと説得力がある。

声に芯が入っている様な感だ。

か細く、女性的な声なのに。

不思議である。

コトミ「そっか、じゃあ聞こえてても大丈夫なんだ。何か本当に安心できる。レイミちゃんって凄いなぁ。」

「人を安心させる何か持ってるよねぇ。」

コトミも俺と同じ事を思ったようだ。

よほど沢山霊が通っているのか、レイミさんはまだキョロキョロしている。

気が付けばチカちゃんもスヤスヤ寝入っていた。

そのまま俺とコトミ、レイミさんは朝まで起きて他愛もない話をした。

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朝7時。□とユウジとチカちゃんが打ち合わせをしたかの様に、続けて起きてきた。

俺は何か朝食代わりになる様なものがないか、キッチンに降りた。キッチンには母からの置き手紙で、

「ごめんね。お友達と朝は適当にみんなで買ってね。」

と書いてあった。

わざわざ言われなくても、これだけ大人が集まっているんだから、心配しなくても良い。

母は少し子離れするべきだ。

俺は置き手紙を友人達に見られるのが嫌だったのですぐさま隠した。

程なくして皆がゾロゾロ降りてきて、お腹減ったー。と口を揃えて言う。

お前ら子供かよ。

朝御飯を近くのコンビニに買いに行くことになった。

玄関から出る。

レイミさんは朝から元気だ。いの一番に外に出てはしゃいでいる。

レイミ「ウチは朝からでもファミチキ食う人やでー!!」

□「今そのワード聞くだけで重いわぁ。。。」

ユウジ「はぁー。俺何食おうかなぁ。」

チカちゃん「朝からコンビニで食べるって、学生の時以来やわぁ。」

それぞれが好きに言葉を発しながら歩く。

レイミさんが我が家には悪いものが憑いていないと言ってくれたので、余計に朝が清々しくかんじた。

コトミも心底安心していたようで、我が家で過ごしてきた中でも今朝が一番スッキリした顔であった。

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するとレイミさんは先頭だったが、突然振り返り我が家の方、正確には我が家の2階に向けて手を振った。

全員それをポカンと見る。

レイミ「タカヒロ君、妹さん可愛いね。何人いるの?お父さんお母さん大変だねぇ。」

おかしい事を言う。

すかさず□が突っ込む。

□「タカヒロにはお姉さんが一人いるだけだぞ?何言ってるの?」

レイミ「でも4人くらい7歳くらいの女の子が昨夜家の中走り回ってたよ?可愛いなぁって思って……。

ほら、今でも2階から手ぇ振ってるやん。」

ユウジ「タカヒロには姉しかいないし、結婚しててもう家にはいないよ。女性は母親しかいない。」

レイミさんはハッとしたように状況に気付いた。

レイミ「あー…ごめんなさい。あの子らも通りすがりだったのか…。みんなごめんね。通り道だからね。」

とテヘペロ、みたいな感じで詫びる。

ユウジ「タカヒロ、ビビってんじゃねーよwコトミちゃんの前でカッコわりーぞwそれはそうと、俺急に用事思い出したから、チカ連れて帰るわ。」

ユウジは突然携帯を取り出し、

テンキー上の丸いボタンをカチカチと連打している。

手前に停まっていた自分の車に携帯を向けていた。

□「それ、キーレスじゃなくて携帯な。」

ユウジはハッとしたように携帯をポケットにしまう。

いや、お前が一番ビビって動揺してんだろクソが。

それでも安心だ。

レイミさんが教えてくれた。

ただの通り道であって、感じるのは悪い霊ではない。

俺もコトミも安心した。

だが、まだ少し怖いのは事実。

そのうち二人で同棲するために部屋を借りよう。

やはり、この家にはもうそんなに長く居たいと思わない。

そう決意しながら、みんなで朝食をとる。

昼前ごろには、昨夜寝ていない俺もコトミも流石に眠くなった。

同じく寝ていない筈のレイミさんは、依然元気である。

□「お前ら二人、超眠そうだし。俺らはもう帰るとしよう。」

俺の調子を察してくれた□が皆にそう言った。

一同は帰る支度をして、解散することになった。

俺「じゃあな。俺とコトミはちょっと眠ることにするわ。」

□「邪魔したよ。また明日な。」

レイミ「めっちゃ楽しかったよ。お父様も、お邪魔しました。」

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レイミ「………っ…」

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レイミさんが他にも何か言ったような気がしたが、

うまく聞き取れなかった。

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しかし父親によろしくって。

父親なんて、昨夜から今も、家に居なかった筈なんだけどなぁ。。。

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【ここからはレイミ談】です。

レイミはあの日家に帰ったあと、体調を崩した。

朝からファミチキ2個も食べたら大概気分が悪くなる。

というのは冗談で、どうもタカヒロの家は相当レイミと相性が悪かったらしい。

レイミはタカヒロとコトミがあまりにも不安そうだったから、中々の嘘をついて安心させたという。

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レイミ「いやぁー…参ったねぇ。ウチ久しぶりに気持ち悪い霊を見た気がしたよ。悪い霊は確かに居なかった。けど生き霊が凄かったの。」

俺「またそれかよ、ってかただの霊の通り道じゃなかったっけ?」

レイミ「ごめんね。通り道じゃない。その逆よ。溜まりやすい所だったの。相当強い場だよタカヒロ君のお家。朱里姉さん連れてきた方がいいと思う。」

朱里姉さんとは、レイミをやたら可愛がっていて、アホみたいに腕の良い占い師だ。

霊感の様なものが有るにはあるが、見えすぎる訳でもなく、聞こえすぎる訳でもない。

干渉するのが得意でそれが専門の様だ。

依然ユウジを連れて生首ガン付け女を【起点】とかいう場所に祓ってくれた人である。

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レイミ「ウチ、あの二人に霊道の説明で安心させた後くらいからまったく記憶ないねん。ってかずっと寝てた筈なんだけどなぁ。昨夜あの二人、誰と話してたんやろ?」

あの二人は朝までレイミとお話をしていたと言っていた。

それはレイミではないのだ。

レイミは続ける。

レイミ「あの家に入った瞬間、息が苦しくなるほど密集を感じたわ。あそこには強烈な何かがいる。土地なのか家なのかは分からないけど。」

「あと帰るときタカヒロ君の肩に手を乗せているおじ様がいたの。」

「お父様かなって思ったけど、次の瞬間タカヒロ君の身体に入ろうとしてた。悪い生き霊だよ。あれ。

私、気をつけてっ!って叫んだけど、家に密集してる生き霊の塊にかき消された気がしたの。」

どうも聞くと、確かに悪い霊は居なかったらしいが、

レイミが言うには生き霊の家族が住み着いているという。

生き霊に家族があるのか?

そうではなく。

どこかの家族全員が生き霊として、あの家かあの家の誰かに強い念を持っているのだとか。

レイミは昨夜、しばらくその生き霊達に威嚇されまくっていた。朝も息苦しかったために、いち早く先頭で家から離れたかったと。

私はもう離れますという意思表示で手を振ったりしてたらしい。

何よりレイミが堪らなかったのは、一番奥の部屋から一晩中睨み付けてくる生き霊がいて、凄まじい力を感じたという。

そして先ほど述べた通り、レイミはプレッシャーに疲れ、二人を安心させたあと間もなく寝たという。

その後、あの二人が朝まで過ごした「レイミの様なもの」はなんだったのだろう。

医者、薬剤師、看護士、家族全員が病院勤務。

何か関係があるのかもしれない。

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お泊まり会で自分が話している相手が、本当にその人なのかどうか。

我々に確認する術はないのだ。

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